まるで子どもな田中麗奈のハードボイルドな人生。映画『がんばっていきまっしょい』を観たら
ちょっと変わったこのタイトルは知っていましたが、どういう映画かは知らないまま生きてきました。なんとなくコメディかな、とまで思ってました。
アニメ版映画が公開になるからでしょう、NHK BSで放送していたのを録画して鑑賞しました。
1976年春。
ひとりの少女が西日でギラギラした海を見つめています。
視線の先には逆光の競技用ボートが一艇、海面を滑るように進んでいます。
海を見つめていた少女悦子(田中麗奈)はその翌日高校へ入学。その高校は進学もスポーツも高レベル(同じ高校を卒業した悦子の姉は京大生)ですが悦子はギリギリ入学組みたいです。家庭も含めて悦子を取り巻く状況がわかるようになってます。ゆるゆる進んでいるように見えてここまでの情報量はなかなか多いです。
感じ悪い教師に感じ悪いこと言われてむしゃくしゃしたりもしますが、
「ボートってなんかええなぁ」
とボート部に入部しようとしますがボート部に女子部はありませんでした。とりあえず男子に混じって練習することになりますが、そこに現れたのが幼馴染の男子関根ブー。
ブーもボート部に入部したのです。しかもボート経験者。
悦子さん、ブーのことが気になるみたいです。
お互いに意識していてそれだけに「男子女子」みたいな壁が高そうで、こういうとこ、いつも目の前にそんな壁があった私にはなんか切なくなっちゃいます。
で、女子部員をなんとか集めていくのですが、みんな最初は
「お母さんに運動部はやめろって言われてる」とか、
「あたし、体力ないし、家庭科ぐらいが似おうとるんよ」
とかそんな反応。なんかこの辺のやりとりも愛おしい。
新人戦まで(つまり一回だけ試合に出るまで)という約束でようやく五人揃えましたが、最初の練習で先輩男子に、
「運動部の経験ある者は?」
と訊かれますが五人とも無言。悦子さんも運動部の経験がなかったみたいです。
という五人がなんかずっこけ感も漂わせつつも練習を重ね、ここまでとの約束の新人戦に出場し、「どこかには勝てるんじゃない?」とか言ってたけどやっぱりドベ(最下位)。
そして、
「このままじゃ終われんな」
というスポ根的胸が熱くなる展開になりはするのですが。
スポ根路線の感動のツボを微妙にズラすっていうか、こっちに振ればスポ根的感動があるっていう方向には向かわず。
高校生女子の女子っぽいエピソードもあり、せっかく頼んだコーチもなんかやる気ない感じだったりでゆるゆると進んでいきます。
ゆるゆると進んでいきますが、そんな中でもスポ根的温度もゆるゆると上昇し、クライマックスはしっかりスポ根的な情動に昇っていきます。でもなんか標準体温を出ない範囲だったりします。
やる気のないコーチは中嶋朋子なのですが、ボートでかなりの実績のあった人で、それだけにこのゆるゆるした五人を指導してどうなるんだという虚しさも感じてるみたいです。ここでがんばってボート漕いでそれであんたらどうなるの?みたいな。冷たい人ではないのですが自分も悩みや迷いを抱えてる大人なんですね。
そんなこんなのいろんな味がいい具合に混じって、全体として上品に仕上がってる感じの映画でした。
ボート部でも女子でも四国松山出身でもない私ですが、高校生頃の自分を取り巻いていた空気みたいなものを感じさせてくれました。悦子を目の敵のように扱う感じの悪い教師が出てきますが、「あーいたいたこういうものの言い方する教師」って思いました。この「嫌な教師感」って全国共通なのかもしれません。
アニメ劇場版はどうなんでしょう。この実写映画では若い役者さんゆえのぎこちなさみたいのが良い効果になっていたと思いますが、アニメは全体をコントロールするものですからね。スポ根方向に振り切るとかしたほうがいいかも、とか思いました。でもそれじゃもう『がんばっていきまっしょい』じゃないですね。