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secret 秘密の捜査 #序章

序章

この世には、たくさんの秘密が溢れている
私にも秘密がある。それは、誰にも理解できない世界を揺るがす大きな秘密であり、決して知られてはならない。

夜の繁華街。ネオンが反射する路地裏に、雨が降り注いでいる。大都会東京で、誰の目にも触れぬよう、ひとりの男が傷を負いながら逃げ続けていた。ハードケースを抱え、携帯電話で誰かに連絡を取ろうと必死だ。「くそっ!」画面が割れているせいか、上手く繋がらず、男は苛立ちを隠せない。額から血が流れ、手元が震えて携帯の操作もままならない。男は走りながら細かく路地を曲がり、大通りへの道を探していた。

すると突然、何かの気配を感じ取り、男は集中する。耳には車の音、信号機の警告音、救急車のサイレン、人々の話し声が入り混じる中、男は自分に迫る確かな気配を感じ取った。

「ちくしょう!もう追ってきやがった」男は吐き捨てた。焦りながらも迷路のような路地を抜け、やっと人混みの多い大通りが見えてきた。ほっと一息ついた瞬間、男の左太ももに一発の銃弾が撃ち込まれた。

男はハードケースを落とし、傷口を押さえながら前のめりに倒れ込んだ…。

周囲には誰もいない。落としたハードケースに手を伸ばした途端、右腕に二発目の銃弾が撃ち込まれた。痛みと出血で腕の力が抜け、すべてが一瞬の出来事だった。

気がつくと、ハードケースを大柄な男が片足で踏んでいた。「佐野さん、動かないでください」と声が聞こえ、その後ろからもうひとりの男が歩いてきた。小柄なその男は、どこか余裕の表情を浮かべながら喋り出した。

「やっと止まってくれましたか。あなたを追跡するのは骨が折れます。こちらもそれなりの人員を動員しなければならないのでね」

「どういうことだ。俺はお前たちの位置を確実に把握していた。それなのにお前たちは俺の行く先に現れた」佐野が小柄な男に問い返す。

「あなたが秘密を持つように、こちらにも秘密を抱えた人間がいるのですよ。あなたが簡単に把握できないところから、あなたを探しました」

「あなたの秘密は厄介ですが、こちらも人員を惜しまず投入しました。もう諦めて下さい」小柄な男は挑発的に佐野へ言葉を放つ。

佐野はすかさず反論する。「この日本が進む未来に、お前たちは不要だ。組織の行いを世に知らしめ、罪を償わせる。そのためなら、俺の身体がどうなっても構わん!」

次の瞬間、佐野は懐から拳銃を取り出し、小柄な男に向けて引き金を引こうとした。しかし、その瞬間、大柄な男が佐野の腕を掴み、脇腹に蹴りを入れた。

佐野の身体は4メートルも飛ばされ、電柱に激しくぶつかった。背中に強烈な痛みが走り、なんとか立ち上がろうとするが、大柄な男は驚くべきスピードで距離を詰め、佐野の首を掴み、片手で高々と持ち上げた。

口から血をこぼしながら佐野は呟く。「なんだこの動きは。強化型なのか?ありえない。まだ生まれるはずがない…」

小柄な男が近寄り、言葉を返す。「あなたが考えているよりも、我々は遥か昔からこの国のために日夜努力を続けているのですよ。この国のためなら、私たちは人の道だって外れる。あなたとは分かり合えると思っていましたが…残念です」

次の瞬間、佐野の胸に三発目の銃弾が撃ち込まれた。そして、雨が降り続ける路地裏に、佐野の身体は投げ捨てられた。胸からの出血がひどく、もう助からない。薄れゆく意識の中、佐野は幼い娘の顔を思い浮かべながら目を閉じた…。

そんな佐野のもとに、小柄な男が歩み寄った。「佐野さん、あなたが知ってしまった秘密は、この先誰にも渡さない。あなた方警察の人間にこの国の将来は守れませんから」こうして二人の男は佐野のハードケースを回収し、夜の街へと姿を消した。

二日後、東京はまた雨が降っていた。

場所は変わり、一人の少女が葬式会場で佇んでいる。目の前には大きな祭壇があり、遺影が花々に囲まれている。周囲には警官の制服を着た者が多く、亡くなった人物が警察関係者であることは、参列者でなくとも理解できる。

「佐野葵(さの あおい)ちゃん?」と、一人の警官が少女に声をかけた。振り向いた少女に向けて、「お父さんの同僚の新垣聡志(あらかき さとし)です」と警官は自己紹介した。

「どうも。父がお世話になりました」少女は疲れた表情で答えた。

警官は少し深呼吸をして切り出した「君のお父さんの仇は俺が絶対に取る。だから、君は自分の人生を生きろ。お父さんの後を追ってはいけないよ」

「私は大丈夫です。いつも1人でしたから、、、」葵は目線を合わせることなく、静かに言い返した。

2人の周囲では、参列していた親族の話声が聞こえる。「葵ちゃんお母さんも早く亡くなったのに、お父さんまで、、、しかも殉職するなんて」

不幸を心配しての話声であることは、普通の人間なら理解できる。
でも葵は同情されるほど不幸を感じていないように見える。聡志は葵の頭に軽く手を置き、「理解出来ないことかもしれないけれど、お父さんは、ずっと君のことを思っていたよ。これだけは忘れないで欲しい」

そう言い残し、聡志は斎場を後にした。その瞳には、何かを決心したような強い意思が宿っていた。

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法治国家である日本で警察官が銃撃され殉職した。このニュースは連日、全国的に報道されたが、解決に至らず、未解決事件として取り扱われるようになった。

そして、この事件は数年後、とてつもない大きな事件へと繋がるきかっけに過ぎなかった。

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