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《青に溶け、青を溶かす 〜はじまりの港〜》松井琉成 作曲
深く息を吸う。
漠然とした広い青に溶かされるような。
ゆっくりと息を吐き切ることで、そんな脱力感を得る。
「あぁ、今日も良い海だ」
滅多に荒れることのない穏やかなこの港で、
私は、どれほどの時間を過ごしただろうか。
何万隻の船を見送っただろう。
何万隻の船を迎えただろう。
不思議なことに、船の大きさと思い出深さは、比例しないらしい。
私が最初に見送った、あの白い帆の小さな一艘を忘れることはない。
汲み上げられようとした私の懐古の情は、
今、規則正しいエンジン音に掻き消されてゆく。
青に溶けた私の記憶を、また青に還そう。
水平線に向かう風が吹き始めた。
カモメの鳴き声と、やさしい陽射しが空から降り注ぐ。
深く息を吸い、吐く。
「あぁ、今日は良い海だ。船出にふさわしい」
(作品タイトル &物語 河野寛子)
この作品は神戸港を訪れた際に、ふとチューバの音で流れてきた音楽、それもとに創作した曲です。
青い海に浮かぶたくさんの船と自分との「距離感」や絶えず打ち寄せる「波」を描いた叙景的な作品です。
3拍子に聴こえる4拍子が波の不規則さをあらわしています。
この作品は同郷のチューバ奏者、北島侑さんのために作った曲であり、作曲に際しては、彼の人柄も大いに反映されています。
2023.7.23 初演作品