やっとここに来れた。春のおすそわけ
春が、来た。
今年の1月は寒かったので、暑がりが過ぎるさすがの私も、陽射しがあたたかな日は心が明るくなるような2月をすごしていた。
毎年、2月と3月は忙しくて、1日10時間くらいパソコンばかり見ていた。
性格的に閑散期よりはマシで、こなす仕事がいくらでもあるほうが良かったが、静かな空間がないと耐えられない自分にはつらい時期でもあった。
お花見も、桜が咲くのが遅い年なら間に合うけれど、3月中に満開になると電車の中からしか見られない。それか、昼休みに公園に寄る程度。
辞めたい気持ちも募っていたせいか、去年、昼休みに花屋の前を通ったら勝手に涙が出てきてしまって驚いた。自分の中の何かがおかしくなっているのだと思った。
こんなに美しいものが、世の中にはたくさんあるのに。
パソコンより、もっと綺麗なものを見て生きていきたいな。
ぼんやりと、そう思っていた。
去年の春は緊急事態宣言のせいか、どこにも行けない気持ちが、無意識に日常の景色を慈しむようにシフトした人が多かったのかもしれない。
毎年素通りされていた、駅前に植えられた花壇のチューリップの前で、足を止めている人たちが目についた。
たとえパソコンばかり見ている毎日でも、無機質な画面のその先に、だれかの世界をあたたかくするような何かをつくっているという道が見えているのなら、たぶんそれでよかった。
自分の仕事はそうではなく、AIのように、ただ正確にこなせればいい。心を込める相手は、画面の先にはいなかった。それがひどく苦しかった。
♢
淡路島に、明石海峡公園という地上の楽園がある。
こころの疲れを自然で癒すようになり、春と秋には必ず行きたいと思っている場所だ。
我が家からは、混んでいなければ高速で1時間ほど。どちらかというと都会が好きだった自分が、こんなに早く(30代で)自然に癒される人間になるとは思っていなかった。
この時期は、いつ行ってもその時期に咲く桜がお出迎えしてくれるらしい。
もう少ししたらチューリップも満開になる。
雲ひとつない晴天。やっと来れた。去年の繁忙期の疲れも、ここでまとめて癒してきた。
いくつかのベンチには見慣れぬ人形が座っている。頭の上に花をのっけて、ソーシャルディスタンスを訴えかけてくる。
現時点では何かに疲れているわけではないけれど、こんなに広く、人も少ない場所で海と花に囲まれていると、知らぬ間にたまった毒素が抜けていくのを感じる。
本当は3月末くらいの平日に来たかった、が、その日が晴れる保障はない。チューリップも桜も満開ではないけれど、午後の入園ということもあってか人がほとんどいない。
独り占めのベンチに腰かけ、今日きてよかったなぁと、一週間分くらいの日光を浴びる。
タイミングなのか、花を植えたりと作業中の職員さんを多く見かけた。心の中で、たくさん感謝した。
そして、うらやましい、と思った。
暑かったり、寒かったり、腰が痛かったりすることもあるのだろう。でもこのひとたちは、この作業の先に、たくさんの人へあたたかくて美しい何かを届けてくれているから。
今年もお花見すら控えるように言われているけれど、人間、たまには花くらい見ないとさ。
いきなり涙が出てきたら、もう遅いんだよ。
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