“葛藤”しなくていい!? シナリオの葛藤メソッドをアップデートしたい/シナリオライター12年生の頭の中
本日のまとめ!(いきなりおいなり)
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シナリオライター12年生のしむらです。いろいろ書くシナリオライター。とにかく作るのが好き。パンダも好き。レッサーパンダも好き。
そんな私、今日はそろそろ白黒ハッキリさせたいというか言語化しておきたいことがあって、noteの編集画面に向かっています。
本日の主役:「シナリオには“葛藤”を持たせましょう」メソッド!
ドラマでもゲームでもアニメでも、「シナリオ制作」について学んだことがある方なら、一度は誰かに(または何かしらの本で)、こう言われたことがあるんじゃないでしょうか。
「シナリオには“葛藤”をもたせましょう!」
「キャラクターには“葛藤”をもたせましょう!」
って。
私が“葛藤”という言葉をシナリオライター脳に深く深く刻みこんだのは、5年ほどお世話になったシナリオ学校「シナリオ・センター」でのことでした。(様々な講師の方に出会い、シナリオの基礎を学ばせていただきました。本当にお世話になりました!)
「面白いシナリオには“葛藤”があります」
「ドラマとは“葛藤”です」
「キャラクターをすんなり前進させてはいけません、“葛藤”させましょう」
だいたいこんな感じで教わって参りました。
突然ですが、みなさんに質問です。
"葛藤”という言葉にどんなイメージを持っていますか?
つらそう?
苦しそう?
もんどりうって「あー!うあー!」とか叫んでそう?
多くの方が“葛藤”という言葉に抱くイメージを調べるべく、私はTwitter(X、いやTwitter)にて次のようなアンケートを取ってみました。
その結果。
みなさん圧倒的に②、ついで①④という結果となりました。
③は0票、完全にスルーされました。
私の旦那氏にも、↑のいらすとやさんイラストを見せて答えてもらったのですが。
旦那氏「④」
●ェ●) <なるほど。んじゃ更に質問なんだけど、③についてどう思う?
旦那「③は“葛藤”じゃないでしょ」
実はこれ、③も“葛藤”なんです。
画像③を真っ先に思い浮かべたという方は1人もいませんでしたね。それが普通です。さもありなん。
私の旦那に至っては「“葛藤”じゃない」とまで全否定されてしまった③。
この③の“葛藤”イメージを、以後、便宜上「対立」と呼ぶことにします。
実は「シナリオには“葛藤”を持たせましょう」メソッドの“葛藤”は、どっちかっていうと、この「対立」の意味合いが強いようなのです。
しかしながら、多くのシナリオ初学者さんは、「シナリオには“葛藤”を持たせましょう」メソッドを教わったとき、
“葛藤”という言葉の一般的なイメージに引っ張られて
誤解をするんじゃないだろうか?
と、私は兼ねてから思っているんです。
なぜなら私がそうだったから。
ライター人生の半分くらいは、次のような誤解したまま過ごしていましたから!!
>ェ<)ノシ <なるほど葛藤ね! じゃあ、キャラにはAという感情を持たせるけど、それと相反するBという感情も伴わせて、AとBの間で“悩まれば”いいんだな~! よ~し!
●ェ●)ノツ)゚ェ)゚ < 違う、それだけじゃない。
シナリオを学び続けるうちに、私は“葛藤”という言葉が隠し持つ意味(=対立)を見逃し続けていたことに気づきました。
もちろん「キャラクターに(内面的な)葛藤をさせよう」も、メソッドの言わんとすることには含まれているんですが、
「とにかく何かと何かが“対立”する要素を道筋に置いておくと、お話が面白くなるよ!」
ということを、この“葛藤”メソッドは伝えたいようなのです。
「“葛藤”をもたせたのにシナリオが面白くないと言われた…」という相談を何度も受けた
私はこれまで、次のような相談を複数のシナリオライターさんからを受けたことがあります。
某シナリオライターさん
「学校では“葛藤”を持たせろって言われたけど、仕事ではクライアントから『このキャラに“葛藤”させると面白くないので“葛藤”させないでください』って言われちゃって…もうどうしたらいいかわかりません…」
●ェ●) < Oh…
当時は私も“葛藤”メソッドの真意を正しく理解していなかったので、うまいお答えができなかったのですが(めちゃくちゃ悔やまれる)
今思うと、これも彼女が「“葛藤”には“対立”という意味も含まれる」ことを知らなかったから起きたことなんじゃないか、と思っています。
キャラクターが迷ってなくても“葛藤”になる
ここでひとつ、それっぽいシナリオで例え話をしてみましょう。
この物語の主人公は、地元民に恐れられるコワモテのヤンキーくんです。
ところが彼、お年寄りや小さな子どもにはめーーーちゃくちゃ優しい。
「ああ、それっていわゆるギャップ萌えってやつでしょ?」
と思ったあなた。
そうです大正解。
加えて私は、これを“葛藤”メソッドに則って設計した立派な“葛藤”のひとつとも捉えます。
この図を見ればわかるとおりですが、「ヤンキー(=怖い)」と「優しい」は正反対、まるで対立する言葉ですね。
言葉同士が対立=“葛藤”しています。
つまり、
ヤンキーくんはアイデンティティに「対立=“葛藤”」を内包する、“葛藤”の権化!
歩く葛藤、食べる葛藤、しゃべる葛藤…と、言えるのではないでしょうか。
さて。そんな葛藤の権化くんに、作者である私からちょっとした質問をしてみましょう。
●ェ●) < ねえねえヤンキーくん。君はどうしてそんなナリをしてるのに、優しい性格なの?
ヤンキーくん
「あァ!? ざっけんなテメェ、ババア大事にすんのは当然だろォが!? 理由なんかねェよ!!」
●ェ●)。o(かっこよ)
ふむ。どうやら彼の優しさは、彼生来のもののようです。
彼は今のところ自分のあり方に、特に「迷い」や「悩み」は持ってはいなさそうに見えます。
イイネ、かっこいい。
ただ、本人は迷っていなくても、彼を取り巻く人たちは、そんな彼の生き方に言いたいことがあるかもしれません。
クラスメート
「うわっ、ヤンキーだ。あいつに目ぇつけられると面倒だから行こうぜ」
お母さん
「あんたいつまでも周りに迷惑かけてないで、まともになりなさい!」
こうしたリアクションが時には軋轢を生み、対立を生み出すこともありそうですね。
…対立?
おお、ここでまた対立=“葛藤”が生まれました。さすがは歩く“葛藤”ヤンキーくん。生きてるだけで周囲に対立=“葛藤”を生み出してしまうようです。
更には、こんな事件が起こることもあるでしょう──
大変だ! クラスメートの財布がなくなったぞ!
ヤンキーくんのことを目の上のたんこぶみたいに思っているイヤ~な教師が「どうせお前が盗んだんだろ!!」とまっさきに疑ってくる
潔癖を証明しないと退学のピンチだ!
ここでもまた、イヤ~な教師との対立=“葛藤”が生まれています。
さて! ここで作家の視点に戻りシンキングタイムです。
このような事件において、シナリオライターは主人公ヤンキーくんを、どのように動かすべきでしょうか?
もちろんシナリオが面白くなるように・キャラクターが魅力的になるように動かさなくてはなりません。何においてもこれは最優先事項。
シナリオライター
「うーん。キャラに“葛藤”を持たせたほうがいいって言うなら…もうこんなことで疑われるのやだし、まともになったほうがいいのかなぁ…ってな感じで“葛藤”させたほうがいい?」
うーん…なんか違う!!(と私は思う)
ここでヤンキーくんを「迷わせて」「悩ませて」しまうのは、余計な葛藤であると私は感じてしまいます。
なぜなら、私は自分のあり方に迷いを持っていないヤンキーくんを「かっこよ!!」と思ったからです。
“葛藤”メソッドを守ろうとするあまりに、彼に無理やり“悩み”“迷い”という意味での葛藤をもたせる必要はないと感じます。
それに、
“葛藤”メソッドなら、ここまででもうじゅうぶんに活かしてきたではありませんか。
彼はアンデンティティに対立=“葛藤”を内包するミスター・葛藤であり
周囲に対しておのずと対立=“葛藤”を生み出してしまう
“葛藤発生装置”としての機能を果たしてきたのですから!
つまり何が言いたいかって言うと、
“葛藤”メソッドを活かそうとするとき、
キャラクター自身が必ずしも悩んだり、迷ったり、苦しんでいる必要はない!!
って言いたいのです。
キャラが抱える“葛藤”を見た読者が「かっこいいけど、それって生きづらいだろうなあ」という対立=“葛藤”を感じとったり
キャラがそのへんを歩いているだけで新たな対立=“葛藤”を生み出してくれさえすれば
“葛藤”メソッドが伝えたかったことは、もう十分に再現できていると思うのです。
ちなみに先の「“葛藤”を入れたら面白くないと言われた」シナリオライターさんは、女性向け恋愛シミュレーションに登場するイケメンくんのシナリオを書いていたそうです。
おそらくですが、彼女がNGを食らった原因は、「迷わないことが魅力」であり「すでになんらかの葛藤を体現している・生み出している」イケメンくんに対して、
悩み・迷いという意味での“葛藤”を
葛藤メソッドを守ろうとして無理に持たせてしまった
ためなんじゃないかと考察しています。何よりもキャラの「かっこよさ」が売りのコンテンツですから、さもありなん。
……ところで。
「シナリオには“葛藤”をもたせましょう」の葛藤は“葛藤”という表現のままでいいのか?
ようやく本題です。今日、私が言いたいことはコレに尽きる。
先のアンケートや、マイダーリン氏の「③は葛藤じゃない(どーん)」というどストレートな回答からもわかるように、こんにちにおいて“葛藤”という言葉は、
自分の心の中で起きる、内面の対立
苦しいこと
つらいこと
というイメージのほうが圧倒的に強いようです。
“対立”どこいった?
“葛藤”メソッドは、今のままだと“葛藤”という言葉が持つ一般的なイメージに引っ張られて、シナリオ初学者さんの間で「何がなんでもキャラを悩ませろ迷わせろ」という誤った意味で伝わってしまうような気がしてならぬのです。
かつての私や、イケメンくんのことで相談してきてくれたライターさんがそうだったように。
言葉とは植物のようなでものある、というのが私のイメージです。
新しい言葉が芽吹くと、言葉は枝葉を伸ばして新たな意味を増やすことがあります。逆に、気づいたら一部の意味が枯れてしまい、抜け落ちて失われていたりします。
もともとあった意味が失われて、残った一方の意味だけが知られるようになるなんてのもザラにある。
…“葛藤”という言葉が置かれた現状って、まさにこれでは?
ゆえに。
私はシナリオ初学者の方に“葛藤”メソッドを伝えるとき、その真の意味や「“葛藤”には対立という意味が含まれる」ということをキチンと伝えていかなければならないな、と思うのですが、
それ以前に、
このメソッド対して「言葉のアップデート」が必要な時代になってんじゃないか?
とも思うわけです。
「シナリオには“葛藤”を持たせましょう」
↓
もう言葉が古いのかもしれない
↓
求むアプデ!
というのが今日の主訴(主訴。
んでは、具体的にどうアプデしたらいいんでしょうか。ぜひどなたかに考えて欲しいところですが、言い出しっぺの法則にのっとりまして、しむらなりアプデ案を考えてみました。
コレなんてどう?↓↓↓
シナリオには常に“逆向きの力”を働かせましょう。
「逆向きの力」
今んとこ私がいちばんしっくり来てるのは、これです。
なんというか、まさに↑の絵のとおりで、
シナリオ中に◯◯◯という感情・目的・その他もろもろが存在するのに対し、それとは真逆の×××という「逆向きの力」を働かせることを常に意識する
みたいなことを言いたいのです。
具体例!
主人公は◯◯◯になりたい。でもそれとは逆の×××になっちゃった!
主人公は◯◯◯したいと思うのに、やむにやまれぬ事情で×××してしまう
主人公は◯◯◯という面を持ちながら×××という面を持つ(でも当人はそのことについて特段気にしていない。代わりに、自分の周囲に様々な「逆向きの力」を引き起こしてしまう結果に。ヤンキーくんのこと)
主人公は状態を◯◯◯にしたい。でもなにやっても×××になっちゃう!(けど、まあなんだかんだでうまくやって解決する)
世界は◯◯◯という方向へ向かっている。しかしそれとは真逆を目指す×××という存在が現れた!
こんな感じ。
“葛藤”メソッドが伝えたいことは全部再現できてるんじゃないかと思うんですが…どうでしょう?
まとめ
というわけで、前々からずーーーっと思ってたことを、ようやく言語化できた記事になります。はーすっきり。
た・だ・し
シナリオ業界のお約束として、対立=“葛藤”という表現で通じているところはあるので、なんやかんや今後も“葛藤”という言葉は使い続けるとは思います。
だって言葉は伝わらなきゃ意味がないもの。
し・か・し
私がシナリオ初学者の方に“葛藤”メソッドをお教えするときは、「迷わせ・悩ませるんだなよーし!」と早合点されてしまうような説明に終止せず、補足的な感じで「逆向きの力を働かせましょう」って伝えられたらいいなぁと思っています。
だって、言葉は伝わらなきゃ意味がないもの。
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ところで、“葛藤”について研究してみたい方にはこんな書籍がおすすめです。
▲ずっと大好き猫の本。><で葛藤を表すの、発明だと思った!
▲近頃いろいろな「辞典」を出されているフィルムアート社さんからもこんな一冊が。「対立」という言葉を明確に並べてくれているのありがたきです。
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おまけ:ちょっとした宣伝
自分のシナリオ、ちゃんと葛藤=逆向きの力は働いてるかなー?と気になる方、お役に立てるかはわかりませんが、よければそのシナリオ読みますので送ってくださいNE。
いただいたご支援は、今後の更なる創作活動のために活用したいと思っています。アプリゲーム作ったり、アニメ作ったり、夢があるの!(>ェ<)