見出し画像

第21回 帝里加(デリカ) 汐留

中国人が、世界中で彼らのコミュニティを形成しているのは周知のことだが、中国の料理を中華料理と呼ぶのは日本だけだそうだ。店中に響くように中国語で怒鳴り合いながら、たどたどしい日本語で接客する中国料理店は、まるで自然界の強力な外来種のように、日本固有の中華料理、言い換えれば町中華を駆逐しつつある。
 
「回鍋肉」や「干焼蝦仁」などは、作ったことのない日式のレシピで調理し、「酢豚」「冷やし中華」といった聞いたことすらないメニューまで、見様見真似で中華料理を作る中国人の逞しさは大したものだと思う。しかし「隨園別館」のような一部の店を除いて、あまり長続きしているようには思えない。日本語を学び日本で飲食店経営に挑戦しつつも夢破れた中国人は、その後どうしているのだろうか。少し心配になることもある。
 
さて、先日仕事で汐留に出向いたとき、界隈のオフィス労働者から『帝里加』なる中国料理店を教わった。店名はデリカと読む。ここで昼夜を過ごす方々にとっては、もはや日常なのかもしれないが、店名といい立地といいオーダー方法といい店内といい接客といい・・・。とても刺激的で楽しく、3日連続でランチに行ってしまった。
 
『帝里加』のスタッフはオール中国人だ。ゆえ、町中華ではなく中国料理店である。ここは、電通やベルサール汐留や界隈のホテルに直結する地下の駐車場内に、ぽつりと一軒だけある。こんな場所に、なぜ中国人オーナーであろう料理店が出店できたのか。調べる手立てもないものの、汐留に通う人々の声を合わせると、すでに10年以上存在しているらしい。コロナ禍もその後のテレワーク時代に突入しても、元気に地下駐車場で営業を続けているのだ。
 
店内は17卓程度。椅子の数はまちまちだが40人は着席できるだろう。そこを仕切るのは女性一人。徹底的に人件費をかけない仕組みに瞠目する。まず、すごいメニュー数の券売機が店の入口にあり、客は当日のサービス定食含めすべてをその場で決めなければならない。接客の女性は、食券を見て大声の中国語でメニューを通すので(券売機の情報がダイレクトに厨房に届くまでの仕組みはない 笑)、注文を取る必要がない。卓上には水差しが置いてあるものの常温で生ぬるく、冷やす手間を省く(中国的に、冷たい水は飲まないという前向きな考え方もできるが)。厨房は中華鍋担当と麺担当ともう一人。小鉢、スープ、ライスの準備も接客の女性がこなす。とはいえ、店内は比較的清潔に保たれ床がべとつくこともない。、
 
総勢4人の連携プレイは淀みなくスムーズで、料理提供まではすさまじく早い。大盛りの白米は町場の食堂としては及第点。濃厚な卵スープはなぜか懐かしい味。そしてメインとして提供される中華メニューは、中国語のみが飛び交う店にしては日式に近くやさしいテイストながら、日式ほど甘すぎないのは中国人の矜持だろうか。量がとても多いが途中で飽きることなく瞬く間に口の中へと消える。
 
地下駐車場にポツンと一軒ある佇まいは、ハリウッドがアジアをイメージする近未来映画のロケセットのようでもあり、実際に著名ミュージシャンMVのロケ地として使われたそうだ。さらに『帝里加』なる店名の由来など興味は尽きない。ちなみに中国語ネイティブに帝里加という中国語が存在するか確認したが、もちろん答えはノー。デリカテッセンに引っ掛けて日本人が作ったにしては、宇宙船を想起させるような秀逸な漢字を当てたものだ。昼のみの営業なので、時間をつくることが難しいが、汐留での仕事が再び舞い込む機会を心待ちにしたい気分だ。
 
プライベートな数行。汐留に出かけたおかげで、10年ぶりぐらいになるM君と再会した。彼の「note読んでますよ」の一言に胸が熱くなり、10年の距離があっという間に縮まった。
 

帝里加(デリカ)
東京都中央区銀座8-16首都高速汐留パーキング B1階
03-3542-1270
 
 

いいなと思ったら応援しよう!