【人生相談 駆け込み寺】第15回「好きなアイドルが結婚して仕事が手につかない」
浜の真砂は尽きても、世に悩みの種が尽きることはありません。いったん落ち着いて、胸に手を当ててみたりもして、果敢に無難に乗り越えていきましょう。※「夕刊フジ」で2016~2018年に連載(全17回)
【今回のお悩み】大好きなアイドルが結婚するという記事が出てから、仕事が手につきません。記事を読んだ当日は余りのショックで、病気を理由に会社を休んでしまいました。会社の同僚にそのことを話すと、「バカじゃねーの」「30歳過ぎてんだから、現実を見ろ」と、さんざんな言われようでした。自分でもこんなに落ち込むとは思っていませんでした。なので、同僚の言う通り「オレは変なのか?」という感じもしています。(会社員・男性 38歳)
そうですね。かなり変だし、かなりバカだと思います。でも、変でバカであることを嘆く必要はありません。
無意味なことをしてしまうのが人間であり、それが生きる喜びの源になります。好きなアイドルの結婚にショックを受けて、仕事が手につかない38歳。ここまで明確に無意味で、周囲に理解されずらい構図は、そうはないでしょう。
アイドルにそこまで素直にのめり込んで、そこまで深く落ち込めるというのは、貴重で素敵な経験です。あなたをバカにしている同僚には、死ぬまでそんな経験はできません。
たとえば、南極に行ったとかスカイダイビングをしたとか、そういうことは「貴重な経験」と見られがち。しかし、生きる上でとくに必要性はないし、本人が勝手に抱いている夢やロマンがその行為の価値を高めているという点では、アイドルの結婚に落ち込むという経験と、本質的には似たり寄ったりです。
アイドルの結婚に落ち込むのも、世界の辺境を旅するのも、新しい星を発見するのも、たいへん失礼ながら、本人以外にとっては変でバカな行為と言っていいでしょう。しかし、本人にとっては、それをやる理由があり、やることによって見える世界があります。
自信を持って胸を張って、気が済むまで落ち込んでください。少なくとも、何年かたったあとに、「ああ、そんなことがあったなあ」と、当時の自分を懐かしく思い出すことはできるでしょう。
遊びにせよ仕事にせよ、人生における経験は、あとでそういうふうに役に立ってくれたら、十分に価値があると言えます。