いつかのネモフィラ【ライブレポート】
2023年2月3日、Owadに投稿したライブレポートを再掲いたします
いつかのネモフィラ presents
4th single release party「 knop 」@下北沢Mosic /2023.1.31
これまでの道のりと、これからの未来へ
いつかのネモフィラとの出会いは、たしか2018年の”TOKYO CALLING”。 新宿のライブハウスで行われたサーキットイベントだった。
スタート間もないMotionで「バンド名が気になる 」という理由で前情報もないままライブを見て、その場でファンになった。
当時、ベース・ボーカルだった前海修弥の、楽器を演奏しながらマイクに向かう姿が、なんだか目に焼き付いてる。
派手なパフォーマンスがあるわけでも無く、日々の葛藤や孤独感を、吐き出すように歌う言葉のひとつひとつが、生々しく、力強く、煌めいて見えた。
これが私といつかのネモフィラの出会いだが、
ライブに足を運ぶうちに、前身バンドも知っていることに気がついた。
2015年「このボーカルが凄い!」と周囲に熱弁していたが、残念ながらバンドは翌年に解散。
関西から東京に上京していたとも知らなかったが、きっと彼の歌には人を惹きつける力があるのだろうと、この再会を経て思う。
2023年1月31日。
前海がボーカルに専念し、サポートだったベーシスト・齋藤洸太が正式メンバーに加入。新しい編成になって初となるシングル「あの頃の匂いに誘われて」がリリースされた。
リード曲の「夜更東京」のMVを聴きながら、前身バンドの解散から上京、そして現在に至るまでの音楽活動は、決して平坦なものでは無かったのだろうと想像する。
夢半ばに音楽を諦めてしまったバンド仲間や、コロナの影響で閉店してしまったライブハウス。リスナーには分からない実際の人物達との思い出や、語り合った夢に思いを馳せ、自分が立っている場所を確認するような楽曲だ。
https://youtu.be/Yo6yyT_QNP4?si=KuufG8AhxwN6yhK0
正直な話、最初に聴いた時はバンドを辞めてしまつもりなのか?と心配になったほどだが、 この心配は、2曲目に収録された「忘れたく無いこと」をライブで見て解消されることになる。
チケット完売、スリーマンライブ
シングルのリリースパーティーが行われた下北沢Mosic。
出演は、afloat storage、The pullovers、いつかのネモフィラの3組。リリースパーティーはチケット完売の大盛況。
この日出演した他2組は、演奏も、歌声も、表現力も、全てが素晴らしかったので、別の機会に紹介したいと思う。
この日は、いつかのネモフィラの主催イベントという事もあり、それぞれのバンドとの出会いや、出演の経緯などもMCで話してくれた。
その中でも、各バンドのボーカルについて紹介するくだりがとても印象的だった。
afloat storageのギター・ボーカル・稲見繭の歌声は、”心臓が唄っているみたい”と例えていた。
確かに。
静かなシーンから、力強く展開するメロディーは、静かな脈の流れから、どんどん早くなっていく様子に似ている。
この日初めてafloat storageを知ったけれど、彼女の歌声の凄さに圧倒され、食い入るようにステージを見たのを覚えている。
The pulloversのベース・ボーカル・Cettiaの歌声は、”羽が生えているみたい”と例えていた。
ふと頭の中に猛禽類がよぎる。
ふわりと宙を舞うしなやかな力強さや、鋭い爪や目は、優しい中にもどこかピリっとするThe pulloversの楽曲のエッセンスになっているし、物語の視点が俯瞰であることにも納得してしまった。
なるほど、とてもいい紹介だった。
ならば私は、いつかのネモフィラのボーカル・前海修弥の歌声をなんと紹介するだろう?
新しいフェーズのスイッチが入る
この日のセットリストは、こんな流れだった。
M1.悲しみは悲しみのまま
M2.alone
M3.逆にね。
M4.夜更東京
M5.その風を知って
M6.ブルーアワー
M7.忘れたくないこと
M8.マーガレット
en.HONEYMOON
1曲目の「悲しみは悲しみのまま」は、詩を書くためにの恋じゃないのに、あらゆる感情を歌にしようとしてしまう。気持ちと行動が乖離してく様を綴った楽曲。
大人になってからは、感情に理由をつけるクセが出来たし、きっとみんながそうだと思う。いつかのネモフィラの歌詞は、理由を上書きする前の、ヒリヒリとした想いが込めれていて、いつも胸が痛くなる。
「alone」「逆にね。」そして最新曲である「夜更東京」と、孤独な夜のシチュエーションを語った楽曲が続く。
新曲は撮影OKだったので、SNSでの拡散で映像を見た人も多いと思うが、間奏での有末のギターソロが印象的だった。歌詞に重量を置くバンドだからこそ、主役はやはり前海のボーカルになりがちがだ、この日のライブは両サイドのギターがなんだかおとなしい気がしていた。
「その風を知って」「ブルーアワー」はライブでも定番の楽曲。 地元を離れて活動することへの強い覚悟と意思が綴られ。同時に込み上げてくる、ホームシックにも似た感情を必死に噛み殺す、心の痛みを感じる楽曲。
特にブルーアワーでの前海の歌声は、言葉のひとつひとつを取りこぼしたくない程に美しく歌い上げる。
続く「忘れたくないこと」は、この日リリースされてたシングル「あの頃の匂いに誘われて」に収録されている。
ボーカル始まりのこの曲は、上手ギターの後藤がアコギに持ち替え、メロディーが入った瞬間にバンドの雰囲気がガラッと変わって鳥肌が立った。
さっきまでおとなしい印象だった両サイドのギターが前面に押し寄せてきた感覚があり、新規加入したベースの齋藤、サポートを務める大津のリズムもダイナミックに聴こえてくる。
「忘れたくないこと」とはつまり、今まで自分が歩んで来た道のり。
過去を否定するのではなく、その道を経て辿り着いた”今”と、目指すべきは未来だ、というメッセージを受け止めた。
「夜更東京」を聴いて、レクイエムの様に感じたものの正体は、悔やんでいる自分自身との決別なのかもしれない。
サビでは「どうか消えないで その小さな灯火 私が風除けになろう」と綴っている、いつかのネモフィラというバンドが、これから進んでいく方向性を、メンバー全員で固めことを宣言するような瞬間だった。
本編のラストを飾る「マーガレット」が演奏される。
会場全体がメロディーに包み込まれるような、感動的なラストだった。
歌詞は”先に好きになった方の負け”という恋愛ルールに対して、「僕の負けでいいよ 君はどうだい?」と締め括るラブソングになっているが、この日に聴いた「君はどうだい?」のフレーズが「忘れたくないこと」に引っ張られ、
”僕らは前に進むけど 君はどうする?”と
問いかけになっていたように感じた。
ラストまで聴いて、冒頭のMCで考えた”いつかのネモフィラの前海の歌をどう表現するか?”を思い出した。
今日のライブを見る前ならば”孤独と向き合う優しい音楽”と言っていたのかも知れない。
でも実際の孤独感というのは、都会の雑踏にかき消されて聞こえないし、個人が抱く小さな孤独や寂しさは、外側から見ることが出来ない、本人でさえ痛みを自覚していないかも知れない。
前海くんの歌は、そんなスポットライトの当たらない、小さな感情を見つけて光の先に導いてくれるようなものだ。
例えるなら、そうだな、夜の海を照らす、灯台の光のような存在だ。
この日のアンコールは友達の結婚式に作ったという「HONEYMOON」 グッズ紹介で見せる、飾らない笑顔や関西弁のMCに笑いが起こり、MVで使った花びらをサーキュレーターで飛ばす “自前の花吹雪”も素敵だった。
この日、新しいフェーズへのスイッチを入れたいつかのネモフィラは、会場を暖かい笑顔で締めくくってくれた。
MCでも告知があったが、次回は4月に無料のツーマンライブが開催される事が発表された。
事前予約がそろそろいっぱいになってしまうそうなので、早めにチェックして欲しい。
2023年2月3日記
◾️いつかのネモフィラ Link
HP :https://itukanonemophila.wixsite.com/itukanonemophila
X:https://x.com/itukanonp