ロリィタとしての川野芽生さんにメール・インタビュー！ 「自分にとってロリィタ服とは、魂の形」
(インタビュー：鈴木真理子)
2年ほど前に、長年憧れて続けてきたロリィタ服に初めて袖を通すことができて、以降その日の感激のまま、毎日をロリィタとして過ごしているという歌人・ 小説家で東大院生の川野芽生さん。
なぜロリィタ服を着ることになったのか。どんな幼少時代や学生時代を過ごしたのか。自分にとってロリィタ服とは何なのかなどを質問しました！
ロリィタの皆さんの心に共鳴する回答があるかもしれません......。
Q1 生年月日を教えてください。
芽生：1991年12月7日です。
Q2 小さい時はどんな環境で、どのように育てられ、どんな子供でしたか？
芽生：とにかく本が好きで、保育園の園庭で遊ばされる時間も「中で本を読んでちゃだめなのかな......」と思っている子供でした。
両親は研究者で、紆余曲折あって当時はまだ駆け出しだったので、経済的にも時間的にも余裕がなかったと思うのですが、本だけは読み聞かせてくれたし、読ませてくれたんです。
毎週末、大きな図書館のある隣町まで家族全員で車で行って、親の分の利用者カードも使って、たくさん本を借りていました。
きょうだい三人で、貸し出し冊数を気にしながらもカー トに本をどんどん入れていって。
読むだけじゃなくて、書く方も大好きでした。
自由帳の紙をホッチキスで留めて本の形にして、びっしり文字を書いていました。
周りの子たちと全然遊ばずにそんなことばかりしていたので、いじめられることも多かったです。
Q3 現在東大院生とのこと、どんな学生時代を過ごされてきましたか?
芽生：比較文学・比較芸術を専攻して、イギリスのファンタジー小説を研究しながら、短歌と小説を書いています。
子供の頃から将来の夢は作家兼研究者だったので、ずっと院に進むつもりはあったんですけど、周囲の人が就職していく中で院に残り続けるのはそれなりに覚悟が必要で、自信をなくすことも多い、そんな日々です。
男女比率がすごく偏っているせいもあって、男性中心的な性質も強い場所で、大学に入ったばかりの頃は性差別やセクハラに遭うことも多く、ハードでした。
特に可愛い系の服装をしていると舐められやすくて......。
幸いにして、専門課程(学部 3、4年生)に進んでからはそういうことは減ったのですが。
なんだか暗い回答になってしまいましたが、学ぶことはとても楽しいし、学ぶための環境には恵まれました。
Q4 幼少時代や学生時代の過ごし方、環境や遺伝には、現在の可愛いものが好きで、ロリィタ服を着る自分とつながるところはありますか？
芽生：子供の時からお姫様や妖精になりたくて(王子様は全然要りませんでした)、可愛いものや綺麗なものが大好きで、美しいドレスに憧れていました。
Q5 どんな本や映画などを見て、そういう憧れが生まれたのでしょうか？
芽生：具体的に覚えているのはディズニーの「美女と野獣」ですね。
保育園のお遊戯会で「美女と野獣」の劇をすることになったとき、ドレスを着たいがためにベル役に立候補して、オーディションで役を勝ち取ったのをよく覚えています。
ベルが本の虫で変人扱いされているところにも親近感を持ちました。
でも両親は、華美な服装やお洒落そのものをあんまり好まなくて。
シンプルで無造作で、むしろ男の子みたいな服装をさせたがりました。
ロングヘアよりショー ト、スカートよりパンツ、ピンクより水色、という感じで。
お洒落に凝る人(特に女性)は知性や内面をおろそかにしていると思われがち、という風潮を反映していたのだと思います。
だから、子供の頃はなかなか可愛い格好ができませんでしたし、周囲に同じような趣味の人もいませんでした。
そんな制約の中での精一杯のお洒落さえ、小学校では浮いていました。
ピンクを身に着けたりスカートを穿いたりするだけで、「自分のことを可愛いと思っている」と悪口を言われるような環境でした。
だから、当時から自分は一貫しているんですけど、環境的にはなんでこうなったのか不思議なくらいですね。
小学校五年生の時に引っ越すことになって、自分の部屋の内装は壁紙やカーテンからスイッチカバーに至るまで全部自分の趣味全開で選んだんですけど、今でもその内装がすごく気に入っている、というくらい、趣味は変わっていません。
Q6 可愛いものがいっぱいのファンシーな部屋なのでしょうか？ それともクラシカルな感じ？
芽生：クラシカルな感じです。
Q7 最近写真でみる芽生さんは完璧なロリィタ姿ですが、以前はどんな服を着ていましたか？
芽生：基本的にガーリー/フェミニン系です。長く学生をやっていて服にかけられるお金があまりなかったので、プチプラの範囲内で。
ブランドはOLIVE des OLIVE、MAJESTIC LEGON、earth music & ecology、axes femmeやF i.n.tなどが好きでした。
それから、ヨーロッパヴィンテージって言うんでしょうか、古着屋さんでクラシカルなドレスみたいなお洋服を見つけるのが好きでした。
Q8 ロリィタ服の存在はいつから何で知っていて、どう思っていましたか？
芽生：広義のロリィタ服との出会いは、中高の同級生の私服がPINK HOUSEだったことでした。
読書家で聡明で気品があって、尊敬する友達だったので、それもあって憧れました。
別の友達には「君もああいうの似合いそう」と言われて、「だよね〜ほんと着てみたいんだけど......」と思いました。
ロリィタ、という名前を知ったのがいつかは覚えていないのですが、街中で見かけるそういうファッションの人には憧れの眼差しを送っていました。
中高は制服でしたが、大学にはロリィタファッションの人も少数ながらいて、それこそオトナアリススタッフの大石蘭さんは研究室の先輩だったので、素敵だなあと思っていました。
でも手の届かないものだと思っていたので、自分が着るというのはあんまり現実的に考えていなかったと思います。
Q9 何がきっかけでいつからロリィタ服を着るようになりましたか？
芽生：ロリィタへの憧れやみがたく、思い切って挑戦してみようかな......とか、一度だけロリィタ体験サロンに行ってみようかな......などと何年も逡巡しました。
思いっ切り好きな格好をしてみないと、自分がほんとうじゃないような、死んでも死に切れないような気持ちがあって。
それでTwitterで「ロリィタやってみたいとずっと思ってるんだよね」というようなことをつぶやいたら、友人から「私も......!」 というリプライが来て、「え、じゃあ一緒にロリィタ服を買いに行っちゃう？」ということになったんです。その時は夏に向かう季節だったのでいったん保留になったんですけど。
私はその年から大学の非常勤講師の仕事を始めて、少ないながら安定収入が入るようになっていました。それから、その年の9月に初めての歌集を出して、前後してそれまでより原稿依頼をもらえるようになって。
10月に大事な原稿の〆切が重なって、光栄だけどプレッシャーも重いしスケジュール面でもハード、というさなか、「もう、今月を乗り切ったらその分の原稿料でロリィタデビューしちゃうぞ！」と 心に決めて、原稿を書き切りました。
そして、翌月に前述の友人を誘って新宿マルイアネックスに向かったんです。
Q10 最初に購入したロリィタ服はどこで買ったどんなものですか？
芽生：マルイアネックスのKERA SHOPで、Millefleursの、暗紅色の地に薔薇模様のコルセットスカートと膝丈の生成りのアンダースカート、Wunderweltのパニエを購入しました。
トルソーのコーデがすごく素敵で、でもラックにはその服が見つからなくて、店員さんにおずおず「この服はどこにありますか......？」と聞いたら、そのコーデはブラウスとコルセットスカートとアンダースカートから構成されていて、コルセットスカートはこれで......と教えてくれて。
私は全部一体のワンピースだと思っていたので、見つけられなかったんです。
それくらいロリィタのコーディネートには無知でした。
コルセットスカートは、トルソーではロング丈のアンダースカートと合わせられていて、優美で貴族的なその佇まいが理想的だったんです。
それで試着する時、店員さんが膝丈のアンダースカートと合わせるコーデも提案してくれて、着てみたら丈感でだいぶ雰囲気が変わるんですね。
膝丈の方はちょっとメルヘンで、お人形さんのティーパーティーみたいな感じで、こっちも素敵...…！と思って。
これは合わせ方で色々楽しめるぞ、と思って、まずはコルセットスカートと膝丈のアンダースカートを購入したんですが、完全にこれからどんどん買い足していくの前提の買い方でしたね。
Q11 初めてロリ服に袖を通して鏡をみたときの気持ちを教えてください。
芽生： 「私はこれを着て生まれてきたんだ......！」
Q12 それはもともとこういうロリィタ服を精神的にまとって生まれていることに 気がついたということですか？それとも着用したこの瞬間に生まれ直したのでしょうか？(やぼな質問ですみません)
芽生：あまりに似合っていたので、はじめから着ていたように感じる、ということです。
Q13 ロリィタ服を着たときの自分は好きですか？それ以外の服を着た時の自分と違う感じがしますか？
芽生：大好きです。初めて自分の見た目が自分の精神と一致したような気持ちになれました。
もとから自分のことは好きですし、ロリィタ以外の服も自分で気に入ったものを選んで着ていたのですが。
可愛らしい格好をして、上品な振る舞いを心がけていると、周囲から「女性らしい」と思われたり、恋愛対象に見られたりすることが多くて。
でも私は恋愛には興味がないし、ジェンダーステレオタイプは大嫌いなんです。
可愛い服装も、上品な振る舞いも、好きでやっているのであって、私が女性だからやっているのではないし、男性の気を惹きたいがためでもない。そういう信条や理念の部分が伝わらず、誤解されるのが歯痒くて、でも「女性らしい」と思われないように、可愛いものが好きな自分を隠す、というのも違うと思っていました。
ロリィタファッションには思想や美学が織り込まれていますよね。
誰かに気に入られるために服を着るんじゃない、周囲から浮いたって白い目で見られたって自分の理想を貫く、自分にとっての美や気高さを追求する、という。
だからロリィタ服を着ると、自分にとっての「可愛い」を手放さずに、自分の信条を表現できるのが、 すごく嬉しくて。
自分の「好き」のストライクゾーンで、かつ美学が一致するファッションがある、というのはすごく幸福なことだと思います。
そういう部分を抜きにしても、ずっとなりたかったお姫様や妖精やお人形や魔女になれる、というのは、自分が自分になれた感じがします。
Q14 ロリィタ服を着るシーンは選ぶようにしていますか？少し前オトナアリス のスナップアンケかなにかで「毎日ロリィタ」と話されていたかと記憶していますが、事情などもありロリィタ服を着ないときはどんな時でしょうか？
芽生：今は大学の非常勤講師をしているのですが、通勤の時間がラッシュに重なってしまうので、ボリュームの問題などを考えてロリィタではない服を着ています。
Q15 ロリィタ、ロリィタ服とは自分にとって何ですか？
芽生：魂の形、みたいなものでしょうか。
Q16：自分はロリィタだといえますか。それはいつからの気づきでしたか。
芽生：ロリィタです。ロリィタ服に初めて袖を通した瞬間から。
Q17 憧れている、あるいは注目しているロリィタさんは誰ですか？
芽生：青木美沙子さんや深澤翠さんです。
Q18 なぜ青木さんと深澤さんに憧れる、ないしは注目しているのでしょう。
芽生：ロリィタを美しく着こなされているだけでなく、エイジズムなど世間の圧力に抗って生きていく姿を見せてくれるからです。
Q19 目指している自分のロリィタ姿のイメージはどこにありますか？
芽生：ヴィクトリア朝のイギリスや中世ヨーロッパ。あるいはファンタジーの世界です。
Q20 将来的にはどんな自分でありたいですか？ロリィタは続けていると思いますか？あるいは将来はロリィタを卒業していると思いますか？
芽生：ロリィタはずっと続けるつもりです。
学問や芸術を深めて、知性や審美眼を磨いて、年を重ねるごとにいっそう美しくなっていきたい。
Q21 さてロリィタ服を着るようになって、女性や男性から、昔のようにあまり嬉しくない発言を受けることは増えましたか？逆になくなりましたか？
芽生：増えてはいませんが、残念ながら今もありますね。いまだかつてなくしつこいナンパに遭ったときとかは落ち込みました。
でも人に褒められたときに嬉しい気持ちで受け取れることは増えました。
Q22 今となっては、昔芽生さんが可愛い格好をすることをあまり好まなかったご両親も、OKサインを出してくれている感じですか？周囲の評判はどんな感じでしょう？それとももうまるで周囲のいうことは気になりませんか？
芽生：両親はもう口を出さないことにしたみたいで、どんな服装で現れても驚かなくなりました。出かけるときは親にウエストリボンを結んでもらったりと、手伝ってもらうこともあります。
好みとは違うけれど、受け入れることにしたし、娘が楽しそうにしている分には嬉しい、という感じかと思います。
ロリィタを始める前は、周囲の目が気になるかと思ったのですが、意外なほど気になりません。
といっても冷たい視線を向けてくる人はほとんどいなくて、知らない年配の女性がしみじみと褒めてくれたりします。
Q23 好きなブランドや、これから着てみたいタイプの服やブランドを教えてください。
芽生：好きなブランドはTriple*fortune、Innocent World、Physical Drop、星箱 Works、ATELIER PIERROT、MRcorsetなど。
これから着てみたいのはVictorian Maiden、Sheglit、MIHO MATSUDAなど。
クラロリから入ったんですけど、いざ始めてみたら甘ロリやゴスロリ、スチパン、少年装などあらゆるジャンルに心を惹かれてしまって。
これからロリィタの中でも色々なタイプに挑戦していきたいです。ロリィタ以外でも、着物などに興味があります。
ロリィタ服を着ることを切望し、ついに願いを叶えて、現在は毎日ロリィタとして喜びのうちに生きている芽生さん。
私たちには彼女の幼い頃の体験や、ロリィタ服に袖を通した時の気持ちも含め、もしかしたら同じ体験をしている人もいるかもしれないですね。
これからもロリィタ服に身を包むごとに、人生を愛し、自分を愛し、また時に創作の糧とする日々を続けていかれますように。芽生さんも、私たちも。
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