【34.楽典のこと✏️】主要三和音と伴奏の形
弾きたいと思う曲の楽譜を手に取った時、初心者の方であれば大抵の場合、右手がメロディー、左手が伴奏という形の楽譜であることが多いと思います。左手の伴奏を見て「この曲は弾けそうだな」とか「これはまだ私には難しいなあ」と判断されることもあるかもしれません。そこで左手伴奏の様々な形について考えていきたいと思います。
まず、初心者の方の弾きやすいであろう楽譜に書いてある伴奏ですが、主要三和音を中心に段々とその他の和音に移行しています。はじめからかなり難しそうな和音や、おしゃれな響きの和音は見かけないでしょう。そこで主要三和音の説明から致します。
主要三和音とは読んで字のごとく、その調における主要な三和音のことです。その主要な和音とはその調のⅠ度の和音、Ⅳ度の和音、Ⅴ度の和音(Ⅴ₇の和音)のことです。ハ長調の場合ですと順にドミソ、ファラド、ソシレ(ソシレファ)の3つの和音です。この主要三和音が理解できていると簡単な曲ならば伴奏がつけられます。楽譜に書いていなくてもおおまかなメロディーの流れに沿って主要三和音を駆使して伴奏できるということです。
ハ長調だけでなく何の調であっても主要三和音は存在し、役割は変わりません。ドミソ、ファラド、ソシレ(ソシレファ)のように、
ト長調・・・ソシレ、ドミソ、レ♯ファラド
ヘ長調・・・ファラド、♭シレファ、ドミソ♭シ
ニ長調・・・レ♯ファラ、ソシレ、ラ♯ドミソ
イ短調・・・ラドミ、レファラ、ミ♯ソシレ
となります。
ハ長調における主要三和音が
ドミソ、ファラド、ソシレ
とお分かりいただいたところで、「いつもはそんなふうに弾いていないなあ」と思われた方もいらっしゃると思います。そうです。和音はどんな時でもこのままの(基本の形)のみで演奏されるわけではありません。図の右側に区分されている方がよく見かける和音の形ではないでしょうか。
ハ長調の右側の部分・・・ドミソ、ドファラ、シレファソ
こちらの方が弾きやすいし、耳に馴染んだ感じがすると思います。後ほど詳しく説明しますが、和音は変化しながら演奏されます。ハ長調のⅠ度の和音がドミソなのはお話した通りですが、ドミソだけでなく、ミソド、やらソドミやらその時々によって変化するのです。こうして同じⅠ度の和音なのに違う和音であるかのような感覚になり譜読みする場合などに別物としてひとつひとつ音を読んでいくことになるのです。
では次に、左手で伴奏を弾く時のリズムパターンを見てみましょう。伴奏にも様々なリズムパターンがありますが、ご自身が今練習されている曲の伴奏の部分と比較してみてください。
①は基本の形をそのまま弾くパターンです。これに似たパターンでハ長調のⅠ度の和音ですとドーーー ドーーー など和音になっておらず、和音を構成するある一つの音だけが左手の伴奏とされているものです。伴奏の形としては一番簡単なパターンだと思います。1小節で全音符一つという形だけでなく2分音符二つ、4分音符四つなどのパターンもありますが、難易度としてはあまり変わりないでしょう。
②のパターンは「ぶん ちゃ ちゃ ちゃ」と言葉にすることができると思いますが、聞き覚えのあるリズムパターンです。分散和音と言って基本の形をいくつかのグループ分けをしてリズムに乗せる伴奏の形です。(分散和音とはこのリズムパターンだけでなくこれ以下のものも含まれます。基本の形を様々に分散して弾くので総称して分散和音と呼びます。)
②②③④のリズムパターンは比較的簡単なので動揺や初心者向けの楽譜などでよく扱われています。②では4/4拍子で書かれていますが、2/4拍子でも似たようなパターンができます。モーツァルトのトルコ行進曲の左手伴奏はこのパターンです。またこれを3/4拍子にすればワルツのパターンにもなります。
③バイエルや初心者向けの練習曲集などでよく扱われています。このリズムがきちんと拍を刻みながら弾けることでメロディーが安定します。
④エステンの人形の夢と目覚めの冒頭部分の伴奏形です。
⑤こちらも頻出のリズムパターンです。モーツァルトソナタハ長調第一楽章(メロディー:ドーミソシードレドー・・・)の左手伴奏のパターンですね。③と同様に③よりも細かい音価の音符があるメロディーの安定がはかれます。
⑥リヒナーの勿忘草やの伴奏がこのパターンです。3/4拍子のリズムと似ていると思われるかもしれませんが、厳密にいうと6/8拍子と3/4拍子ではリズムの強弱が違っていますので、同じということは出来ないのです。
⑦グノーのアヴェ・マリアの伴奏形です。
⑧この伴奏形は1拍目の音と2拍目の音がかなり離れています。この譜例ですと1拍目の音(ド)と2拍目の和音の一番上の音(ミ)まで10度の幅があります。これだけ離れている和音を拍通りにきちんと弾くのは難しいですね。
以上のような様々な伴奏の形がありますが、和音を分散して様々なリズムパターンとして左手伴奏をつけることがお分かりいただけたでしょうか?ですから楽譜の左手伴奏の形態を見て「これなら弾ける・このパターンなら譜読みが簡単だ」と思われる左手伴奏の形を見極めて頂きたいと思います。譜例以外にもたくさんの左手伴奏のリズムパターンがありますが、①~⑧までのパターンからABCのような複合技のようなパターンに挑戦するまでにも段階的に複雑さがアップしていきますので、「和音の基本の形はこれ」と判断できるようになっているとよいでしょう。
以下に示す譜例は実際の曲に使用されている伴奏の形です。
A F.ショパン ノクターンNo.7 Op.27 No.1
冒頭の左手伴奏です。嬰ハ短調のⅠ度の和音が分散和音として12度の範囲で奏でられます。
B F.ショパン ワルツNo.6 Op.64 No.1 小犬のワルツ
右手の長いトリルの後再現部に移行した際の左手伴奏です。ショパンのワルツにはこのようなリズムパターンが多く出てきます。またショパンだけでなくワルツの中で多用されているように思います。
C E.サティ おまえが欲しい
変則的な書き方の譜例でしょうか。サティの曲にはよく馴染んでいると思います。この書き方でのリズムパターンはおまえが欲しいの中ではあまり印象的ではありません。むしろジムノペディ第1番の方が印象的だと思います。譜例の表記の問題でおまえが欲しいを挙げました。
和音の変化についてお話します。あまり興味のない方は読み飛ばしてください。和音の変化とは先にも触れましたが、ドミソの和音はドミソだけではないということです。
ドミソ→ミソド→ソドミ
と変化していきます。この変化はそれぞれ名称があり、順に基本形、第一転回形、第二転回形といいます。3和音ではここまでですが、4和音の場合には第三転回形が存在します。この転回形は表現の幅を広げてくれるだけでなく、メロディーと密接にかかわって和音の響きを整えてくれます。そこにも厳格なルールが存在しますが、ここでは割愛させていただきます。
ドミソだけで演奏していたのでは、無理も生じてきますし、とにかく弾きにくいということも起きます。ドミソがミソド、ソドミと変化してくれるおかげで弾きにくさも解消されより美しい響きを得られるのです。
今回は、和音には主要三和音というのがある、また左手の伴奏の形には様々なリズムパターンがあり和音を分散させ組み替えて演奏する形があるということをお話しました。この左手伴奏のパターンを弾きこなせるようになるだけで、かなりの上達が見込めるでしょう。是非挑戦してください。
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