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【55.楽譜のこと🎼】ハノンについて

本日はハノンについてお話しいたします。

ある程度ピアノを学習されている方で師事されている先生から「そろそろハノンを始めましょうか!」と言われて実際に練習されていらっしゃる方も多いと思います。またピアノを始められて間もない方で、色々ピアノ学習について検索されていらっしゃれば「ハノン」という謎の教本の存在に気づかれ「これはやるべきか、やらざるべきか」と悩まれていらっしゃる方も多いと思います。そこで私なりにこの「ハノン」について考えてみましたので今後のピアノの練習の参考にして頂けたらと思います。

「ハノン」はCharles Louis Hanon(シャルル ルイ ハノン)という作曲家の名前で、このハノンによって作曲された『ピアノの名手になる60練習曲』というのが一般に私たちが「ハノン」と呼んでいる教本になります。

5本の指をみな平均して訓練すれば、ピアノのために書かれた曲は何でもひくことが可能になるはずです。残る問題は指づかいだけとなり、これはまた、たやすくかたづきます。そこで目標を次のようにきめます。
1. 指を動きやすくすること。
2. 指をそれぞれ独立させること。
3. 指の力をつけること。
4. つぶをそろえること。
5. 手首を柔らかくすること。
6. よい演奏に必要な特別な練習を全部入れること。
7. 左手が右手と同じように自由になること。
そのうえ、味気なくてあきあきするのをふせぐために、曲をおもしろくすることも必要で、それらをみな考えてここに“ピアノの名手になる60練習曲“という1巻を作りました。

全訳ハノンピアノ教本 はじめに より /全音楽譜出版社


ハノンを学習するということは上記のような目標を達成させるということが挙げられますが、ではいかなる場合でもハノンが必要かと問われれば、私は「No」と答えます。

ピアノの練習を少しスポーツに置き換えて考えてみましょう。ここではサッカーにしておきましょう。サッカーをするにはどんな準備が必要でしょうか?
ボールを蹴る・ドリブルをする
パスをする・スローイングする
シュートする
ゴールを防ぐ
など目的に応じた練習がなされるでしょう。
そのような目的別の練習がピアノにおいてはツェルニー100番、110番、30番、40番、50番などに代表される練習曲集だと思います。似たような音形のパッセージを繰り返し練習するタイプの練習曲集です。
次にある程度目的別の練習ができるようになりましたら、
ゲームを楽しむ・試合をする
など実践的な練習をすると思います。それはピアノにおいてはソナチネやソナタ、あるいは〇〇ピアノ曲集などのレパートリー集のような曲を演奏するようなものだと思います。

サッカーでのそう言った目的別の練習をしていくうちに、思い切りボールを蹴っても遠くまでボールが届かない、遠くの味方にパスを出そうとしても届かない、試合の最後まで走ることができないなど体力的な部分の強化が求められるようになるでしょう。ピアノでも全く同じです。ご自分で弾けていると思っている曲でも何となくここがうまくいかない、この部分が力強く弾けない、繊細なタッチができないなどの悩みが出てきます。そんな時にサッカーなどのスポーツでは筋力アップのために筋トレをしたり、ジムに通ってみたり、ジョギングをしたりと根本的な体力強化を図ると思いますが、ピアノではその部分をハノンピアノ教本が担っています。


先ほどいかなる場合でもハノンが必要かという問いに私は「No」と言いました。そのことについてお話しします。サッカーを練習するために目的別の練習をする、筋トレをするなどのお話をしましたが、このお話が通用するのは少なくとも自分で安全に立って歩けることが前提ですね。極端な話ですが、よちよち歩きの赤ちゃんに筋トレが必要でしょうか?まだボールを蹴ってシュートしてという目的別の練習もままならないでしょう。
ですからピアノを始めて間もない方がハノンをされることはお勧め致しません。まずは
ピアノの演奏に慣れて音を読む力もつけて頂きたいと思います。ご自身である程度曲が演奏できるようになってから指の強化が必要だなと思われた時にハノンをはじめとする筋トレのような教本を始められればよろしいかと思います。ただしハノン、とりわけ指の訓練にただならぬ興味がある方でしたら、ハノンの前段階の簡単なものから始めてみるのが良いでしょう。


ではハノンはどのように始めるのが良いかというお話に入ります。ある程度のピアノの経験があり、ご自身で譜読みをするのも問題なくできる方は、すぐに始められて問題ないでしょう。もしくは今すぐにでもという感じもします。先生に師事されている方でしたらとっくに始めておられるでしょうが、独学で学ばれていらっしゃる方でしたら、もしかしたらハノンは避けておられたかもしれません。何かご自分に合いそうな楽譜を見つけられて是非チャレンジしてみてください。
ピアノを始められて間もない方は先ほどお話した通り、まだその段階にはないと思いますので、少なくとも8分音符のリズムが理解できる、音階を弾くことができる、鍵盤の位置で迷うことがないなどの初歩的な演奏技術が備わってきたら始めてみましょう。

実際にハノンを開いてみます。原書に近く一番一般的な楽譜が全音楽譜出版社の「全訳ハノンピアノ教本」ではないかと思いますので、そちらを見ながら少しお話しします。

第1部、第2部、第3部という構成でほとんどの曲が16分音符で書かれてあります。(そうではない曲ももちろんあります。)基本的なテクニックが網羅されており、ピアノを学習されている方の現在のレベル(バイエル前半程度、ツェルニー30番、各作曲家のエチュード)によっては難しい、簡単など評価が分かれます。私はこの楽譜を生徒さんに渡す時は、大抵の場合バイエルが終了してから、あるいはバイエルの80番前後のあたりということにしています。ほとんどの曲が16分音符で書かれているので、そのことに抵抗のない生徒さんであれば早めに渡しますし、抵抗感が強いと感じていればバイエルが完全に終了してから少しツェルニーで慣らして渡します。どちらにしましてもハノンは書かれてある音符がそのまま弾ければ良いということではありませんので、書かれた音符が普通に演奏できて当たり前の状態を作った上で、リズム練習、移調奏など行います。これらのリズム練習や移調奏など楽譜に書かれている以上のハノンの活用が大切になってきますので、じっくりと取り組まれると良いでしょう。

この全訳ハノンピアノ教本とほぼ同じ構成で編集されている楽譜があります。

音楽之友社 ハノンピアノ教本 New Edition
小鍛治邦隆・中井正子両先生の解説文と練習法・指導法があります。

HANON
全音版で示されているリズム変奏パターン(22パターン)が13パターンになっています。
寺西昭子先生による「指導のてびき」があります。

完訳・増補版 ハノン・ピアノ教本[上]
こちらの上下巻はもともと一冊で販売されていたものを分冊されたものです。
全音版とほぼ同じ構成の内容ですが、上巻では第1部、第2部までが学習できるようになっています。また第2部40番半音階の練習で長3度の練習が加わっており、これは全音版他では見られない練習です。

完訳・増補版 ハノン・ピアノ教本[下]
上巻の残り、第3部が学習できます。44〜60番までは全音版と同じ構成ですが、その後に新たな音階練習が5パターン示されています。10度(3度)の音階、6度の音階、同音で始まる反進行の音階、3度で始まる反進行の音階、6度で始まる反進行の音階がそれに当たりますが、ユニゾンで行われる音階練習とは一味違った趣です。


全音版の教本に代表される上記の楽譜は少し難しそうだなと思われる方に適しているのが次に挙げる教本です。


やさしいピアノ・テクニック シリーズ
こちらのシリーズでは1〜3でハノンの要素が簡易的に学べるように構成されています。
がプレでは全音版に代表されるようなハノンの曲は出てきません。5指のポジション(ド〜ソ)での基本練習、指の拡張(3度〜8度)、和音とアルペジオ、指の交差と移動、1オクターブのスケールをほぼ8分音符で学習し、1巻へスムーズに繋がるように練習ができます。1巻では全音版ハノンの1〜20番を8分音符で練習する形にしており、各曲にリズム練習として練習パターンが3パターン用意されています。2巻では音階とアルペジオ、半音階の練習をしますが、こちらも簡易的です。各調の練習の前に鍵盤図と5線図での解説がついていますので、各調の音の間違いにも気づきやすいでしょう。音階練習では長調のみ(9つ)を練習してから短調(9つ)を練習する流れになっています。3巻では全音版の21〜38番を簡易的に練習できるように構成されています。1巻もそうですが、独自の記号が書かれてあり、どの指にフォーカスを当てるのかが分かりやすくなっています。38番に当たる白鍵によるスケールの練習が簡易的に掲載された後、スケール・カデンツ・アルペジオの練習となっていますが、全音版のスケールにスムーズに移行できるようにこちらでは3オクターブの音域で、主音が1拍目から始まるリズムの形になっています。また3巻では♯、♭ともに4つまでの長調と短調の練習です。

ハノン40の練習曲
こちらのシリーズも1巻が全音版の1〜20番までと音階練習が簡易的に練習できる構成です。主に8分音符で音域も狭く書かれてあります。各曲に相応しいと思われるリズム練習が4パターンと移調練習のための楽譜(始めの数小節のみ)が書かれてあります。音階練習では変ト長調、変ホ短調を除く22の調が練習できますが、8分音符で2オクターブ、カデンツも簡易的です。短調の練習では和製的短音階のみの練習です。2巻では全音版の21〜41番までを簡易的に練習します。主に16分音符での練習になりますが、音域が狭く設定されています。1巻同様に各曲に相応しいと思われるリズム変奏が4パターン示されています。音階練習では変ト長調、変ホ短調を除く22の調の練習がれきますが、こちらは全音版の音階練習同様の4オクターブ、カデンツ、3種類の短音階になっています。半音階の練習はユニゾンのみ、アルペジオも22の調です。
このシリーズの教本は1巻、2巻ともに目次以外の説明書きが一切ありません。「はじめに」やら「てびき」など一切ありません(小さく申し訳程度に1指の運動などとは記載がありますが)のでご自分で注意すべき点など書き込む余白が十分にあります。いつも間違える点、指の動きを注視すべき点など自由に書き込んで活用していってほしいです。

この記事では解説しておりませんが、「やさしい・・・」「こどものためのハノン」のような題名のハノンですと、大抵の場合こちらで解説した「やさしいシリーズ」や「40の練習曲」のように簡易的にハノンが学習できるように音域を狭くしたり、8分音符で書かれていたりといった工夫がされておりますので、全音版のような楽譜なのか、簡易版のような楽譜なのかご自身のレベルに合わせて検討されると良いでしょう。


現在全音版をはじめ標準的なハノンを使いこなしておられる方には少し目線を変えたハノンを紹介させて頂きたいと思います。



魔法のピアノレッスン〜もっと効果が上がる!ハノンの使い方〜
指導者編と生徒編と2冊ありますが大人の方でご自身で活用される場合は指導者編でよろしいかと思います。こちらの教本は全音版などの標準的なハノンをより良く活用するためのガイドブックのような存在だと思います。渡部先生はこの教本で「ハノンは、耳の訓練の教本です」とおっしゃられています。自身が出した音を自身の耳でよく聴くための教本ですという具合に単なる指の訓練だけのものとせずに活用するように説かれています。ですから「本書の使い方」に示されているポイントをよく理解して活用なさってください。普段の練習で全音版に代表されるハノンをお使いの方にとってはレベルによっては「目から鱗」の心境になられるかもしれません。完全に渡部先生のオリジナルで独自の記号を用いながら、構え・手首、腕の動かし方・音の出し方等細かくわかりやすく解説されていますので、じっくりとご自身の音の出し方と向き合ってみるのも良いかと思います。

BASIC HANON 脳から指へ九九のようにスラスラ 読譜力、初見力が向上
伊藤先生のはじめ書きでは「なぜハノンが必要か」「ハノンはいつから始めるべきか」ということが書かれてあります。その後脱力についての記載があります。このことを踏まえてエクササイズ1〜7までを練習します。エクササイズ1・2は予備的な内容ですが、エクササイズ3のまとめの項目が特徴的です。ここでは全音版の1〜20番を音域を狭くしたパターンで練習したのちに各曲を12の長調で移調奏ができるように楽譜がパターン化されています。このパターン化はある程度ピアノ練習が進んでいる方にとりましては、楽譜をパターン化していなくても全音版のような楽譜で対応できるかと思いますが、あまり経験が少なく移調奏の練習がしたいと思っても楽譜が頭に浮かんでこないなどの問題がある方にとりましては、ありがたいパターン化の楽譜だと思います。この楽譜に慣れていけば題名のように九九のようにスラスラということも可能でしょう。エクササイズ4の音階練習では全音版の楽譜では両手一緒にユニゾンで4オクターブの音階を弾いていく練習となっておりますが、指づかいに慣れるまでは(右手と左手を一緒に弾くのは指づかいが難しいので)左手のみ2オクターブ、続けて右手2オクターブの往復の練習をするのが良いということでそのような形の音階練習になっております。エクササイズ7で苦手な指の動きをチェックしようという項目がございます。ここで示された計10のパターンの練習をすることによって苦手な指の動きが発見できると思います。この10パターンは私も恐ろしいとさえ感じます。この楽譜では演奏動画が見られるようにQRコードが示されております。

指セット+plus HANON
指セットという耳慣れない言葉に隠された金子先生の熱い思いが巻頭に記されています。
そして出来上がったオリジナルの指セットの楽譜が8つの練習ポイントとして連なっています。16分音符は出て来ませんので、一見そんなに難しく思えないような楽譜の景色ですが、これを演奏動画のように弾きこなそうと思うと至難の業ではないでしょうか。しかしこれがきちんと演奏できたらかなり指が仕上がりそうです。オリジナルの8つの練習ポイントが終わると9として全音版39番(音階練習)、10として40番(半音階)、11として41番(アルペッジョ)、12として52番(3度)、13として60番(重音のトレモロ)と続きます。これらの演奏動画を今井理子さん、角野隼斗さんの演奏で見られます。


ハノン導入の目安(イメージ)

※特別なメニューのある教本は標準的な教本が終わってからというよりも標準的な教本と併用されると良いでしょう。またシリーズ化された教本ではシリーズ一貫して使用するのでも、単品で使用するのも自由ですのでご自身の考えで行って良いでしょう。


子供の頃にイヤイヤやらされてハノンを学習していた私ですが、大人になってからはハノンがバイブルのように感じております。前にも書きましたが、ハノンはただ単に弾ければ良いというものではございません。スラスラ弾けても音にムラがあってはいけませんし、指づかいがごちゃごちゃしていてもよろしくありません。どんなふうに指を使えば良い音(ご自身が目指す音)が出せるのか様々にハノンを活用なさって進めてください。嫌なこと、面倒なことなどとマイナスな感情でハノンを見ることなく、ご自身の演奏を向上させてくれるアイテムと思って根気良くコツコツ進めてみてはいかがでしょうか?


最後までお読みくださり、ありがとうございます😊たくさんのフォローとビューでの応援大変励みになっております🙇‍♀️この記事が皆様のピアノ学習の参考になりましたら嬉しく思います。また次回の記事もよろしくお願いいたします🤗

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