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第19話「メンエス事件簿#3」 緊急出動(完結編)

セラピストさんに対して狼藉を働いた上、料金を踏み倒し、挙句に財布を忘れて横柄な口調で電話をしてきた無銭メンエスニキ。
前回までの流れは下に貼っておきます。

普段は腰を丸め、さらに膝を曲げるほど低姿勢なぼくですが、この人に対しては毅然とした態度で臨むことにしました。
バトルモード突入です。

ニキ
だから〜
財布あったでしょっつうの?

ぼく
あったかどうかわかりません。

ニキ
は?
どういう意味だよ?
探せばわかるだろ?

ぼく
はい、そうだと思います。

ニキ
、、、?
じゃあ探せばいいじゃん!

ぼく
探す予定はございません。

ニキ
、、、

ぼく
業務があるので、そろそろ電話を切らせていただきます。

ニキ
おー
おー
ちょっと待てよー!

ぼく
、、、

ニキ
なんなんだよ!
おまえらは客の忘れ物を探したり、返すってことしないのかよー!

ぼく
お客様の忘れ物は探すし、保管もします。

ニキ
だったら返せよー!

ぼく
あなたはお客様ですか?

ニキ
、、、

ぼく
確かにご予約をいただき来店されましたが、代金をいただいておりません。

ニキ
でも、行ったんだから客だろ?

ぼく
忘れ物の保管や返却は顧客様に対する限定的なサービスとなっております。
顧客様の定義は、うちのサービスに対してお支払いをしていただいた方となります。

ニキ
うっ、、、

ぼく
そろそろよろしいですか?

ニキ
ちょっ
ちょっ
待ってくれ、、、待ってください!
免許とマイナンバーが入ってるんです!
お願いします返してください!

ぼく
人聞きの悪いことをおっしゃらないでください。
返さないとは言ってません。
探したり、保管したり、手渡しするといったサービスはできないと言っているだけです。

ニキ
じゃあどうすればいいんですか?

ぼく
普通に警察に届け出たらよろしいのでは?
実際に路上で落としたかもしれませんよね?
もちろん店内から出てきたら警察に届けますし。

ニキ
えー
どうしてもすぐに必要なんです。

そこから
なぜ支払いをしなかったか?
セラピストに何をしたか?
セラピストに落ち度があったのか?
すべて話してもらいました。

結論は
「自分の身勝手な思いで軽率なことをしてしまった、、、
ごめんなさい、、、」
というものでした。

ニキ
セラピストさんにも謝まりたいので、もう一度行かせてください。

ぼく
それは無理です。
財布があったとしても怖くて手渡しできないと言っています。
そういう状況にご自分でしてしまったんじゃないですか?

もう十分に仇は打てたかな?
そろそろ終わりにしよう。

本来、顧客様には無料で行うサービスだけど、その資格を失っているニキに対しては有料ということにしました。

だってセラピストさんには会わせたくないから、ぼくが緊急出動してわざわざ財布を渡さなければならないんです。
その出動費用20,000円。
彼はあっさり同意しました。

それから1時間後
ニキと対面しました。

見た感じは普通に真面目そうな人で、ヤカラでもなんでもなく立派なビジネスマンでした。

何度も何度も謝罪とお礼を言い続けています。

ここでメンエスブレイキングダウン試合終了のゴングです。
拳を交えたもの同士が味わう親近感、互いをリスペクトし合う倒錯的な心理状態、、、なんとなく謎にニキが好きになりました。

彼は約束の手数料20,000円だけじゃなく、踏み倒した施術料17,000円も支払ってくれました。

その瞬間、ニキはお客様になりました。
なので、20,000円の手数料は返金しました。

ニキ
それはいけません!
受け取ってください。

ぼく
顧客サービスですから。

立ち去るぼくの背中に何度も何度も頭を下げるニキをあとに、セラピストさんのところへ戻りました。

一部始終を聞き終え、
これで安心して帰れると、その日初めての笑顔を見せてくれました。

激闘を交わした対戦相手の後悔と謝罪の気持ちをできるだけセラピストさんに伝えたいという謎な使命感により、彼から受け取った施術料を全てあげました。
(これで少しでも嫌な気持ちが晴れればいいけど、、、)

こうして、長い夜はようやく幕を閉じることができました。

普段は真面目に正しく生きてこられた方が、ひょんなことからスイッチが入ってしまい軽く脱線。
それを見ていた神様はニキに財布を忘れさせて反省を促しました。
おかげで、もう二度と同じ脱線はしないのではないでしょうか。

きっと神様の魔法はぼくらの仇打ちの為ではなく、ニキを元の道に戻すためのものだったに違いないと思います、、、無神論者だけど。

最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。


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