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好きです。

 会ったこともなければ、素顔さえ知らないアナタに恋をした。声も仕草もセーカクだって知らないのに、恋したアナタは振り向いて、コンニチワと千両の笑顔を送ってくれる。声がさえずるように木立を抜けてくるのは、アナタのアバタがぜんぶエクボに見えるから。清冽な調べを歌うアナタは、アタシの心に巣をつくり。親鳥を待つヒナのように、日々アタシを待たせ、焦がせてく。

 あるときアナタの細い指先が伸びてきて、アタシの頬に触れたっけ。その冷たくもぬくい体温は惑わせの杖、アタシの燃えた心に吐息をもたらす呪文を繰り出し、火を煽る。

 アタシはアナタに恋模様。一通的な恋心。
 なのにアナタときたら。ときめきマナコはどこを向く? そっちじゃない。そこにアタシはいない。アナタにはアナタが恋する人がいる、きっと。その目は乙女にときめいて、無垢の羽衣羽織ってる。アナタはそっぽを向いたのに、そんなアナタに恋をした。片道切符の恋をした。

 好きです。

 目の前に現れないことをいいことに、アタシはアタシが創り上げたアナタに恋をする。そっぽを向いていると言うのに、そんなアナタはずかずかとアタシを占めていき、アタシをアナタで染めていく。
 アタシはアナタを創り上げる。デッサンの下書きにぺンを入れ、吹き出しにアナタの言葉を乗せてみて。線が画になり、無が有になり、血液が描かれて流れ出す。アナタの都合など考慮せず、無礼千万、自由奔放、拘泥なくして勝手にアナタを創り上げる。

 そんなアタシだけのアナタに恋をする。

 好きです。

 いつ揮発するかわからないアナタ。短命に終わるかもしれないアナタ。そんな不確定で脆くも儚い恋の灯なれど、今は燃え尽きんとばかりに轟々と、火力をどんどん強めてる。ごうごうと恋の炎をたぎらせて。

 好きです。

 真のアナタに似せたアタシだけの偽アナタにじゃ、本物のアナタの耳にアタシの生声は届かない。

 ねえ、アタシのアナタのモデルとなった本物さん、アタシの声、届いていますか?

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