好きな音楽のことなど 真空パック
第1回 シーナ&ロケット 真空パック
ハリー細野プロデュースのセカンドアルバム
1979年の作品。これが当時、中学生であった筆者のその後の音楽的嗜好を決定した、と言っていいですね。それだけ筆者にとって影響力の大きかったアルバムです。当時はLP盤を友達に借りて聴いていて、入手したのはやっと大学生の時です。
プロデュースは細野晴臣さん。クレジットは、Produced by Harry HOSONOとなっており、イエロー・マジック・オーケストラが特別参加、コンピュータプログラマーとして松武秀樹さんも。
1979年の6月から9月にかけて、アルファレコード芝浦”A”スタジオで録音、リミックスされた、とありますので、兄弟アルバムと言われるYMO『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』の録音直後です。
LP盤のA面が日本語詞の「インサイド」、B面が英語詞の「アウトサイド」となってます。
■インサイド
1 BATMAN THEME
誰もが知ってる「バットマンのテーマ」です。シナロケのライブでも定番曲ですね。後にザ・ジャムの1977年『イン・ザ・シティ』収録曲であることを知りましたが、細野さん、松武さんのMC-8によってテクノな仕上がりになってます。最後フェイドアウトで、次作『チャンネル・グー』収録の「たいくつな世界」のイントロが聴こえます。
2 YOU MAY DREAM
シナロケの最有名曲、アンセムと言っていいですね。作詞は我らが”菊”柴山俊之さんとクリス・モスデル氏ですが、クリス・モスデルという方はYMOの多くの作品を手がけているわりに当時、全然情報がなくて、誰かの変名なのかと思ってました。実在してますね、失礼。
作曲は鮎川誠さんと細野さんがクレジットされてますが、後にシナロケの『1979 DEMO』で明らかになるように、ほぼほぼ鮎川さんが作って、英語詞のブリッジを細野さんが足したようです。鮎川さんと細野さんの曲が、まさに合体してできた曲。
細野さん、松武さんのMC-8のほか、高橋ユキヒロさんがドラムで参加してます。
3 センチメンタル・フール
素晴らしい曲名ですよね。柴山さん&鮎川さんの曲で、柴山さんは1986年には『SENTIMENTAL FOOL』というソロアルバム、1987年には柴山俊之+SENTIMENTAL FOOL名義で『汚れた顔の天使』というアルバムを出してますので、相当な思い入れがあるんでしょう。細野さんがピアノで参加してます。
4 オマエガホシイ
ザ・ストゥージズの1970年「アイ・フィール・オールライト」に柴山さんとシーナさんが日本語詞をつけた作品。川嶋一秀さんのドラムと浅田孟さんのベース、そのグルーブとスピード感が原曲をブラッシュアップしてます。
5 レイジー・クレイジー・ブルース
シングル「YOU MAY DREAM」のB面曲。「by 柴山俊之-シーナ・ロケット 鮎川誠 イエロー・マジック・オーケストラ」とクレジットされてるようにYMO総出で作り上げた模様。「YOU MAY DREAM」もそうなんですが、これだけテクノ色が強いアレンジなのに、シナロケのライブで、4人のバンド編成で聴いても違和感が全くない凄い曲。ドラムはユキヒロさんとなってますので「YOU MAY DREAM」と同時に録音したんでしょうか。
6 恋のムーライトダンス
作詞は松本康さん、作曲は鮎川さん。松本康さんという方はクレジットにロケッツファンクラブとあるように、福岡のジュークレコードの方で、鮎川さん達と相当の親交があったことを、ここ数年で知りました。当時は全く知るよしもなかったのですが、福岡のファンの方々にとっては既知の事実だったのでしょうね。冒頭のSEはクルマで何処かへ行く様子ですが、何処へ行ったんでしょうか。シンセサイザーは”教授”坂本龍一さんです。
■アウトサイド
1 STIFF LIPPS
クリス・モスデル&鮎川誠作品。当時のディーヴォのスピード感を彷彿とさせる曲調で、今聴くとニューウェーブ全盛だったんだなぁと再認識させてくれます。
鮎川さんの追悼盤『VINTAGE VIOLENCE~鮎川誠GUITAR WORKS』に先行して発表された鮎川 誠 & シーナ & 小山田圭吾 リモデル名義のナンバーはまた違うアレンジ。
2 HEAVEN OR HELL
これもクリス・モスデル&鮎川誠作品です。シンプルなサウンドにシンプルな英語詞が可愛い印象。シーナさんのヴォーカルも緩急があっていい雰囲気で、最後の川嶋さんのドコドコドコもこれぞ、という感じ。
3 I GOT YOU, I FEEL GOOD
ジェームス・ブラウンのカバーです。シーナさんの歌声が凄い。音の隙間を生かしたアレンジも凄い。鮎川さんのソロもかっこいいし、こういうのをバンドでのアレンジのセンスというのですかね。中学生時の筆者が完全にノックアウトされた曲です。
4 YOU REALLY GOT ME
これはキンクスのカバー。シーナさんが歌うので「ガール」が「ボーイ」になってます。1978年にヴァン・ヘイレンもカバーしていて全然違う雰囲気になってるなぁ、と思った記憶がありますね。私は鮎川さんもエディ・ヴァン・ヘイレンも大好きなギタリストなので、ここはバンドの方向性の違い、ということで。
5 RADIO JUNK
クリス・モスデル&高橋ユキヒロ作品。当時のYMOライブ定番曲のスタジオバージョンが、このアルバムに収録されているのです。ヴォーカルは鮎川さんですが、ドラム&コーラスがユキヒロさん、シンセサイザーは教授、細野さん&松武さんはMC-8でやはりYMO総出、ユキヒロさんの登場で川嶋さんはコーラスとなってます。YMOライブ盤『パブリック・プレッシャー』収録曲ですので、ぜひ聴き比べていただきたい。私は断然シナロケバージョン推しです。
6 ロケット工場
坂本龍一作品。シナロケメンバーは誰も参加していないようですが、こういう遊びが当時のセンスなんでしょうね。最後2曲はYMOのアルバムに入っていておかしくない、というか今となってはYMOでやるべきだったのでは、という印象。まぁ、そういうことも含めての『真空パック』、後世に残したい作品です。
筆者が大学生の頃でしたので、80年代後半のことです。当時、やはりシナロケファンの友人が発見した音楽誌だったかレコード店のフリーペーパーだったかの鮎川さんのインタビュー記事で、インタビュアーが「シーナではなく柴山さんとまた組むべきでは?」と質問し、鮎川さんが「君はシーナが嫌いなんだね」と憤慨しているようなくだりがあって、おおーっと唸ったことがありました。鮎川さんが怒っている、というのは見たことありませんでしたので。
私の中ではシーナさんは既に「クイーン・オブ・ロックンロールハート」でしたので鮎川さん擁護でしたが、当時は鮎川さんと柴山さんが伝説化したサンハウスを一時的に再結成させた後だったこともあり、音楽業界では、シーナさんを評価する人はそんなに多くなかったと思います。
今、思うとそのようなアーティストに批判的なインタビュー記事が掲載されていた、という事実も貴重ではありますが、その後、誰もが認める「クイーン・オブ・ロックンロールハート」になったシーナさん。継続は力なり。ロックとは信じること、です。
ジャケットの写真ですが、オリジナルのラップを全身に巻いたバージョンのほか、USデビュー盤にも使われたメンバーがドリンクを持ったモノクロ写真のバージョンがあります。私はモノクロを最初に見ましたので、そっちが見慣れたイメージがありましたが、CD化された時はオリジナルバージョンが使われました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?