サプライズ花火への苦言
世間で流行っているらしい。俺は今日その存在を知った。
本日夕方頃、突然外から「ドン!」「ドン!」という低い音が聞こえてきた。聴覚で感じ取った、と言うよりは全身の感覚神経に訴えかけてきたという方が正しい。と言うのも、住んでいるアパートが振動する程の衝撃だったからだ。音の発信場所はかなり近いか、あるいは誰かが外壁に向かって直接何かを打ち付けていることさえ疑った(時々、他人の迷惑を考えずに建物の外壁を利用して球技の練習をする少年がいる)。不定の間隔で重低音が響く。あまりに恐怖心を煽る音だったため、怖くなり遮光カーテンを閉め外から中の様子を見られないようにした。その重低音の後に「パチパチパチッ」という火花が弾けるような音が聞こえた。ああ、花火か。何か催し物があるのだろうか?
検索エンジンGoogleにて「花火大会 (+居住地)」で検索をかける。特に何もない。若者同士で打ち合いなどしているのだろうか? 重低音が振動と共にアパートに響く間隔は次第に狭まっていく。普通に身の危険を感じたし最近物騒な事件も多いし、許可されていない場所での民間人の花火は確か普通に迷惑行為だ。そこで、俺は人生で初めて警察に通報した。なお、俺はどこまでも気が小さいので、家の中の、音の発生場所から1番遠いと思われるトイレの個室に引きこもって電話をかけた。万が一、外から通報者が自分だと気付かれ攻撃対象になったら怖いからだ。
窓口となったのは警察署は俺の在住する都道府県の本部と思しき方のようだ。「花火のような、大きなボールを壁に打ち付けられているような重低音が突然何度も聞こえてきて怖いです」と蚊の鳴くような声で訴えた。担当の50代前後と思しき男性からは住所と氏名を聞かれ、管轄の警察署に繋ぎます、と言った。緊急ダイヤルを使用したのは初めてのためご迷惑かと思い俺はしきりに恐縮していたのだが、その様子を感じ取ったのか、担当の警察官は温かい声で「何かあったらいつでも連絡くださいね」と言ってくれた。気の長そうな方で有り難かった。
ただ、相当デカい音だったので、同じような怖い思いをしている人がいるのではないかと思い、Twitterで「花火」と検索してみる(どうでもいいが、俺は地震等も感じ取ったらすぐTwitterを使用する)。検索結果には「ゲリラ花火?(1分前)」「○○(俺の居住地の近くの地名)サプライズ花火見れた!(華やかな写真付き)(3分前)」「綺麗〜☺️✨(動画付き)(15秒前)」
は???????????
友人に恐怖していた旨とオチまでLINEで報告すると、「最近サプライズ花火流行っているみたい」と草を生やしながら教えてくれた。怯えていたのは、もしかしたら着火地点付近のウサギ小屋アパートで世間との交わりを断って引きこもっている俺だけだったのかもしれない。
これは世間的には完全に俺が間抜けではないか? と思ったが、俺は他責的な人間で、かつ私生活が充実していない一人暮らしの繊細な引きこもりなので、普通にキレてる。
何の特別なこともない日(強いて言えば上皇様のお産まれになられた日だが)に、治安がいいとは言えない地域で、突然真近から爆発音が何回も響き、暫く止む気配が見られないという状況を想像してほしい。生命を脅かされているような思いがするだろう。コロナ騒動で花火大会も中止や延期が続き、花火職人も余った花火玉の処理に困っていたりするのかもしれないし、また、勿論着火地点の近くに住む人間より、たまたま遠くから空を見上げた方々の方が多いだろうし、そんな皆様は「素敵!」と思うかもしれない…が、そんなことは知ったことではない。花火なんてサプライズだろうが事前に知らされていようがどうせ綺麗なんだからせめて事前に予告しろよ。外を見て間近で美しさを享受することもできずただただ鳴り止まない爆音に震えていた俺の恐怖心を返せ。それから警察様を無駄に働かせてしまったことを謝れ。というかこんな傍迷惑なことを最初に思いついた人間は誰だ????そもそも恐らく引きこもり慣れしていないその辺の素人にステイホー強いるから悪い。ソーシャル・ディスタンスとやらは他人の恐怖心を感じ取る能力を欠如させ、結果としてこんな発想を生んだのだろう。コロナウイルスの怖さを思い知る。
ちなみに、本部から連絡を受けたのであろう管轄の警察署からは「俺さんのお電話でお間違いないでしょうか?」と折り返しの電話がかかってきた。俺は用件を伝える時でさえ蚊の鳴くような声で通報したのものの、どこまでも小心者なので先の電話相手に「この件は匿名で連絡しましょうか?」と言われた時だけは「はい!お願いします!」とハキハキと匿名通報をお願いしたい旨を告げ、例の男性には「それでは匿名で地方警察にお繋ぎしておきますね〜」と穏やかな返事を受け安心した。なので匿名通報されたはずの地方警察から「俺さんですか?」とか電話がかかってくるのは明らかにおかしいのだが、結果無事だったのでその点は突っ込まないことにする。事件性がない花火である旨を告げられた。
俺もたまには公権力に対して強気に出てみたいので、「SNS等で確認しましたがやはり間近でああ言うことをされると何も知らされていない身としては怖いです…」と強調する。警察からは「まあサプライズ花火なので事前にお知らせというのはね…」と苦笑とも取れる温かみのある口調で返答される。いやお前は何ほっこりしてんだよ。俺からしたら立派な迷惑行為なんだよ。強気に取り締まれ。と言うかこう言うデカい花火の打ち上げって事前に然るべき役所に届出とかしなくていいのか…?まあいいか。世間知らずの引きこもりの俺が悪いですと思いつつ電話を切った。一応、警察からは「不安なことがあったらいつでも通報してくださいね」とこれまた謎のフォローをいただいたのだが、いつでも緊急ダイヤルを回せるほど俺は無神経な人間ではない。
そう言うことで暫く俺は花火を恨み続けると思う。俺の前で誰かが「はなb…」とか言いかけようものなら発狂して別人格が誕生し未知なる“もう一人のボク“が攻撃的な言動を取る可能性があるので控えていただきたい。
サプライズ花火を検討している皆さんへ
・一部の人には迷惑行為となることをご理解いただけないでしょうか。
サプライズ花火を有難がっている皆さんへ
・迷惑行為を助長させるのはやめてください。
以上、河川敷の近くに住む、窓を開ける勇気さえない世間知らずの引きこもりより恨みを込めて。明日はクリスマスイブなので久しぶりに外出てローストチキンでも買って食おうかなと思っています。少し早いですがメリークリスマス。