「理不尽が日常」第1話
(あらすじ)
派遣で働く中年男子の苦悩とストレスを描いていきます。
男女共通の派遣あるある、男の派遣だから得したこと、損したこと、差別されたことなどを描写します。
クライアント企業の顔色ばかりを伺い、使い捨てのように派遣社員を扱う派遣会社や、貶めるために存在させるのか、というぐらい派遣を雑に扱う就業先の企業についても掘り下げ、派遣未経験の会社員には知られていない事情を著します。
中年派遣男子の脳内にたまった不満を引き出したり、解説するために、派遣君、派遣さんというキャラクターも登場させます。
また、懐かしいドラマのパロディを登場させたりして、あまり暗く陰惨にならないように、悲惨さも笑えるように表現していきます。
(登場人物)
・中年派遣男子
昭和4X年生まれの氷河期世代。正社員、契約社員、派遣社員など、さまざまな形態を経験。さて最終形態は?
苦労しているのに、どこか明るく、メンタルが強い。いろいろあっても働くことを止めようと思ったことはない。しかし、将来不安は大きい。
・派遣君
アラフォー。韓流系イケメンで背が高い。中年派遣男子の脳内キャラクター。大学院まで進学したが、就職先に恵まれなかった高学歴派遣。
中年派遣男子とは友人のように仲良くやりとりする。見た目は隙のないイケメンだが、どこか抜けている。
・派遣さん
アラサーの韓流系美女。すらりとしていて背が高く、気が強い。しかし、情にもろいところも。
中年派遣男子の脳内キャラクター。女優をめざしていたこともあり、派遣の道へ。しかし、副業でモデルもやっているので裕福。
中年派遣男子と派遣君に強くあたるが、言っていることは正論。見た目は派手だが生真面目で優秀。
・男
派遣会社Aの社員
(その他)
以下のような派遣あるある(?)をエピソードに織り込みながら、話を展開していきます。派遣社員の経験があるものにとっては”あるある”でも世間一般には知られていないことも多くあるので、そういったことを書いていきます。
・「ここだけの話」は嘘! 派遣会社に伝えた不満は就業会社に筒抜け
・「人手不足」で採用、「人手が足りてるから」と契約打ち切り。担当社員の好き嫌いで経歴を滅茶苦茶にされる派遣
・派遣社員は使い捨て、クライアントは永久保存。自分たちの都合で派遣を殺しまくる派遣会社の営業社員
・望んでもいないのに、”正社員昇格”をチラつかされる派遣
・派遣に口なし。担当社員が嘘を吹聴しまくりで追い詰められる派遣
・派遣は時給で働いてるからと休憩を取らせず、自分たちは煙草休憩ばかりしている正社員
・実家はビルを持っていると自慢し、低収入の派遣をバカにする正社員
・「気の強い女は嫌いですか?」面談で堂々とセクハラするブスデブばばあ正社員
・正社員たちがおしゃべりしまくるせいでコロナをうつされる派遣
・時間内に終わらないほどの仕事を振り、派遣を残業代泥棒と責める正社員
・コールセンター(集団型)、正社員チームにひとりで参戦(個人戦)、、、いろいろあります派遣のタイプ
(第一話)
〇暗闇の中
中年派遣男子(以下、男子)、暗闇に立っている。
男子「はて? ここはどこ?」
男子にスポットライトが当たる。なぜかブルマを履いて、女子の体操服姿になっている。
男子「え?」
男子、驚いて、股間を隠す。
男子「え? 何? なに?」
と赤らんでいる。
どこからかバレーボールが飛んでくる。
そのボールが男子の頬をヒットする。倒れる男子。
ボールの当たった頬をおさえ、キッと鋭い視線をボールが飛んできたほうへ投げかける。
男子(M:モノローグ)「父さんにも殴られたことがないのに(嘘、ぼかすか殴られてた)」
視線の先は闇。闇の中から再び白いボールが飛んでくる。
ボールには”自己責任”と書いている。男子、器用に回転レシーブする。
男子(M)「自己責任?」
再びボールが飛んでくる。ボールには、”氷河期”とある。
男子、レシーブするが、ボールの勢いに圧され、ボールはきちんと上に上がらない。ボールは後ろに流れる。
男子(M)「くそっ。もう一本!」
ボールは次々と飛んでくる。必死にきびきびとひろいまくる男子。
ボールには”スパルタ教育”、”なんでも高倍率”、”熱血”、”体罰”、”過重労働”、”受験戦争”、”ベビーブーム”、”根性”、”パワハラ”、”受験戦争”、”団塊ジュニア”、”ワープア”などと書いてある。
それらの球をひろいまくる男子。額から汗が流れ、疲れがではじめる。
男子「まだ、まだ」
ボールが続いて飛んでくる。
”教育格差”、”貧困連鎖”、”生涯賃金”、”格差”、”差別”、”偏見”、”派遣”、”搾取”などの字がボールに書いてある。
中には真っ黒の地に、白字で”ブラック”とかかれた球もある。
男子、だんだんボールをレシーブできなくなってくる。
男子がふらふらになっているところにトドメのように鋭いボールが飛んでくる。
ボールには”やっぱり自己責任”と書いてある。
ふらふらの男子、ボールを胸に受けて、うつぶせに倒れる。
男子、顔をあげて、ボールが飛んできていたほうを見る。闇の中から、目だけ黒抜きの白い仮面で顔を隠した男が現れる。
ジャージ姿で、胸のゼッケンには「派遣会社A」とある。
男「ふん、しぶとかったな」
男、大きな手で握りしめたバレーボールを振りかぶる。ボールには、”鵜め!”と書いてある。男子、男のほうから目を背ける。
男「代わりはごまんといるんだよ!」
と、ボールを男子のほうに投げる。
”鵜め!”の文字が回転しながら、男子に向かう。ボールがヨーヨーの先端で弾かれる。
男「え?」
シュルシュルとヨーヨーの音。男が音のするほうを目を凝らして見る。
ブルマで女子体操着姿の長身の男がヨーヨーを上下させながら、二人のほうにやってくる。
胸のゼッケンには「派遣君」とある。派遣君は、鉄仮面をつけている。
男子、顔をあげ、派遣君に気づく。男子、派遣君の股間を凝視する。
男子(M)「俺のより切り込みが・・・そしてすごいもっこり」
派遣君、ヨーヨーを上下させるのを止め、足を止める。
男子「・・・スケバン・・・刑事?」
派遣君、男とにらみ合う。
派遣君「おんしゃら、許さんぜよ!」
と男にヨーヨーを放つ。男、肩にヨーヨーを受け、後ろに吹っ飛ばされる。
派遣君、男子に近寄り、上半身をおこしながら、
派遣君「大丈夫?」
男子「あ、うん、ありがと」
男子、派遣君の鉄仮面を見ながら、
男子(M)「首、大丈夫なの?」
二人めがけて、再びボールが飛んでくる。”政府認定の高ピンハネ”と書かれている。
派遣君「危ない!」
と身を挺して、男子をかばう。
鉄仮面の眉間にボールが当たる。
派遣君「うっ」
と少し後ろに後ずさる。鉄仮面が真っ二つになって割れて落ちる。
急に強い風が吹き、風を受ける派遣君の素顔。髪を揺らしながら、立ち上がり、
派遣君「うちの、頬に・・・風が・・・あたっちょる」
男子(M)「うち? 土佐弁? なんなのこれ?」
派遣君、呆然としている。放心しながら、興奮して、ずっと頬を撫でている。
派遣君「これが、うちの肌・・・ほ・、ほ・・・」
男子(M)「世界観、入り込みすぎやろ」
その様子を見ていた男、にやりと笑って派遣君にボールを投げつける。ボールには”二度目はない!”とある。勢いよく飛んでくるボール。
男子、放心し続けている派遣君の前に出る。
男子「危ない」
男子、ボールを受ける覚悟で目を閉じる。
ボールが何かで弾かれる。ボールを止めた何かが男子の足元に転がってくる。
男子「ビー玉?」
闇の中からビー玉が立て続けに飛んでくる。
ビー玉が男をめがけて飛ぶ。男、ビー玉を腹に受け、倒れ込む。
男「ううっ」
闇の中から、ブルマの体操着姿のスタイル抜群の美女が走り出てくる。
胸のゼッケンには「派遣さん」とある。派遣さん、派遣君と男子のほうにやってきて、二人をかばうように立つ。
派遣さん「大丈夫?」
男子「あ、うん。ありがと」
派遣君、まだ放心して自分の頬をなでなでしている。
派遣君「これがうちの・・・」
派遣さん「しっかりして!」
派遣さんの声で目がさめる派遣君。
派遣君「ぼくは何を・・・」
派遣君、目の前に倒れる男に気づき、ヨーヨーを構える。
派遣君、立ち上がりかけた男に向かってヨーヨーを放つ。
男の頬を打つヨーヨー。男、後ろに倒れ込む。
男子「やったっ!」
派遣さん「ううん、まだよ」
男子「え?」
派遣君「まだ生きてる」
男子「え?」
男子(M)「殺すの?」
男子、戸惑った表情を浮かべる。
派遣さん「今の世の中、やらなきゃやられるのよ。ずっとそうだったでしょ?」
派遣君「そうだよ。あなたは人が良すぎる。ずっとこのままでいいの?」
派遣さん「老後はどうするの? 生活保護でも受ける気?」
男子、何も言い返すことができない。
派遣さん「戦いなさい」
派遣君「これで」
派遣君、何かを握りしめ、男子に渡す。男子の手の平の中で渡されたものが広がる。それはくしゃくしゃの布。
男子(M)「なんじゃこりゃ」
男子、派遣君に渡された布を検分する。
男子(M)「ペラペラやん」
男、うなりながら立ち上がりかける。男、再び崩れるが、虫のように動いている。男、再び立ち上がろうとする。
派遣さん「トドメを!」
派遣君「さあ!」
男子(M)「こいつがヨーヨーで、こいつがビー玉で・・・ってことはこれは袱紗!」
男子がそれに気づくと、三人はセーラー服姿になっている。
♪なぜの嵐♪がバックミュージックで流れる。♪よーるがくろーいかげーのようにこの町隠しても、迷い子、みたいに・・・
男子(M)「俺もヨーヨーが良かったのに!」
男子、袱紗をピシッと広げ、構える。なぜかピンっと張りつめて立ち上がる袱紗。
男、うなりながら立ち上がる。男子、袱紗を構える。
派遣君「さあ!」
派遣さん「今よ!」
男子、袱紗を振りかぶり、アンダースローで男のほうへ投げる。
ひし形に張りつめ、回転しながら、男のほうに飛んでいく袱紗。
袱紗、男の額にブスっと刺さる。
男子(M)「え? オリジナルには無かった威力」
男の額から噴き出す血。男、後ろに倒れる。
派遣君「やったね!」
派遣さん「すごいわ」
男子に抱き着いて盛り上がる二人。あっけにとられている男子がだったが、ぴくぴくと虫のように転がる男を目にして、男を倒したよろこびがふつふつと湧いてくる。
男子(M)「やった、これでもう搾取されない」
男子、破顔して、派遣さんと派遣君と手を取り、喜び合う。
〇男子の部屋(朝)
古く狭いワンルームマンション。目覚ましが鳴っている。安っぽいパイプベッドに眠っていた男子、ううっと目を覚ます。
男子、目覚ましを止めながら、
男子「夢か・・・」
男子、のろのろと布団から起き出す。
男子、テレビをつける。テレビから朝のニュース番組が流れる。
男子「なんだったんだろ・・・」
男子、目をこする。男子、寝ぼけたまま、
男子(M)「用意して出かけないと」
と、洗面所に立つ。
男子、はみがみを始める。
男子(M)「搾取されようがボールぶつけられようが、働かないと」
男子、寝ぼけたままま、歯を磨き続ける。
男子(M)「いったいいつまでこんなこと・・・」
テレビでは、物価高騰のニュースが流れている。
アナウンサー「秋からはさらに多くのものの値上がりが予定されており・・・」
男子(M)「働かないと・・・懸命に」
男子、虚ろな目で歯磨きを続ける。
(第一話 終了)
第2話:
第3話:
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