【ebihiyoko】乙戯社観劇レポート01
こんにちは、夫婦ライターのEbihiyokoです。5月4日(金)、乙戯社による音楽劇『サイドシートひとつぶんの新宿』を観劇しました。
上映時間は1時間程度の中編で、ゴールデンウィークの空いた時間に観るのに、ちょうど良いボリューム感。ビターではありますが後味の良い物語、心を揺さぶるオリジナルの楽曲、観客に寄り添う優しを持ったキャストの演技・・・長期休暇の中日に、とても上質な時間を提供してくれました。
物語は、とある日の新宿、水商売の送迎車の中。新人ホステスの女と、送迎車のドライバーを務める男との、5年間のラブストーリーです。この日は、女の18歳の誕生日です。出会って3カ月間、互いに名前も知らなかった2人が、ふと始めた女の身の上話をきっかけに、心と体を通わせていくことになるのです。
この二人、両方とも、とても不器用な人間です。「幸せ」や「夢」、それぞれ追い求めるモノが明確に分かっていながら、賢くそれらを追求することができていません。その理由が自分自身にあることは、当人たちもわかっているのですが、どんなに足掻いても上手くいかない現実に、二人は疲れ切っていいます。そんな二人のラブストーリーは、愛し合うと同時に、互いを傷つけ合う関係になってしまいます。
本作を制作した乙戯社の活動目的に、「多様な愛を全肯定するラブストーリーを提供する」という文面がありました。この二人の関係も、まさしく、万人にとって「肯定」される物語ではありません。互いを傷つけ、繋がりを求めながらも離れていってしまう、ある意味で破滅的な側面も持っています。しかし、作品を通して感じるのは、そんな二人に寄り添う「優しさ」です。演出や役者の視点は、この2人のラブストーリーを全力で肯定しています。だからこそ、作品を観劇をする我々も、この二人の物語を、心から愛おしく感じることができるのです。
そして、この作品はラブストーリーであると同時に、厳しい現実に必死で足掻いている人々への「応援物語」でもあると感じました。人生に壁を感じている人にとって、「新たな一歩」というのは、非常に重いものです。世間は、その「一歩の先」を求めますが、当人たちにとっては、どんなに時間が掛かったとしても、「一歩を踏み出した今」にこそ本当の価値がある、ということを作品が教えてくれます。
5度目の誕生日を迎えた時、二人が出す結論は、決して当初の本人達が望んだ結末ではないかもしれません。ただ、二人の人生は、まだまだ半ばです。それぞれ「追い求めるモノ」に向けての「一歩」を踏み出せた、そんな希望を感じさせてくれるラストで、舞台は幕を閉じます。
ちょっと回りくどい表現ですが、昨今流行りの動画ストリーミングサービスを、ちょっとした隙間時間に鑑賞して、それまで未発見の良作を発掘した・・・そんな気分にさせてくれる作品です。そんな「掘り出し物の作品」である、この『サイドシートひとつぶんの新宿』を多くの人へ知ってもらいたいです。