連載:マレーシアのチャンプルな友人達とその食卓。映画音楽で踊る
それは、マレーシア、イポーでのできごとです。
地元の友人に、雰囲気も味もいいよとすすめられて、レストラン「Dubar at FMS」へ。
まず、目に飛びこんできたのは、神様の像が三体と黒い液体入りのミニコップ。
レジの前に、うやうやしく置かれていました。
マレーシアでは、道路脇や中華レストランの店内に、赤色の祭壇のようなものがあり、そのなかに神様が祀られているのはよく見るのですが、こんなふうに、神様が生身で整列しているのはめずらしい。
なんだろう、と眺めていたら、奥から、オールバックでネクタイをびしっとしめたダンディな店長が出てきてくれて、神さまにお供えをしているんだよ、と教えてくれました。道教の神さまで左から福、禄、寿の神。黒い液体はギネスビール、とのこと。
じつはこのレストランの前身は、1906年創業、マレーシア最古といわれる有名な「FMSバー」。FMSとは、1896から1941年まで存在したマレー連合州(FMS:Federated Malay States)のことで、イポーのあるペラ、セランゴール、ネグリスンビラン、パハンの4国(現在は州ですが当時は独立した王国)をまとめた呼び名。イギリスとの協定により、イギリスの保護下にありました。当時、FMSバーは、ヨーロッパ人VIPや財を成した錫鉱山オーナーが集うイポーの社交場だったそうです。
FMSバーは、2008年に惜しまれつつ閉店。そして2019年、地元出身の建築家と店のオーナーが手を組み「Dubar at FMS」としてリニューアルオープン。
コロニアル式ビルの外観は当時のまま。ヨーロッパ風の調度品、天井から吊りさがったレトロな照明、レトロな食堂にはかならずある大理石のテーブルなど、西洋と東洋の両方の感じさせます。まさしく1900年代のクラシックバーという洗練された空間で、うっとりでした。
さて、その日の夕方、あらためてディナーをしに伺いました。
メニューは西洋料理とローカル料理の両方があり、ステーキ、フィッシュアンドチップス、海南チキンチョップ、海鮮あんかけ麺などさまざま。その色んな料理の幅が、若い人から年配者まで、さまざまな客層を集めているようです。
どの料理もおいして驚き。とくに印象にのこっているのは、看板メニューのオックステールスープで、ビーフシチューのような濃厚な味で美味でした。
これだけでは終わりません。
いい店に出会ったなぁと大満足で食事をおえたころ、にわかに店内が騒がしくなってきました。
すると、店内にバースデーソングが流れて、ケーキが登場。どうやら団体さんは誕生日パーティーだったようです。写真撮影が済み、おわったかと思っていたら、予期せぬ音楽が流れだしました。
マイケル・ジャクソンの「バッド」。
すると、昼間にお世話になった店長が踊り出したのです。
えええ! シルクハットに手をかけて、足のステップは軽やか。えええっ!
キレッキレでノリノリ。お客さんはみな大盛り上がりで、拍手あり、スマホ撮影あり、かけごえ声あり。なんだかみんな一体化してきました。そして次は女性とペアでツイストダンス。
年のことをいうのは野暮の極みですが、たぶん、ふたりとも人生の先輩で60歳は超えている。そんな方が、名曲で思いっきりダンス。
かっこいい! 店長さんみたいな素敵な年配者になりたい。人生の目標ができました。
あらためてこのレストランでの体験を思い出すと
入口で道教の神様を発見し、壁からはイギリス皇室の写真がこちらを眺めていて、西洋料理とローカル料理の両方を楽しむことができ、映画音楽に合わせて店長のダンス。そして見つけたわたしの人生の目標。
うーん、カオスです、笑。
洗練された空間で体験するカオス。最高の旅の1日でした。