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映画『夕霧花園』をみて。

この映画、見てよかった。心からそう思う。

主人公は、第二次世界大戦で日本軍の犠牲になった妹をもつマレーシア人女性、ユンリン。日本庭園に魅了されていた妹の夢を叶えるべく、ひとりの日本人庭師、中村に出会う。

彼らが出会ったのは、キャメロン・ハイランドという、マレー半島中央に位置する海抜1800mの高原。キャメロンという名が物語るように、19世紀の後半、当時支配層であったイギリス人によって発見された場所。現在は、上の写真のように紅茶畑が広がる美しいリゾート地として知られている。

『夕霧花園』では、キャメロン・ハイランドという場所が、重要なカギになっていた。戦中にユンリンが妹とともにいた収容所があり、日本軍が去ったあとは、イギリス人要人が避暑地として暮らすという数奇な史実をもつキャメロン・ハイランド。また、戦後にジャングルでゲリラ戦をおこなっていたマラヤ共産党も姿を現す。


さて、ライターらしく、もっと気のきいた感想を伝えたいのだけど、知識も語彙力も決意も書けているわたしには、はずかしいが、見てよかった、という言葉しか出てこない。それぐらい、描いているテーマは重く、正直、目を背けたくなるシーンが何度もあった。たぶん、主役のマレーシア出身のリー・シンジエさんも、日本人庭師を演じた阿部寛さんも、笑顔を見せたシーンはひとつも無かったように思う。

そんなシリアスな内容なのに、一方で、この映画はとても美しく、やさしいと感じた。それはキャメロン・ハイランドのもつ圧倒的な自然の美しさであり、誰にでも平等に訪れる時間の流れというやさしさだったように思う。


意外に思うかな、いや思わないかな。
じつはマレーシアに触れていると、日本軍の名残りによく出会う。

たとえば、ボルネオ島の有名な観光地「ポーリン温泉」は日本軍が掘った源泉といわれているし、イポーの高級リゾートホテル「ザ・バンジャラン」にある温泉も同様。

また、クアラルンプール在住時代に通っていたゴルフ場には、日本軍が掘った洞窟があった。あと、日本にもある学校の怪談ばなしに、日本軍のおばけは常連級の登場率。「真夜中に学校にいくと、日本軍が行進していた」は学校怪談あるあるだ。また、ランカウイやコタバルなどの地方で親しまれている「DORAYAKI」というローカル菓子は日本軍が伝えたのでは、という人もいる(*)。

こんなふうに、戦争批判のようなダイレクトな内容ではなく、日常にある小さなエピソードのなかで日本軍という言葉を耳にする機会がとても多い。だから、そのたびに感じる。戦争は過去のものじゃないんだな、と。

映画を見てあらためて思った。戦争はいかん。そして、ユンリンと中村のふたりのつながりが、中村とフレドリックの信頼関係が、過去をすこしずつ溶かして未来につないでいったように、国という単位ではなく、個人と個人のつながりが明日につながる種になるんだな、と感じた。

今、ハマって読んでいる、生物進化の物語り『ワンダフル・ライフ』(スティーヴン・ジェイ・グールド著)この言葉をラストに。

好奇心の強い霊長類たる人間は、目で見たり手で撫でまわしたりできる具体的な対象をとくに慈しむ。神が宿るのは細部であって、純然たる一般性という領域ではない。


なお、上映を記念し、映画の半券を持っていくと、渋谷のマレーシア料理店「マレーアジアンクイジーン」テタレが1杯飲めます。こちらがチラシです。

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(*)DORAYAKIは日本軍ではなくアニメの影響かも。ランカウイの夜市でみたDORAYAKIは、小ぶりのパンケーキに餡入り(今川焼似)だった。

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