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『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』感想

 あの……TVアニメ本編より断然完成度高くなかったですか……!? 観に行ってよかったです。TVアニメはこの映画に辿りつくために生まれたんだと思いたくなるような、それでいてエピローグのような、続編にして完結編……「ようやく終わった、私たちのレヴュー『スタァライト』が」。
 こんなに良い作品になってると思わなくて本当にびっくりした。

※以下はふんわり劇場版のネタバレを含んでいますが、主にTVアニメを観たときわたしがどこに違和感を抱いたかの話をしています
※アニメはほぼ1周しか見てないです
※台詞はうろ覚えです

 アニメを観たとき、絵もキャラもかわいくてアニメーションも劇中歌とその演出も高クオリティで、それなのに今一つはまりきれませんでした。当時は今以上にあんまりアニメを見たことがなくて、アニメーション作品における概念の表象の仕方を上手く読み取れなかったのかもしれないけど、「このアニメをつくっているひと(たち)は、女の子たちが歌って踊って戦うのは好きなんだろうけど、ひょっとして『舞台』というものにはそれほど興味がないのでは……?」と思うところがあったから。
 わたしは、わたし自身は(文化祭のクラス劇とかを除いては)演劇をやったことがなくて、観る側としての経験もさほどあるわけではないので偉そうなことは言えないんだけど、演劇ってポジションゼロ以外の全ての要素に支えられてこそのセンターだと思う。だから、「トップスタァになれなければ無意味(キラめきを失う)」というコンセプトに非常に違和感があった。
(このあたり、宝塚を観たらまた違うのかもしれないけど……宝塚のシステム全然知らなくて、「トップスター」というのはその都度の主役とかではなくて明確に決まっているというのもわりと最近知りました)
 同時に、(「オーディション」という位置づけであるとはいえ)観客不在のまま進行するレヴュー、まるでどこかに「キラめき」を測る客観的で絶対的な物差しがあるかのような勝敗の決まり方にも違和感があった。
 キリンという「観客」はいるけれど、ほとんど明らかに「我々」であるところのかれの態度はあまりにも消費的で、露悪的というか、「これが我々の態度なんですよ」って言われるの悔しくないですか。そりゃあ正鵠を射ている部分もあるけど、それだけじゃないと思いたい。

(追記:今TVアニメを復習してきたのですが、キリンに関しては最終話でほとんど疑問の余地がないくらい本人が解説してましたね。「トップスタァになれなければキラめきを失う」というより、「運命の舞台をキラめかせるためには他の舞台少女たちのキラめきを奪って燃料にしなければならない」というのに違和感があると言ったほうが適切かも)

 ところが、劇場版はメインテーマの「卒業」にはっきり集中しつつポジションゼロ以外のところにもちゃんと目配りが利いていて、レヴューによってアニメーションでしかできない表現で作品のテーマを描いていて、何よりキリンが自分の役割を自覚してしっかり燃えてた。最高になっててびっくりした。
 約束のタワーは約束が果たされたら倒壊する。落とす影が線路になって、列車は必ず次の駅へ。瓦礫と化すポジションゼロ。
 TVアニメではほとんど視界に入っていなかったといってもいいB組のメンバーも、しっかり存在が示されていて、一緒に舞台を作り上げているから、スタァはスタァとして立つことができる。かれらもまた舞台少女。

※以下は完全にネタバレです※

 上述のとおり作品のつくりに違和感を抱いていたのに、なぜ映画まで観に行ったかというと、信頼する友人知人のなかにスタァライトを好きでいるひとたちがいて、一方でわたしは納得しきれないままだったのでもっと理解したかったのと、あと花柳香子はんがかわいいからでした。劇場版が公開されていると知ってから観に行くか散々迷い、TVアニメの第6話を見返して「香子はんほんまかわええ……」と頭を抱えて床を転げまわり、結局観に行った。

 TVアニメは一周見たきりだったから、6話だけでも復習していって良かった……香子はんの次に好きなのがクロちゃんなので、香子と双葉、真矢さまとクロちゃんの構図をしっかり押さえたうえで香子と双葉のレヴューが香子VSクロちゃんのシーンから始まるのを観られてよかった。「うちの大事なお菓子箱」の台詞好きすぎる。
 でもって香子と双葉が戦いながらお堂の壁をぶち破って出ていくのを、やれやれ、あとはお二人さんでよろしくやってね、といった顔で見送るクロちゃんすき。
 しかしわたしは悪いキリンなので! 香子はんが舞台とは別の道を進んでしまうのは寂しい! キリンもそう思ったから最後に丁半させたり肩脱がしたりお酒につけたりしたんやろ!?
(真矢さまがあれこれ衣装替えあるのはレヴューのテーマに絡んでいたけど、香子のは、キリンが見たかったからとしか思えない……いやスタァライトはTVアニメでも香子&双葉に和風モチーフぜんぶ乗せしてたけども)
 「他の女の話なんかうっといわ」って、こんな子に幼少期に出会って心を掴まれてしまったらそりゃあ生涯を捧げてしまう(「毎日お菓子買って寝かしつけて送り迎えしてやったじゃんか!」って、ね、寝かしつけるところまで……!?)……でもって怨みのレヴューラストの、双葉はんが香子の上に馬乗りになって割れたサイドミラーの破片で上掛けの紐を切るところ、あの、はい、すみません外野が鑑賞してしまいまして……いやこれレヴューなんですけど……。
 終わったあとつい物販コーナー覗いちゃったけど、香子はんのあの制服姿のアクスタ置いてなくて(それかもう売り切れてて)……さみしいなあ。祝福しているけど。
 それはそれとして突然自分の話ですが、次の駅に着きたくなくて途中下車をくりかえしているようなところがある人間なので、あの爽やかで希望に満ちたエンドロールでちょっと死にたくなりました。九九組のことは祝福しています。

 クロちゃんと真矢さまのレヴューもすーごく良かったです。悪魔の恰好のクロちゃんかっこよすぎるクロディーヌさまと呼ばせてください。『ファウスト』読了していて本当に良かった、あれメフィストフェレスですよね?
 「あんた、今まででいちばんかわいいわ」「私はいつでもかわいい!」のやりとりも最高に好き、どう見ても「美しい」と評価されているであろう真矢さま自分のことかわいいと思ってたんですか、かわいい。
 そして最後の瞬間の、薔薇に飾られ額縁に切り取られたクロちゃん……はあ……「とまれ。おまえはじつに美しいから」(※)と言いたい瞬間ってこのことじゃないですか?
 オーディションじゃないから、ああいう決着のつけ方ができるんですねえ。
※『ファウスト』1700行目(中公文庫、手塚富雄訳を参照)

 作中の順序を無視して先に推しの話をしてしまったけど、純那ちゃんとばななちゃん、まひるちゃん(とひかりちゃん)のレヴューももちろん良かったです。
 TVアニメ視聴時のもう一つの違和感が、「ワタシ再生産」というキーワードにあった。というのも「再生産」という語は、ふつう同じものがまたつくられるというところが肝要だと思うんだけど、舞台が「再演」されることはあっても「再生産」されることはありえない。しかもそれを「舞台少女は日々進化中!」を唱える華恋ちゃんが背負うって、言葉選びが間違ってるんじゃないかと感じたから。再生産じゃなくて再創造じゃないだろうか。
 だから、くりかえし第99回聖翔祭のスタァライト再演を願っていたばななちゃんのレヴューが、舞台ではなく映画仕立てだったのが大変しっくりきた(それもたいそう保守的な衣装とセットで……邦画をほとんど見てないのでもっといろいろ文脈があるのかもしれないけど、個人的には「将校の切腹」というモチーフで三島由紀夫『憂国』を想起しました)。
 わたしは、あらゆるひとにとって学問は大事だと信じているので、自分じゃスターになれないから別のルートに進むなんて逃げだと糾弾するばななちゃんを、純那ちゃんが最終的にこてんぱんにしてくれたのが嬉しかったです(この言い方はばななちゃんに悪いようだけど、純那ちゃんがちゃんとばななちゃんより強かったことは、ばななちゃんにとって良かったのだと思う)(わたしは純那ちゃんのことがかなり好きなので、あんまり公平な見方をしていないかもしれないけど……でも、「他人の言葉じゃだめ!」と言いながら、純那ちゃんは自分の石=キラめきを埋め込んだばななちゃん=他人の刀を武器に戦ったわけで、他人の言葉=知識を力にできるのは純那ちゃんが持っている特別な武器だって思うよ)。(同時に)狩りのレヴュー後半の純那ちゃんの切腹用の刀、そのあとの純那ちゃんの武器がばななちゃんの刀になるのは、本当に過去と決別しなければならなかったのはばななちゃんのほうだったからなのかなあとも思います。
 スタァライトが女の子どうしの因縁を描くことに心血を注いでいるのはTVアニメの最初の最初から明らかだけど、「泣いちゃった」という台詞を選ぶあたり、それが「女の子であること」が制作にとって絶対のこだわりポイントなんだなあと感じます(そりゃあ「舞台少女」を描いた作品ですから)。それでも、少女だった過去の自分を殺して次の舞台へ、を描くの本当にえらいと思う。「私たちはもう舞台の上」。流される血は熟れきったトマトのように甘い。
 ところでばななちゃんが「再演の果てに私たちの死を見た」と言っていたのは、ひょっとして再生産総集編ロンドロンドロンドですか?(さっき公式サイトのイントロダクションを見たら、ばななちゃん視点のあらすじが書いてあってびっくりした)(観てないんだけど……観るべき……? →2021/12/21追記 観ました。最後完全に新作劇場版につながってた……)

 それと「ワタシ再生産」というフレーズについても、ラストで「愛城華恋」に生まれ変わったあと、その看板は打ち捨てられていたのが答えなのかなと納得しました。今までの華恋ちゃんは「ひかりちゃんとふたりでスタァライトする」自分を何度も生産していたけど、もう、再生産じゃなくて、次の舞台に立っているから。

 まひるちゃんのレヴューも本当にかっこよくて……まひるちゃんは聖翔での3年間で本当に役者として努力して成長したんだなって思いました……。
 ほんと、まひるちゃんと舞台に立ってるんだからちゃんとまひるちゃんを見て演技してよひかりちゃん。まひるちゃんは「ひかりちゃんと一緒の舞台に立てて嬉しかったよ」って言ってたけど、あれ、ひかりちゃんはほとんど演じてないよね。
 それでも「同じだね」って笑顔で許してあげるあたり、器が大きい……。
 ひかりちゃんを、ひいては華恋ちゃんを線路の先へと押し出すのがまひるちゃんだったというの、すっごく良かったです。

 円盤情報まだ出てないよね? でも円盤になるよね?
 その前にもう一回TVアニメ復習して劇場に観に行きたいです。

おまけ:The LIVE観ました

 公式が「少女☆歌劇 レヴュースタァライト-The LIVE- #1 revival」のミュージカルパートをYouTubeで配信していたのを観ました。

 TVアニメを観てからしばらく経つのでわたしの記憶のが間違ってるのかもしれないけど、キャラ解釈がアニメとだいぶ違くてびっくりしました。特に真矢さま(The LIVEの真矢さまは自分以外に興味がないし自分にとって有益なもの以外は全てむだ、みたいな感じだったけど、アニメの真矢さまは、同じ舞台に立つ自分以外の役者のこともちゃんとよく見ていたから(それは良い舞台をつくるのに必要なことだからね)。直前で見返していた6話で香子に「同じものを感じていましたから」と語った印象が、特に強く残っていたのかもしれないけど)。というかA組が全体的に仲悪くて……TVアニメと違ってこの舞台をつくったひとは百合に興味がないのかなとすら思った。
 逆に「舞台」という概念に対する理解とかこだわりはTVアニメより断然強くて、そちらの観点から、しかも一公演にまとめたら当然違う話になるよなあと思った。TVアニメで気になった点をひと言でいうと「(作品を受け取ろうとする)観客の不在」なんですが、The LIVEでは我々でもキリンでもなく、先生たちがレヴューを観ている、これは決定的な違いだと思う。The show must go on. (これだけ話を変えられるなら、いっそあんステみたいな感じで、我々(客席)を演出に組み込んでもおもしろくなったんじゃないかなあと思う)

 わたしは作品自体を見たことがあるだけで、制作側については何も知らないしスタリラやThe LIVEを含めたプロジェクトの全貌も把握していないので、これはただの戯言なのですが、ひょっとして、舞台化をやっていくうちにアニメ制作陣の「演劇」というものに対する理解が深まった結果が、劇場版の描き方に結実したのかなあと……ちょっと夢想しています。

以下、ただの感想覚書

・わたしが観たことのある2.5次元舞台はウィッグもメイクも「元のキャラクターを立体に起こす」みたいな寄せ方をしていくので、ほとんど皆さん地毛なのかな、ウィッグを使わないし髪色もアニメの色じゃないのが新鮮だった(スタァライトはアニメと舞台が同じキャストなのでまたちょっと文化が違うんだろうなと思う)
・聖翔の制服はツイードっぽいイメージでいたんだけど、織りで模様を浮き出した生地でへえーと思った
・レヴュー衣装の腰についている白いプリーツのひらひらした裾が、オーガンジーかな、透け感のある素材でかわいかった
・そうだ先生が何かもはやちょっとおもしろかった(って言ったら怒られそうだけど)
・香子はんはアニメでも映画でも舞台でもかわいい

おまけ2:TVアニメ復習して2回目観ました

 A組もB組も全員揃った99期生卒業公演決起集会のBGMが「私たちは舞台少女」と歌う「舞台少女心得」のインストなのとか、「舞台をキラめかせる燃料」というキーワードがTVアニメへの正答になっているのとか、まひるちゃんが「大切なひとたちを笑顔にできるスタァに」から「みんなを笑顔に」にグレードアップしてたりとか、それがTVアニメ第5話の嫉妬のレヴューで華恋ちゃんに「朗らか」って言われたのを受けて劇場版のひかりちゃんとのレヴューでも「この舞台では誰より朗らかに!」って言ってたのとか、ばななちゃんの「私の純那ちゃんじゃない」「まだ眩しい」とか、魂のレヴューの「かわいい」がTVアニメ10話のレヴューデュエット最後の「泣き顔もかわいいですよ、私のクロディーヌ」からつながってるんだろうなっていうのとか、何もかも、復習してから観に行ってよかった……。


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