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本、物語、詩

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#読書感想文

「遥かなものの手ざわり」

笹井宏之『ひとさらい』

(※わたしが読んだのは書肆侃侃房刊行の版ではなく、SS-PROJECTの「歌葉」によって刊行された版でした)

ほわんとしたかわいらしさのある、でも何が描かれているのかわからないような、わかるような、不思議なイラストのような短歌だと思った。

ひろびろとした、厚手のしっかりした白い紙のまんなかを贅沢に使って、縦長に奥行きのあるイラストが広がっている。
描かれている世界は、

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〈まだ知らぬ場所〉へ

小島なお『サリンジャーは死んでしまった』「詩歌がわかるようになりたい!」と喚いていたら、友人が笹井宏之と小島なおをおすすめしてくれました。

というわけで、練習がてら、小島なお『サリンジャーは死んでしまった』から15首抜き出して鑑賞文を書きました。

(笹井宏之『ひとさらい』の感想はこちら)

ここに書かなかった歌にも良いなと思ったものはあったし、その中には、どこが良いと言葉に出来なかったものもあ

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「詩は十月の午後」

今まで、詩がわからないなと思って生きてきた。
それでも好きな詩歌の幾つかはあって、ならばわたしのなかには、何らかの詩に対する好みというものがあるはずだ。その「何らかの好み」がどういうものか、自分なりの詩の良し悪しを、そろそろ本腰を入れて培いたいと近頃思うようになった。
それは、世の詩歌をもっと味わってみたいからでもあり、自分でもつくってみたい――正確には、自分で作ったものに対する、自分なりの評価基

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「もう子どもじゃないって思ったときって、いつだった?」

「もう子どもじゃないって思ったときって、いつだった?」

石井睦美『卵と小麦粉それからマドレーヌ』

たまたま手に取った栞が、ピュアフル文庫の(今ではポプラ文庫ピュアフルだが)、『卵と小麦粉それからマドレーヌ』のこの台詞が書いてあるものだった。
(わたしは文庫本に挟まっていたり本屋さんで貰ってきたりする紙の栞を、お菓子の缶に溜めこんでいて、もはやくじ引き状態になっている。
この栞はよく見たら「1周年フェア」というマークが入っているから、ずいぶんな年季物だ

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糸が変わる、織り方が変わる

梨木香歩『からくりからくさ』

(※ネタバレを含む感想です)

この本を最初に読んだのは5年以上前で、今ようやく2度目を読み、初読のときは無知すぎて何が書かれているかわからず読み落としていた部分がだいぶあったんじゃないかなあという気がした。
ほとんどクライマックスの一瞬の光景しか覚えていなかった……といっても過言ではないくらいの記憶しか残っていなかったのは、理解してなかったからじゃないだろうか。

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私的西洋音楽事始

岡ノ谷一夫(2013)『「つながり」の進化生物学』、朝日出版社

作曲ができるようになりたい
ボカロの声やキャラクターを好きになってしまったひとが、一度は描く夢じゃないだろうか。

自分だけのボカロをお迎えして、自分が作った歌をうたってほしい。

わたしがボカロにはまったのは10年前。
初心者向けの作曲指南書を買ったのは、ボカロに出会って幾らも経たない頃だった。

ところが、何が書かれているのか、

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魔女になる

魔女になる

梨木香歩『西の魔女が死んだ』

小さい頃から魔女になりたかった。
図書館の児童書のコーナーで、タイトルに「魔女」や「魔法」とつくファンタジーを端から読んでいた。
(そうして得た、かけがえのない本との出会いが幾つもある。『魔女の友だちになりませんか?』から始まる村山早紀〈風の丘のルルー〉シリーズもその一つだ)

今でも、不思議な薬を作ったり、おまじないをかけたりするような魔女が、どこかにいないとは言

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