『妄想聞き耳頭巾ちゃん 第一話』短編オトシネマ(オーディオドラマ)脚本
「耳で聴いて心で感じる」オトシネマは、音の映画をコンセプトに、様々な音声作品をSpotify等の音声プラットフォームにて配信しております。
こちらのオトシネマ作品集【脚本アーカイブ】では、配信されている作品を文章の形でご紹介させて頂きます。
耳の不自由な方、聴くのが難しい環境の方も、是非こちらからオトシネマコンテンツをお楽しみ頂けましたら幸いです。
『妄想聞き耳頭巾ちゃん』
~第1話 ポンコツ君、現る~
登場人物
■聞き耳頭巾ちゃん(46歳 主人公)
■吉川絵美(26歳 結婚相手を探すOL)
■岩本太一(29歳 吉川絵美の合コン相手)
あらすじ
46歳バツイチ。普段はタワーマンションのコンシェルジュとして働く女性の名は、自称・妄想聞き耳頭巾。
彼女の趣味は、身の回りの会話に聞き耳を立てて色々な妄想を膨らます事。今回の聞き耳は、カフェでのある男女のカップルの会話。
聞き耳を立てていると、女性にとあるハプニングが起こった!
そのハプニングは、二人をどう動かすのか…?!
(※以下Spotifyリンクよりオーディオドラマのご視聴が可能です。)
聞き耳と妄想好きの彼女
(ゆったりとしたギターの音楽が流れ始める🎵)
聞き耳頭巾(心の声:以下NA)
【私は妄想聞き耳頭巾。まあ誰もそんな呼び方しないのであくまで自称ね。
46歳バツイチ。普段はタワーマンションのコンシェルジュとして働いている。今日は仕事が休みなので、いつものカフェに来ている。
よく「その人の人生ではその人が主人公!」みたいに言うけど、私にはそれは当てはまらない。どう考えても主人公じゃない。メインキャストでもない。
別にそこに不満もないし、傍観者として人生を生きている。
例えばこのカフェのイケメンスタッフと運命の恋に落ちる事も絶対にない。
そもそも、ここのスタッフは全くもってイケメンじゃないし。
私は天才心臓外科医でもなければ事件の謎を解く刑事でもない。
魔法も超能力も使えないし、鬼とも戦わない。
世界や地球を救ったりもしない。
平凡な自分を嘆くでも無く、身の回りの会話に聞き耳を立てて楽しんでいる。
決してお行儀のいい趣味とは言えないけど頭の中だけで完結する事なので
許して欲しい。
人の会話を聞いて勝手に妄想する。
その答え合わせをする日は永遠に訪れないから、別に間違っていてもいい。
聞き耳立てるのも妄想するのも一期一会なのだ。】
ターゲット発見
(ここから、軽快なジャズの音楽が流れ始める🎵)
聞き耳頭巾(NA)【さて、本日のターゲットは私の左横のソファ席に座る女性に決定!😆 んー、20代半ばといったところかなぁ。
さっきからスマホをいじりながらも、時折入り口を気にする素振りを見せている。どうやら待ち合わせらしい。
胸元にリボンのついたアイボリーの所謂モテ服ニットワンピースを着て、
ほんのり茶色がかった髪はゆるく巻いた王道お嬢様スタイルだ。】
(『カランコロン🔔』とカウベルの音が鳴る🎵)
聞き耳頭巾(NA)【なーんでこの店はオシャレなカフェなのに、カウベル設置してるんだろ。
あっ!今入ってきた若い男性に手を振っている。ふーん、デートか…😏
その割には男性が挙動不審だ。きょろきょろしながら近づいてきた。
女性からは角度的に見えないだろうが、彼の後ろ髪は盛大に跳ねている。
イケメンの部類ではないが、好青年といって差し支えはないだろう。】
岩本太一「お、お待たせしてすみません、道に迷ってしまって・・・。」
吉川絵美「あ、私も今来たとこなんです~。」
聞き耳頭巾(NA)【いやいや!貴女少なくとも15分前には来てましたけどね!ええ!😝】と、聞き耳頭巾ちゃんは勢いよくツッコみを入れる。
聞き耳頭巾(NA)【まあ、これはお約束。どうやら先週の合コンで出会って、今回2人で会うのは初めてらしい。これは面白くなる予感!私はそっと左側の髪を耳にかけた。】
(『ウィィーーン!』という音が鳴り、全神経を左耳に集中させている。)
ちぐはぐな会話
岩本太一「吉川さん、もう注文しましたか?」
吉川絵美「やだー苗字だと堅苦しいですよ~。」
岩本太一「あ、えっと…」
吉川絵美「絵美です!あっ、注文はまだです。」
岩本太一「じゃあ、、絵美・・さん。」
聞き耳頭巾(NA)【怯んでいる男性には気も留めず、エミちゃんはメニューを眺めている。】
吉川絵美「う~ん、パスタランチかなぁ。」
岩本太一「僕、ハンバーグが好きなんですよねー。😊」
吉川絵美「え?このメニュー、ハンバーグ無いですよ~。😅」
岩本太一「あ、昨日鯖定食食べたので・・・やっぱりお魚系は無しにして・・・。でも・・・、」岩本は、ぶつぶつと呟き続けている。
聞き耳頭巾(NA)【すごい、全然会話がかみ合っていない。
横目でさりげなくエミちゃんを見ると、こめかみがヒクヒクしている模様。
ちなみに男性の方はハンバーグが記載されていないメニューとにらめっこをしている。結局2人共パスタランチにした模様。
エミちゃんはトマトのアラビアータ、男性はボンゴレビアンコを選んだらしい。】
(『スーッ、コトッ。』と、お皿が置かれる音がする。)
聞き耳頭巾(NA)【と、言っている内に私が注文したオムライスが来たー!😆
男性が割とあからさまにこっちを見た。
その視線は私にではなく、オムライスに注がれている。この店のオムライスは上にチキンカツとデミグラスソースが乗った豪華版なのだ!
これは間違いなく『オムライスにしとけばよかった~😫』の顔だ。マスク越しにも口があいているのがわかる。気持ちはわかるが、デート中ですよ、君。】
吉川絵美「あの、金曜日はありがうございました!とっても楽しかったです。」と、絵美は明るい声で話しかける。
岩本太一「そーですねー。」しかし、岩本は気もそぞろで腑抜けた返事だ。
吉川絵美「それで…あの日私ちょっと席離れてたし、あんまり話せなかったじゃないですかー。」
岩本太一「あーうんうんそうでしたかねー?でも皆さん盛り上がってましたねえ。」
吉川絵美「えっと、岩本さんって、どんなお仕事されてるんですかあ?」
岩本太一「なんですかねー、うーん色々?いやあ、何て言ったらいいかな・・。」
聞き耳頭巾(NA)【やはり微妙に会話が噛み合ってないなー。
彼はイワモトって言うのね。でも彼の事はポンコツ君と呼ぶ事にする。
そしてエミちゃんの方は割と露骨に品定めに入りましたねぇ。
たぶん今までの合コンでは「すっごーい!」と「ウケる~!」の二本立てで何とかなってきたんでしょうが、ポンコツ君は一筋縄ではいかないかな😏】
吉川絵美「えっと、お休みの日は何してるんですか?」
岩本太一「いやー特に。なんだろ。いや、別に・・・。」
吉川絵美「え?出かけたり、趣味とかってないんですか?😅」
岩本太一「うーん、ゲームとかかな~。」
吉川絵美「あ、私switch 持ってますよー!対戦系とかですか~?」
岩本太一「いや、TV ゲームとかじゃなくて、ジェンガとか・・・。」
吉川絵美「ジェ、ジェンガ?お友達・・・とですか?😧💦」と、かなり困惑したように問いかける。
岩本太一「いや、1人で。あとはジグソーパズルとか、あ!レゴブロックも好きです!😄」
聞き耳頭巾(NA)【もう見なくてもわかる。エミちゃんのこめかみはピキピキしているはずだ。それでも、この展開で会話を諦めないエミちゃんは中々ハートが強いね。】
岩本太一「絵美さんは?ご趣味はなんですか?」
吉川絵美「私、お料理教室に通ってるんです!この前、アクアパッツア作ったんですよ✨」
岩本太一「あくあ・・・ぱ??」
聞き耳頭巾(NA)【違うだろー!!!そこは!!文脈考えてハンバーグだろ!!】キレのいいツッコミが勢いよく飛んでくる。
聞き耳頭巾(NA)【はっ!わ、私としたことが取り乱してしまった。ヒィ…危ない危ない・・💦 テーブル叩きそうになったわ。ダメダメ、いくら聞き耳立てても決して介入しないのが私のルール。・・・当たり前だけど。
ほらポンコツ君が更にぽかんとしてる。エミちゃん、もっと相手を見て!
アクアパッツアはチャラついたオシャレ男子相手には有効だけど、
ポンコツ君タイプには攻撃力ゼロ。これテストに出ますよ。】
聞き耳頭巾ちゃんは、ビシッとそう言い放った。
聞き耳頭巾(NA)【どうやらエミちゃんは彼氏、あわよくば結婚相手を割と本気で探してる。このままだと貯金の額まで聞きそうな勢いだ。
そしてポンコツ君は人数合わせで合コンに呼ばれ、今日もえみちゃんに
誘われてよくわからないままこの場にいる感じ。この温度差はすごい。】
天然な岩本くん
カフェ店員「お待たせしました。ボンゴレビアンコでございます。」
(『スーッ、コトッ。』と、お皿が置かれる音がする。)
岩本太一「わ、美味しそう。いただきまーす。」
(『カチャ、もぐもぐ・・』と、料理を食べ始める音が聞こえる。)
聞き耳頭巾(NA)【た・べ・た!!😲 自分の料理が先にきたのは仕方ないとして、お先にの一言もなく。普通に食べている。エミちゃんはエミちゃんで、すぐに料理に手をつけずスマホで撮影している。】
(『カシャッ』とシャッターを切る音がしている📸)
聞き耳頭巾(NA)【こっちはこっちで自由だな~。
角度から察すると、料理越しにポンコツ君の手元も映りこませている。
ははーん!これはSNS に匂わせ投稿するつもりね!
デートのデの字もかかずに『ハッシュタグ休日ランチ💗』とでも投稿
するのかなー。知らんけど!】
吉川絵美「いただきまーす♪」
聞き耳頭巾(NA)【しばしの静寂・・・と思いきや。】
(『ガリガリ、ボリボリ…』と砕くような音が聞こえてくる。)
聞き耳頭巾(NA)【ポンコツ君側から結構な咀嚼音が聞こえる。なんで?
パスタだよね?え?まさか・・・あさりの貝殻も食べてるの!?
そっと横目を飛ばしてみると、エミちゃんが固まっている。心中お察しします…。あれかな?ポンコツ君は・・・・歯が丈夫なのかなー!😅
とりあえず私は食後のコーヒーを注文した。もうしばらく観察を続けるとしよう。】
ハプニング発生!
吉川絵美「きゃ!!」
(『カチャン!』と食器の当たる音が聞こえる。)
吉川絵美「やだー・・、どうしよう!!」
聞き耳頭巾(NA)【どうやらエミちゃんがパスタのソースを服に飛ばしたらしい。フッ、何故人は白い服着ている時にトマトソースを選んでしまうのか。
あー!でもそんな日に限ってトマト味を欲する気持ちもわかる!
おや?ポンコツ君がポケットをごそごそしだした。】
岩本太一「はい、これ良かったら使ってみてください。」
聞き耳頭巾(NA)【ポンコツ君はエミちゃんに液体入りの小さな容器を渡した。どうやらシミ取りらしい。そして今までのポンコツぶりが嘘のように
テキパキ指示を出し始めた。・・・テキパキは言い過ぎかな。】
岩本太一「おしぼりを生地の裏側にあてて、表からそれでトントンしてみてください。こすらずにトントンです。」優しい声でスラスラと話している。
吉川絵美「あ!すごい…!消えてきた~!すごーい!!✨」
岩本太一「これはあくまで応急処置だから、家に帰ったらつけおき洗いしてください。たぶん綺麗に落ちると思います。」
吉川絵美「岩本さん、どうしてこんなに詳しいんですか?」
岩本太一「あ、これ僕が開発した商品なんです。「しみとれるんるん」って言います。へへっ…😳」と、少し照れながらそう答えた。
聞き耳頭巾(NA)【エミちゃんの目が光った。絶対に光った!】
岩本太一「自分で作ったものだから愛着湧いちゃって。便利だから持ち歩いてるんです。良かったら使いかけだけど、あげます。」
吉川絵美「え!いいんですかぁ?ありがとうございます~!!💖」
(キラキラとしたハープのような音色が聴こえる✨)
聞き耳頭巾(NA)【これは間違いなくエミちゃんがロックオンした音だ。】
(ここから、軽快なジャズの音楽が流れ始める🎵)
聞き耳頭巾(NA)【職業だの趣味だのわかりやすく品定めしていたエミちゃんだったけど、意外なアクシデントで状況が変わったらしい。人間ってわからないもんだ。
まあ、開発だとか研究職っぽいところに惹かれた部分もあるかもだけど。
少なくとも助けてくれた事でポンコツ君が王子様に変身した事は間違いなさそう。
いつの間にか食事を済ませ、二人はレジに向かった。
一時は能面の様に無表情だったエミちゃんは、スタスタ前を歩くポンコツ君を少し嬉しそうに見上げている。
彼のアグレッシブな寝ぐせですらも、手の込んだオシャレ無造作ヘアに
見えているのかもしれない。】
吉川絵美「え!ご馳走していただいていいんですか?」
岩本太一「全然大丈夫ですよー。」
吉川絵美「ありがとうございます~!✨ あの、岩本さん。今度の日曜日、映画でも行きませんか?」
岩本太一「いいですねえー。『ビターマン』でも行きましょう。😊」
吉川絵美「あっ、行きましょう!!私『ビターマン』すっごく好きなんですよ!!!」
岩本太一「本当ですかー?」
吉川絵美「はいっ!!」
二人の会話は、楽しそうに弾み続けている🎵
妄想の結末
聞き耳頭巾(NA)【計算しまくり女子の様でいて、意外とピュアなエミちゃんと、天然気味だが、実はポンコツじゃなかったイワモト君。
君たち、結構お似合いですよ~😁
店を出て行く二人の後ろ姿を眺めつつ残ったコーヒーを飲みほした。
何だろう、この謎の達成感。まあ私は何もしてないんだけども。
最後にアドバイス。エミちゃん、そのアイボリーのワンピースを着る時は
お願いだからトマトソースは我慢して!
あと得意料理はハンバーグって言うように。アクアパッツアは女友達への
マウント用に、ストーリーズにでもあげておきなさい。
まあ、このアドバイスがエミちゃんに伝わる日は一生来ないんですけどねえ・・・。
本日も結構な聞き耳でした。
次回はノーガードの殴り合いみたいな会話が聴きたいなぁー!と思いながら
私はレジに向かうのだった。
そうそう、帰りにシミ取れるんるん買わなくちゃね。】
(『カランコロン🔔』とカウベルの音が鳴る🎵)
《 おしまい 》
作品制作キャスト・スタッフ
■聞き耳頭巾ちゃん・吉川絵美:梅本 奈己峰
■岩本太一:森川鉄矢
■編集・選曲:松本大樹
■脚本・監督・カフェ店員:みなち
■脚本編集/記事掲載:ニーナ
■イラスト:ひととき