007ヴァンパイアの妻
《館の部屋、時計が深夜を指す》
【あん】
「まだ帰って来ないわ…。
アスター、どうしたのかしら…。
はぁ、また…私ひとりだわ…」
【あん】
ヴァンパイアになって1年。
夫を亡くしたばかりの頃、ヴァンパイアの始祖のアスターは私を妻にするために、ある日、私を襲ってヴァンパイアにした。
私は、ヴァンパイアになるつもりなんてなかったのに、それはあまりにも、無理矢理の吸血だった。
それからは夜な夜な、アスターは愛情を求めるように、私の血を吸う。
たぶん彼にとって吸血は、栄養摂取の他に、愛情確認行為でもあるんだろう。
『君からも我が輩の血を吸い返してくれ』
と言われても、私は出来ずにいる…。
【あん】
「アスターはどこに行ったのかしら。
未だに私からアスターの血を吸い返してないから、拗ねてしまったのかもしれないけど」
(窓が開いて大量のコウモリが入ってくる)
【あん】
「え!?こ、これは一体!?」
【ブラッドリー・アスター卿】
「…はぁはぁ…!ここまで追い詰められるとは…!!くそっ…!!」
【あん】
「アスター!?これは何事!?
…!?ひどい怪我!!」
【ブラッドリー・アスター卿】
「ハンターにやられた…!このスタエフ界隈にヴァンパイアハンターがやってきた…。
…おとが…。いや、ひとりの女ヴァンパイアがハンターに攫われた」
【あん】
「おと?ヴァンパイアの記録を取ってる『おとねぇ』のこと?
今までおとねぇと一緒にいたの?」
【ブラッドリー・アスター卿】
「早く回復して、助けに行かねば…!
すまないが、あん。血を吸わせてくれ」
【あん】
「アスター、あなた…。
口から別の女の…、おとねぇの血の匂いがする…!?」
【ブラッドリー・アスター卿】
「…」
【あん】
「あなた、おとねぇの血を吸ったの?」
【ブラッドリー・アスター卿】
「…ああ」
【あん】
「私というものがありながら、他の女の血を?なんで…?」
【ブラッドリー・アスター卿】
「おとは寂しがってた…。
1年前家族を亡くし、家族が恋しいと…。
『家族にしてください』と懇願されたから、血を吸ったまでだ…」
【あん】
「それは2人目の妻にしたということ?
なんでそんなことを!!
私がいながら」
【ブラッドリー・アスター卿】
「すまん…」
《アスターが倒れる》
【あん】
「アスター!アスター!?」
【ブラッドリー・アスター卿】
「(ヒューヒューという息遣い)
…すまない、あん…。
あなたが…、
優しく、家族愛に溢れたあなたが、
なぜそこまで怒っているか、家族を知らない我が輩にはわからない…
わからないんだ…」
【あん】
「ああ!?待って消えないで!!
お願い私をひとりにしないでアスター!
今、血をあげるから」
(ナイフで手を切るあん)
【あん】
「痛っっ!!
はい…、アスター!
今ナイフで切った血よ!飲んで!」
【ブラッドリー・アスター卿】
「はぁはぁ…んくっ、んくっ、んくっ…(血を飲む)」
【あん】
「私をひとりにしないと言ったのは、あなたよ…アスター!
死なないで…あなたが死んだら、私は悲しい…。
例え、あなたがヴァンパイアで、家族が何かわからない人でも…!
私は…、私はあなたを…、失いたくないの!!(泣きながら)」
【ブラッドリー・アスター卿】
「……っぷは、はぁはぁ、……あん…、
ありがとう。なんてあなたは温かいんだ」
【あん】
「おとねぇのことは心配だけど、まずはアスター、あなたは傷が治るまで、ゆっくり休んでください」
【ブラッドリー・アスター卿】
「ああ、ありがとう。我が妻よ…」