生涯学習概論

 「生涯学習」という表現が日常的に使用されるようになっている。人が生涯にわたり学び・学習の活動を続けていくこと、といった文字通りの漠然とした概念はあるものの、この「生涯学習」という用語が具体的にどういったことを指し示し、また社会的にはどのような意味があるのか、わからないまま重宝がられ、更には曖昧な理解のまま、明らかに誤解した使い方をされていることもあるのだ。
 生涯学習社会は現実に存在するわけでもなく、また共通に確認された概念であるわけでもないが、実際、図書館は生涯学習支援の大きな役割を担っているのである。以下それについて論ずる。

 まず図書館とは、図書や雑誌・新聞をはじめ、視聴覚資料、電磁的資料(CD, DVD)といった資料や情報を、司書等の専門員が中心となって、収集・整理・保存し、閲覧・貸出・複写等によって提供する組織である。図書館は、公立図書館、私立図書館、学校図書館、大学図書館、専門図書館、国立図書館の6つの館種に分けることができ、設置の目的、役割がそれぞれ異なる。とりわけ公立図書館と私立図書館の基本的な役割については図書館法のなかで定められているが、どの図書館の館種においても最も重要な役割の一つが、人々の読書と学習を支援することである。

 人々が図書館を利用するためには、主に二つの能力が必要となる。一つ目は読書の能力で、これは必要な資料等を読むために必須である。もう一つは情報探索能力で、これは必要な資料等を探すために必須である。とりわけ後者の能力を支援するために、図書館では司書等の専門員によるレファレンスサービス等を行っている。この二つの能力を身に付けさえすれば、図書館は生涯学習を行うために適切な場所であるといえる。特に公共図書館は、利用者が利用料金の負担を考慮しなくてよいように、無料でなければならないため、乳幼児、稼ぎのない学生から年金暮らしの老人まで、時間の許す限り気兼ねなく通うことができる。また、図書館はサービス向上のためと運営の効率化のために、日常的に連携・協力を行っている。それは主に、資料の相互貸借と書誌情報の提供であるため、普段は目にしない資料や貴重な蔵書を手に取る機会もある。つまり図書館では過去に出版された資料、当日に刊行された新聞、未来の流行を見据えた雑誌等、多くの蔵書に触れ、自分の興味関心、視野を広げ、新たな価値観をもつことができるのだ。生涯学習は、人々が生涯にわたり、自己の充実、啓発や生活向上のために、自発的意思に基づいて行うものであるため、図書館は学びの場を提供し続ける役割として、今後も人々に貢献していくだろう。

 続いて、生涯学習を振興するための、社会教育行政や施設の役割について論じたい。まず社会教育法とは、すべての国民が自主的に学習できるような環境を整えるという内容を規定しており、教育活動の一つとして捉えられている。また社会教育法において、図書館等の施設に関しては、現在「社会教育のための機関とする」とだけ明記されている。その「社会教育」について、教育基本法第12条では、「個人の要望や社会の要請にこたえ、社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならない」とした上で、社会教育行政の基本的な役割として、「図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならない」と規定されている。
すなわち、社会教育行政は、図書館等の設置、講座の実施やイベントの開催等のさまざまな施策を通じて、人々の自発的、自立的な学習活動を奨励・促進・支援することを主要な役割としているのだ。さらに人々の多様な学習ニーズを踏まえ、「これに適切に対応するために必要な学習機会の提供及び奨励を行うことにより、生涯学習の振興に寄与すること」また、「学校、家庭、地域住民その他の関係者相互間の連携及び協力の促進に資する」ことを期待しているのだ。

以上のとおり、図書館やその利用をサポートするレファレンスサービス等は、生涯学習を支えるのに大きな役割を果たしている。「人生100年時代」、生涯のいつにおいても、どこにおいても、自由に学ぶ場所を提供する図書館の存在意義は、平均寿命の伸びを背景にさらに増すことだろう。ただ、SNSでも無料で簡単に勉強できる時代、図書館はただ存在しているだけでは意味がなくなってしまう。過去の貴重な蔵書の管理だけにならず、人々の要望に適切に対応できる様々な資料の収集や新たな情報技術の提供に努め、生涯学習を支援していくことが重要である。常に時勢を捉え進化し続ける施設であるよう、地域と連携し貢献することが望まれる。


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