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奇奇怪怪な作り手がひらく、音声コンテンツの未来。Podcast発『脳盗』インタビュー。

コロナ禍にはじめたPodcastが、配信開始から2年で公共電波デビューを果たす——そんな夢のような展開を現実にした新進気鋭の二人組がいます。ヒップホップユニットDos Monos のラッパー・TaiTanさんと、バンドMONONOAWAREのボーカル、玉置周啓さんです。

2020年5月からPodcast『奇奇怪怪明解事典』の自主制作をスタートして以降、社会に対する深い洞察、それを的確に表現する絶妙な言語感覚でリスナーを増やしてきたおふたり。同年Spotify NEXTクリエイター賞を受賞、今年の2月には過去の収録をまとめた『奇奇明解事典』(500ページ超えの“鈍器本”、国書刊行会刊)を出版するなど、知る人ぞ知る要注目ポッドキャスターです。

そんな彼らが、期間限定番組『脳盗』で地上波に初進出。1ヶ月の悪だくみを終えたふたりに感想・今後の展望を聴こうと最終回の収録現場にうかがったのですが——玉置さんが新型コロナウイルスに感染しまさかの欠席! 緊急体制で行われた収録直後の、安堵感ただようTaiTanさんと、担当ディレクターの松重暢洋(のぶひろ)さんにお話を聞いてきました。

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脳盗ディレクター・松重暢洋さん(写真左)とDos Monosラッパー・TaiTanさん(写真右)


せわしない現代人の脳内に挑む10分間

——地上波デビューおめでとうございます。『脳盗』という番組名は、どういった由来でつけられたんですか?

TaiTan:名前は、酒盗からとりました。


——酒盗って、魚の内蔵を塩辛にしたおつまみですよね?

TaiTan:ええ。その酒盗の由来が素敵なもんで、「酒が盗まれるかのようにすすむ珍味」という意味らしいんです。今回の番組のコンセプトはその「脳みそ版」。可処分時間をネコババするような作品を紹介するというものです。

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Dos Monos ラッパー・TaiTanさん


「ただの作品紹介botにはなりたくない」

——どうして「可処分時間」に着目されたのでしょうか?

松重:これは完全にTaiTanさんのアイデアです。番組をやることが決まって初回の打ち合わせ、喫茶店に行ったら——ちなみにTaiTanさんしかいなかったんですけど。

TaiTan:彼(玉置)は脱線芸を担当しているんで、ゴールの定まったミーティングにはあまり参加しないのです(笑)。なかなか本題に入れなくなるので。

松重:あはははは。

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松重:その初回の打ち合わせからずっと、「作品紹介botにはなりたくない」とおっしゃっていて。

TaiTan:いろんなコンテンツに溢れている今の時代、人の時間を奪える作品にこそ真の筋力があるんじゃないかと僕は思うんですよ。作品紹介をするなら、独自の軸でキュレーションしたいなと。


——たしかに、作品紹介をする人はSNSによってどんどん増えているように思います。

TaiTan:Podcastの『奇奇怪怪明解事典』もそうなんですけど、僕らがコンテンツについて話すときはだいたいドキュメンタリー番組かお笑い系で、ジャンルがかなり偏ってるんですよね。そこで「カルチャーをオールマイティに紹介している衆」とひとくくりに認識されてしまうと、自分たちとしてはキャラ損してしまうのではという感覚がある。


——「キャラ損」ですか?

TaiTan:そもそも僕はリリックを書いているラッパーであり、玉置くんも普段は作詞作曲を行うアーティストです。『奇奇怪怪明解事典』もいまだに自主制作していますし、自分たちはまず「作り手」なんだという意識が根底にあるんですよね。作り手として、他の人の作品をそのまま紹介することで飯を食うのはあんまりやりたくないな、と。なので、単なる作品紹介を目的とせず「可処分時間を奪いとる」という企画性を設けることでオリジナルの面白さを担保したいと思いました。奪い取る、と強気に出ることで僕らなりの行儀の悪さも出ますし。


——実際、紹介された作品は人間の恐怖症を描いたホラー漫画『フォビア』にはじまり、100分間の政治ドキュメンタリー『はりぼて』、インターネット上で熱狂的に支持される人気シリーズ『MADドラえもん』など、王道を離れたスパイシーなラインナップでしたね。

TaiTan:はい。“らしさ”は出せたかなと思います。


すべてのおもしろい話は、「横並び」から

——そもそも松重さん自身が、Podcastの熱心なリスナーだったんですよね。1ヶ月間、お二人を間近に見ていた感想はどうでしたか?

松重:「これぞ奇奇怪怪!」と思ったポイントがひとつあって。おふたりって、収録も打ち合わせも、いつも横並びで座られるんですよ。

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玉置さん不在の収録も、いつも通り自分の左側を開けて座ったTaiTanさん


TaiTan:僕、横並びっていうスタイルを広めていきたいんですよね。


——ラジオと言えば向かい合わせというイメージがあります。

TaiTan:要は漫才師がなぜ対面じゃないのかという話につながるんですけど、「人間の会話は、目が合ってないときのほうが面白い」という仮説が僕の中であるんです。ドライブもそうだし、河原でだべるのも、教室で隣同士の席になったクラスメートとの会話もそう。Podcastの収録でも、僕と玉置くんは目を合わせないんですよ。

松重:横並びで座って録る人を見たのははじめてで、衝撃的でした。実際、おふたりにはこっちの方が合っていると思います。

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脳盗の通常モード。画面奥に座る、玉置さん (奇奇怪怪明解事典ツイッターより拝借)


最終回に突如現れた「AI玉置」

——迎えた最終回、たいへんなことが起きましたね。

TaiTan:はい、玉置くんが消えました。

松重:僕も今回のような編集はしたことがないです。


——事の真相を知らない方々に向けて、いまいちど説明をいただけますか。

TaiTan:えー、1ヶ月限定放送の最終回、玉置くんはいやにエコーのかかった音声と、やけに少ない語彙で登場しましたが——実際は不在でした。これは、お蔵入りになっていた音源ををつぎはぎして生まれた、「AI玉置」です。

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押すと玉置さんのリアクションが流れるタブレット。
松重さんの絶妙な押し間違いが、薄い緊張感のただようブースに笑いを誘う。


——最終回に玉置さんとのやりとりを聞けなかったのは非常に残念なんですが、エコーのかかり具合といい、会話の絶妙なチグハグさといい、個人的には過去5回の放送の中でも最高傑作だったように思います。

松重:それはちょっと安心しました。自分はもう冷静に聞けなくなったので(笑)


——手元にあるタブレットのボタンを押しながら、実は松重さんがTaiTanさんとやりとりをしていたんですよね?

松重:はい。過去の音源から玉置さんの独特の笑い声や簡単なリアクションを切り取り、20種類くらい用意して臨みました。台本通りにボタンを押すことで、玉置さんのレスポンスが流れる。それで「あたかも二人が会話をしているふう」にしてみました。

TaiTan:もはや演劇ですよ(笑)。こんなにガチガチに台本をつくって一言一句を間違わずに読んだのは、Podcastも含め今回がはじめてです。


——TaiTanさんは実際に最終回で「AI玉置」さんと喋ってみてどうでしたか? 

TaiTan:「いや、AI玉置で事足りたわ」っていう(笑)。最後のほうはリアル玉置くんと喋っているような感覚になりました。

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ディレクター・松重さん。製作陣では一番若く、脳盗の2人とは年も近い。


——でも、番組の存続に関わる大事な最終回にハプニング。さぞかし気を揉んだことと思いますが......。

松重:たしかに時間は限られていましたけどまあ、10分間だし、ちょっと頑張ればできるだろうと。それに、作り手としては逆境こそやっぱり燃えるもんじゃないですか。こんなことを言うのは恥ずかしいですけど......(笑)。

TaiTan:これだから僕は松重さんを信頼できるんですよ。他の仕事もあるだろうし、一晩のうちに集められる量なんてたかが知れてるだろうと思ったら、ものすごい数を切り出してくれていて。


漫画、ドキュメンタリー映画ときて最後に「塩ピノ」

——最終回に玉置さんとのやりとりを聞けなかったのは非常に残念なんですが、エコーのかかり具合といい、会話の絶妙なチグハグさといい、個人的には過去5回の放送の中でも最高傑作だったように思います。

松重:そうですね。集めた素材を見てから決めました。

TaiTan:玉置くんがいない状況で、なおかつ最終回を象徴的に締めくくるというのがなかなか難しくて。その状況で従来のような作品紹介をして終わるのはいやだったんですよね、あまりにも順当すぎるというか。だから存在しない架空の作品を紹介するとか、タイトルこそ明示しないが明らかに自分たちの好きなアダルトビデオの話をしているとか、そういうチョケかたも候補にあったんですけど......どれもハマりきらない感覚があって。


——そこにハマったのが塩ピノだった?

TaiTan:はい。最終回に塩ピノを持ってくる、このしょうもなさ(笑)。作品自体がおもしろすぎると、せっかくのAI玉置の演出がノイズになってしまいますしね。

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奇奇怪怪な作り手2人がひらく、ポッドキャスターの未来

——もちろん、今後の目標は『脳盗』の続行ですよね?

TaiTan:それはもう。社内広報を頑張ってくれた松重さんのためにも続けたいです。

松重:僕の一存で決まるわけではないんですけどね。でも、1ヶ月で終わらせるつもりはないです。

TaiTan:私的なPodcast配信が公共のラジオ放送に進出するのは、ある意味わかりやすい導線だったかもしれないんですけど、実はいま、PERIMETRONの神戸くんとアニメをつくってるんですよね。


——今度は映像作品ですか?!

TaiTan:『品品』というタイトルです。9月に渋谷のパルコで上映することも決定しました。


——まさに神出鬼没ですね。次の一手が予想つかないです。

TaiTan:僕たちとしては、単なるポッドキャスターにとどまるつもりはないんです。はじまりの奇奇怪怪明解事典をベースにしつつも、やっぱりなにか新しいものを作りたい。ゴールは特に決めてないですけど、これから何をやるにしても笑えてかっこいいものを作っていきたいという気持ちに変わりはないですね。


Photo:澤田詩園 Text:三浦玲央奈 Edit:ツドイ
(こちらはTBSラジオ「オトビヨリ」にて2022年8月5日に公開した記事です )