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野球中継の現場で「度胸がついた」。スポーツ班を経てアトロクで叶えた「Queen特集」/長谷川愛【#ネクストクラフトパーソンズ】

「これからのTBSラジオ」を担うスタッフの実像に迫るインタビュー企画「#ネクストクラフトパーソンズ」。

今回登場するのは、TBSラジオの番組制作を担うTBSグロウディアで働く長谷川愛さんです。

2016年にTBSトライメディア(現・TBSグロウディア)に入社し、現在『アフター6ジャンクション』『ジェーン・スー 生活は踊る』『イモトアヤコのすっぴんしゃん』などのディレクターを務める長谷川さんに、スポーツ班から制作班への異動を経験したからこそわかる番組制作の楽しさや苦労、そしてディレクターとしての初仕事となった「Queen特集」に込めた思いについてお話しいただきました。


小学生の頃に聴いた「嵐のラジオ番組」が、ラジオにハマるきっかけに

そもそもラジオを聴き始めたのは、小学生の頃でした。ひとりで寝るのが怖くて、寝る前に読み聞かせのCDを流していたんですが、気づけば全て聴き終わってしまって。「人が喋ってるものなら何でもいい!」と飛びついたのが、ラジオだったんです(笑)。

ただ、最初はTBSラジオよりも他局をメインに聴いていました。ラジオにハマるきっかけの1つになったのは、文化放送の『嵐・相葉雅紀のレコメン!アラシリミックス』という番組。そこで偶然かかっていた嵐の曲が、すごくかっこよかったんです。その頃はまだ嵐というグループを知らなかったので、「誰が歌ってるんだろう?」って。それで嵐を知って、彼らのラジオも聴くようになりました。

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その延長で中高生になっても、自分の部屋のオーディオコンポでラジオを聴く生活を送っていました。ラジオは“ながら聴き”できるのがよくて、勉強などなにかをしながら聴くのがルーティンでしたね。

当時よく聴いていたのは『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(通称「タマフル」)。放送時間が土曜の夜10時で、ちょうど勉強か何かをしている時間だったので、よく“ながら聴き”していました。ほかにも『文化系トークラジオ Life』『ニュース探究ラジオ Dig』『菊地成孔の粋な夜電波』など、そこから先はTBSラジオばっかり聴いていましたね。


野球中継から制作への異動で知った、“BGM選び”の重要性

子どもの頃から大好きなTBSラジオの制作に関わりたい、という思いでTBSトライメディア(現・TBSグロウディア)に入社したのですが、1年目の配属先はスポーツ班だったんです。当時TBSラジオで野球中継をやっていることは知っていましたが、まさか自分が野球中継のディレクターを担当するとは思ってなくて。野球のルールもよくわからないような状態で、最初は「どうしよう」という気持ちでいっぱいでした。

当時の主な仕事は、球場にある中継ブースで局とやりとりをしながら、野球中継を滞りなく進めていくこと。あと何秒で締めるといった帳尻合わせを意識しつつキュー(手で合図する指示のこと)を出したり、アナウンサーが拾いきれていない「何年振りの新記録です」といった情報を横から入れたり……。あとは解説者の方、要は野球界のレジェンドのような方をブースまでアテンドするなど、本当にいろんな仕事をしてましたね。

生放送ということもあり、現場では「トラブルが起きませんように……」と毎回ドキドキでした(苦笑)。特に野球中継だと「今のはヒットになるんですかね?」「どういうジャッジになるんでしょうか……?」と解説の方が混乱するようなこともあって、臨機応変な対応が求められるんです。「生放送での度胸」や、「トラブルに臨機応変な対応をする力」は、この野球中継の現場で養われたんじゃないかと思います。それは制作班のディレクターになった今にも通じていますね。

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翌年にスポーツ班から制作班への異動が決まって「タマフル」などの番組のADになれたときには、めちゃめちゃ嬉しかったです。就活でこの会社を選んだのも自分の好きな番組制作に携われるからだし、ずっと「やりたい」と言い続けていたので(笑)。

ただ、スポーツ中継と番組制作では全く畑が違っていて。それまでは競技の現場ばかりで、スタジオから放送する番組についたことなんて一度もありませんでした。他のADさんがスタジオの機材をバーッといじって手際よく編集作業をしているなか、私は基本的な扱い方すらわからない。本当に何も知らなかったので、最初は大変でした。

ADとして任された番組のBGM選びも、野球中継時代には知らなかった仕事のひとつで、かなり苦労した記憶があります。

番組ごとに決まっているBGMは数多くある一方で、トーク中に流れるBGMは、番組のADが選曲していることも多いんです。たとえば「生活は踊る」の相談コーナーで流れるBGMもそうで、「今日は落ち着いたトーンの相談だからこの曲にしよう」といったように、その日の相談テーマに合わせてADがセレクトしています。

普段意識することは少ないかもしれませんが、このBGMの選曲はかなり重要。というのもBGMによっては、パーソナリティのトークの雰囲気やテンポがBGMの曲につられてしまうんです。「テンポが早すぎないように」「暗すぎない曲調に」などを意識してぴったりの曲を探すのは想像以上に大変で、ディレクターの先輩からは何度も「これじゃないな」をくらいました。

デビュー戦は、アトロクのQueen特集

そんなAD時代を経て番組ディレクターの仕事を始めてからは、まだ1年半ほど。今は、「生活は踊る」で紹介する新商品を実際に自ら購入したり試したりといったリサーチ業務や、『アフター6ジャンクション』に来ていただくゲストの方や専門家の方への事前取材、それをもとに台本をつくる仕事が中心です。普段はオンラインや対面でインタビューを“する側”なので、今回のように“受ける側”になるのは逆に新鮮です(笑)。

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番組の企画を考えるときや取材をするときには、「何にでも素直に興味を持ってみること」を大事にしています。嫌いなことや興味を持てなかったことでも、フラットな状態で見ると意外に面白い部分が見つかったりするんですよね。

あとは「切り口を考えること」もそうです。新しい切り口があるかや、他にない深掘りをしているかなど番組で取り上げる意義については、先輩ディレクターや宇多丸さんからも口酸っぱく言われます。

これまで特に印象深かったのは、ディレクターとして最初に任せてもらった「アトロク」のQueen(クイーン)特集の回。映画『ボヘミアン・ラプソディ』の公開に合わせてQueenの魅力に迫った企画で、​​初めて自分主体で企画や取材をして、台本を書きました。

もともと個人的にQueenの音楽は好きだったのですが、先輩や宇多丸さんにも言われてきたように、やるからにはアトロクでやる意義のあるものを作りたい、この特集がきっかけで映画館に足を運んでもらえたり、Queenの音楽を聴きはじめたりと、リスナーの心に1つでも引っかかるものを残したいという思いがありました。そこでミュージシャンのROLLYさんをゲストに迎え、ご自身もライブをたくさんされてきたからこそわかるQueenのライブパフォーマンス力やその魅力について、その場でギターを弾きながら語っていただくことにしました。

Queenは誰もが知るような存在だからこそ、ファンの方からの反応が気になったり不安になったりした面もあったのですが、リスナーの方からは嬉しい感想がたくさん届いて。やれてよかったなと心から思いました。

「ラジオを通して世界が広がる」。自分の仕事に誇りを持てたリスナーの言葉

この仕事をしていて何より嬉しいのは、やっぱりリスナーの方からの反響です。ここ最近、なんならこれまでの仕事で一番といっていいほど嬉しかったのも、リスナーさんからの声でした。

それが、今年の8月に「アトロク」で放送した「U-24全力応援ウィーク」のコーナー。24歳以下のリスナーの方と電話を繋ぎ、コロナ禍以降のどういう生活をしてきたのか、気分の上がり下がりを折れ線グラフで紹介してもらうという企画です。

そのなかで、コロナ禍でラジオを聴くようになったという学生さんのお話を聞きました。その方はラジオを通して興味の幅が広がり、映画やライブなどに積極的に足を運ぶようになったそうです。さらにラジオの魅力を「世界が広がる感覚がある」と言ってくださって。子どもの頃、ラジオを通して嵐や音楽に興味を持った私のように、リスナーの方にもラジオを通して世界が広がる体験をしてもらえているんだなと、肌で感じることができました。この仕事をしていて本当によかったし、これからも頑張ろうと思えた出来事でした。

今は「生活は踊る」や「アトロク」のように生活情報番組やカルチャー番組をやっていますが、今後はほかのジャンルの番組にも挑戦してみたいですね。いろいろな番組をやってみることで、それらが相互に作用して面白い番組ができることもあるんじゃないかなって。

あとは、ラジオを起点にテレビをはじめとした他のメディアにも活躍の幅を広げていくような、“ラジオから出てきた人”を発掘できたらいいなと考えています。自分から見つけ出すのはなかなか難しいかもしれませんが、それでもラジオが面白い人を輩出するような存在になれば、ラジオの認知度もアップするはず。そうやって、もっと多くの人にラジオを聴いて、世界を広げていってもらえたら嬉しいです。

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長谷川愛/2016年にTBSトライメディア(現・TBSグロウディア)に入社。スポーツ班で野球中継のディレクター業務を経験した後、2017年から制作班へ。『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』などのADを経て、現在『ジェーン・スー 生活は踊る』『アフター6ジャンクション』『イモトアヤコのすっぴんしゃん』などのディレクターとして活躍。

Photo:飯本貴子 Writing:市川茜 Edit:ツドイ
(こちらはTBSラジオ「オトビヨリ」にて2021年12月15日に公開した記事です)