バービーの「知らない」はかっこいい。【連載エッセイ「TBSラジオ、まずはこれから」】
エッセイストの中前結花さんが、さまざまな番組の魅力を綴るエッセイシリーズ「TBSラジオ、まずはこれから」。毎週土曜 13:00より放送中の番組『週末ノオト』をきっかけにすっかりファンになった!、というバービーさんの好きなところを教えていただきます。
オアシズの大久保さんに取材させていただく機会があった。
夕方のラジオ番組のパーソナリティを務めるにあたって、引き合いとして、
「バービーは、“お昼のバービー”でちゃんとやってるけど……」
と心配そうに言うのだ。
「はたして、自分にはできるのか……」
そんな意味合いで大久保さんは仰ったのだけれど、なんだかそのひとことに妙に興味が湧いた。
“お昼のバービー”とは、『週末ノオト』(毎週土曜 13:00-14:55)のことだ。
わたしの知っている、芸人・バービーさんといえば、テレビで艶かしく映るあの姿だった。
あるときは大胆なポーズで陣内智則さんの唇を奪い、またあるときはきわど過ぎる衣装でテレビのこちら側をギラギラと「これでもかっ」というほど挑発していた。
なりふり構わず、何事にも堂々と挑む姿が最高におもしろく、いつも臆することがない。
誰かにイジられては常に憤慨しているのだけど、それでいて時折見せる満面の笑顔がまるで小さな子どものようで、それをとびっきりかわいく思った。
不思議な人だなあ。
わたしはそんな目でバービーさんのことを、ずっとテレビで見ていた。
だって、演じているその役割とは裏腹に、たとえばジェンダーに関する意見をとてもしっかりと話されていたりもするのだ。加えて、メーカーに直談判し下着のプロデュースまでも自ら行っていた。どこまでも女性の自由や幸せを一生懸命願っているようにも見える。
バラエティの場では、毎度「わたしってどうですか!」とアピールはするけれど、「モテなくて……」「結婚ができなくて……」だなんてことは決して言ったりしなかった。
そこに、なにか“キャラクター設定の枠”ではなく、彼女の確固たる“ポリシー”のようなものを感じて、わたしはそれをいつもおもしろく見させてもらっていたのだ。
そこへきて、なるほどバービーさんには“夜の顔”も“昼の顔”もあるらしい。
考えれば考えるほどに、興味をそそられる人だと思った。
大久保さんの何気ないひとことをきっかけに、いつからかわたしはラジオ番組『週末ノオト』を聴くようになり、昨年出版されたエッセイ『本音の置き場所』(講談社)まで手に取るようになる。
そうした結果が現在であり、そう、わたしは今バービーさんの大ファンなのだ。
彼女の好きなところなら、いくらでもある。
ただ、どうしてもひとつ選ぶとすれば、それは「無責任なことを言わない」ところだった。
『週末ノオト』で扱っている内容は、深夜のラジオ番組とは違い、どちらかといえば「価値観や考え方を一緒にアップデートしてみませんか?」という“お勉強”のような内容が多い。子どもの教育のこと、相続のこと、パラリンピックのこと、ジェンダーのこと、戦時中のこと……。それらはもちろんエンタメとしてリスナーが楽しめるよう、難しい内容はとても丁寧に噛み砕かれ、頭と心にすんなりと入ってくるのだけど、これはパーソナリティであるバービーさんの人柄もとても大きいように感じる。
わからないことは「わからない」と真っ直ぐ素直に打ち明けるのだ。
興味がなかったことには「今まで親しみがなくて不勉強な分野なんです」と伝える。
おしえてもらっても理解が足りなければ、「ごめんなさい、なかなか難しいなと思うんですけど、たとえばーーーときはどうなんですか?」とわかるまで尋ねる。
実際に話を聞いたあとに印象が変われば「正直、いいものなんだろうなとは思ってたんですけど、こういうことだったんですね……」と胸の詰まりや驚きをとても素直に伝える。
どれも「おべんちゃらじゃない」「嘘じゃない」ということは、声を聞いていればよーくちゃんと伝わった。
すごくすごく信用できる友人と出会えたような気分だ。
中でもおもしろいなと感じたのは、彼女が著書の中で「結婚」を、富士急ハイランドのアトラクション『FUJIYAMA』に喩えていたことだった。
当時、結婚の予定のなかったバービーさんがそこに綴っていたのは、紛れもない「恐怖」だ。
「幸せ」というレッテルを貼られるのが怖い、自由な自分で居られるのかがわからず怖い、「勝ち負け」に巻き込まれてしまいそうで怖い、守るべきものができてしまうことでお笑いに影響がないかが怖い……。
彼女にとって「結婚」とはあの『FUJIYAMA』よろしく“乗ったら最後”の恐怖の塊であり、わたしはそこにいたく共感してしまった。あまりの未知は、憧れよりもうんと恐ろしい。
しかし、そんなバービーさんは今年4月めでたくご結婚された。
わたしはてっきり、「価値観を変えてしまうような出会いがあったのだろう」「乗り込んでも怖くない、ついにそう思えるようになったのだろう」とばかり思っていたのだけれど、8月の『週末ノオト』の放送を聴いて、「やっぱりバービーさんだな」と心から思った。
その頃、彼女の元にもやはり「主婦タレント仕事」が舞い込み始めている時期だった。
けれど、事務所の偉い人と話した機会に「“勝ち組”としてマウンティングをしなきゃいけないような仕事は、わたしにはできない」と彼女はあらかじめ伝えていたという。
では、もしもそういった立場を急遽求められた場合には。
「今は“惚気(のろけ)る”という武器しかないのよ……」と素直に話すバービーさん。けれどそれは何も「自分の本音とは何ら相違がないから問題がないはず」で、「今後もっといい答えを見つけ出していく」、ととても真剣に話していた。
迷いの中にいること、不安に思っていることもきちんと吐露しながら、たくさんのことを学んでたくさんの壁をブチ破り活動をしていくその姿。
ちなみに北海道で生まれた彼女は今、地方創生にもとても熱心だ。
常に「わたしにも何かできないか……」と考える姿に、勇気とどこか人肌のような温かさを毎週もらう。
そして、「変わらねば……」とわたし自身も強く思うのだった。
実は、書き手として活動するわたしには、ひとつだけいつもお断りしている仕事があった。「女性のーー」「性のーー」といった、まさに今回頻出した「ジェンダー」の問題だ。
不勉強だからということももちろんあるし、正直女性として生まれながら、無責任にもそういったことにあまりに興味を持てずに、ここまで生きてきてしまったわたしだった。
どちらかと言えば「得だなあ」だなんてことでしか、自分の性を感じることができていなかったかもしれないとさえ感じた。
けれど、この番組を聴いていて思う。
「知ること」はこんなに楽しいし、「知らない」で済ますことは時にとてもとても恥ずかしい。
わたしはこの夏、ジェンダーに関する本を8冊ほどまとめ買いした。
知ること、知らなかったこと、知らなければいけなかったこと。
今まで避けてきたけれども、パートナーとも「結婚」について話してもいいかもしれないとさえ今は真剣に思う。
この番組、そしてバービーさんのおかげでわたしはほんの少しずつアップデートしている。
それもこれも、大久保さんがあのとき
「バービーは、“お昼もできます”みたいなフリしてやってるけど……」
なんて言わずに、
「バービーは、“お昼のバービー”でちゃんとやってるけど……」
と、彼女の人間性を知ったうえでポロリと吐露してくれおかげだった。
大久保さんも「毒舌」を売りにしているタレントさんであるけれど、きっと本当に思っていないことを真面目には言わない。それはふたりきりでお話させてもらって本当によくわかった。
ちなみに何をあんなに心配されていたのか、夕方だって大久保さんの『TikTok Presents 大久保佳代子とトレンド遊び』(毎週土曜17:30ー18:00)はとてもとてもおもしろい番組になっている。
バービーさんは心から信用できるパーソナリティとして素晴らしい番組を届けてくれているし、大久保さんは本当にクセになる番組を一生懸命つくられているのだ。
もちろんわたしだって、おべんちゃらや嘘は嫌だ。
「本当のことしか書かない」それがわたしなりのポリシーである。
中前結花/エッセイスト・ライター。兵庫県生まれ。『ほぼ日刊イトイ新聞』『DRESS』ほか多数の媒体で、日々のできごとやJ-POPの歌詞にまつわるエピソード、大好きなお笑いについて執筆。趣味は、ものづくりと本を買うこと、劇場に出かけること。
llustration:stomachache Edit:ツドイ
(こちらはTBSラジオ「オトビヨリ」にて2021年10月29日に公開した記事です)