見出し画像

ラジオに恋したり、フラれたり、両想いになったり/トミヤマユキコ【連載エッセイ「わたしとラジオと」】

インフルエンサーや作家、漫画家などさまざまなジャンルで活躍するクリエイターに、ラジオの思い出や印象的なエピソードをしたためてもらうこの企画。今回は、トミヤマユキコさんにラジオとの出会いから深く関わっていくまでのおはなしをうかがいました!


——夜、ラジオを聴きながら宿題をやってる人がけっこういるらしい。それを知ったのは、1996年、高校2年生のときでした。静かな部屋で勉強しては、あっさり眠気に負けていたわたしは、そこに一筋の光を見たのです。

……が、しかし、はじめの一歩を思いきり間違えてしまったようです。オシャレな音楽のかかっているFMにすればよかったのに、どういうわけか賑やかなお喋りが聴こえてくるAMを選んでしまったのです。

流れてくる話がおもしろすぎて宿題が進まねぇ。

眠気には勝ちましたが、勉強は捗らないままです。どうすんのこれ。人気のミュージシャンが、お笑い芸人が、テレビで話すときよりもずっとパーソナルだったり下品だったりする話をたっぷり聞かせてくれるのが、たまらない……。ハマるのにそう時間はかかりませんでした。(当時はTBSラジオだと、『爆笑問題カーボーイ』、ユースケ・サンタマリアさんの『THEおとばん』をよく聴いていました)

その結果、わたしは大学受験に失敗しました。

聴いているだけでも十分におもしろいラジオですが、「ハガキ職人」になるともっとおもしろいと知ってしまったのが大変まずかったですね(笑)。ラジオ番組は、リスナーからお便りを募って、構成されているものも少なくないこと。自分のハガキが読まれたときの興奮と感動は、なにものにも代えがたいこと。凡庸な自分のハガキが、達者なパーソナリティたちによって、めちゃくちゃおもしろいものになっていくこと。聴けば聴くほどラジオの魔法にやられて、勉強なんかしている場合じゃなくなってしまいました。

放課後、図書館に行ってノートを開きます。番組に出すネタを書くためです。朝5時まで眠りません。深夜ラジオを聴くためです。こうして、わたしの生活はラジオ一色になりました。将来の夢は、ラジオの構成作家。女性はまだまだ少ないようだけれど、いないわけじゃない!

……と、まあ、ラジオに恋して夢みたいなことばかり考えていたら、受けた大学すべてに落ちてしまったので、「受験勉強に専念します」という“ふつおた”(普通のおたよりのこと)を番組に書き送り、悲しみの浪人生活を送ったのでした。

その後、晴れて大学生になったわたしのラジオ熱は、いよいよ以前にも増して高まっていくはずでした。しかし、ハガキ職人としてかわいがっていただいていた番組が浪人中に終了したり、構成作家を多数輩出しているというサークル部室にいつ行っても無人だったりと、ちょっとした噛み合わなさに「あれ?あれれ?」となってしまいました。さらに勉強、バイト、サークルをこなす生活に忙殺されたのが重なって、ラジオとの熱い熱い蜜月は自然と終わりを告げました。少し会わない間に、ラジオにフラれてしまった気分です。そして聴き専のリスナーに……。

ところが、人生ってよくわからないものですね。わたしはいまラジオに出る方の人間になっています。フラれたつもりが、アラサーになってからまさかの両想いです。

きっかけは『パンケーキ・ノート』という本を出したことです。出版社の宣伝担当Fさんが売り込んでくださって、『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」への出演が決まりました。そこから先は、TBSラジオ好きのみなさんであればご存知の通りで、パンケーキ以外のテーマでも、マンガ、ネオ日本食、バチェロレッテ・ジャパン、きのこ総選挙と、さまざまなテーマで呼んでいただいております。

ラジオに出る方になって、「ラジオってすごいな」と改めて思うのですが、たとえよくわからないテーマでも、スタッフさんの熱意や、作家さんのしっかりした構成があると、番組として成立するんですよね。前例がないからと渋る人もいないし、わたしがきのこの専門家じゃなくても、きのこの企画が通ったりします。

あと、ラジオってリスナーさんの器が基本デカいので、「よくわかんないけど、とりあえず聴いてみるか~」と思ってもらえそうだなという安心感があります。箱の中身はなんじゃろな、じゃないですけど、一緒に手を突っ込んでくれるのが、ラジオのリスナーさんだなと。なんてありがたいんだろう。

自由だけど、いい加減じゃない。ゆるいけど、適当じゃない。ラジオだからできるその絶妙なバランス感覚を、わたしは心から愛しています。ああ、死ぬまでラジオに出ていたい。恋してフラれて、ようやく実ったこの両想いがずっとずっと続きますように。そう祈っています。

画像1

トミヤマさんのふだんのラジオ聴取セット


画像2

トミヤマユキコ/ライター。東北芸術工科大学芸術学部講師。ライターとして日本の文学、マンガ、フードカルチャーなどについて書く一方、大学ではマンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当。2021年度には朝日新聞書評委員、手塚治虫文化賞選考委員に就任した。著書に『パンケーキ・ノート』(リトルモア)、『大学1年生の歩き方』(共著、左右社)、『夫婦ってなんだ?』(筑摩書房)、『少女マンガのブサイク女子考』(左右社)がある。

(こちらはTBSラジオ「オトビヨリ」にて2022年1月18日に公開した記事です)
llustration:stomachache Edit:市川茜 ツドイ