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ラジオで占う、旅の行方/光と音のハオハオハオ【連載】

インフルエンサーや作家、漫画家などさまざまなジャンルで活躍するクリエイターに、ラジオの思い出や印象的なエピソードをしたためてもらうこの企画。今回は、世界中から光や音の出るアイテムを収集し、またその販売も行っている、光と音のハオハオハオさんに、異国でのタクシーとラジオにまつわるおはなしをうかがいました。

今ではアプリを数タップすれば容易にクリアーな音質のラジオが聴ける時代だが、自分が幼い頃は目当ての番組を聴くために周波数を調節してアンテナの角度を弄ったりしながらなるべく最適な状態でラジオを聴こうと必死に部屋の中をうろうろしたりしていたことをずっと忘れないでおきたいなと思う。

好きなアーティストの新曲が「ラジオで先行配信」なんて情報をキャッチしたらカセットデッキの前に正座して、録音に失敗しないように手に汗握りながらカセットテープのRECボタンを押す瞬間なんて、MP3世代の人たちから考えると何かの儀式のように見えてしまうかもしれない。

実際に私自身もradikoのタイムフリー機能にかなり助けられているし、 最近ではRadio GardenやTuneln Radioなどのアプリを使えば世界中のラジオが容易に聴けるようになったが、私にとってラジオとはその土地のその瞬間でしか聴けない「ナマモノ」であるという要素が魅力のひとつだと思っている。特に海外では今でもそれを肌で感じる瞬間が多々ある。

カモになる観光客が来ないかと待ち構えているような緊張感漂う海外の空港で、誰も信じられない状態の中タクシーの交渉をする。無愛想だけど観光客慣れしていなそうな運転手を見つけて乗り込んだ車内から流れるローカルFMの音楽が好みの曲調だと、「この旅は最高なものになる」と、見えない神に歓迎されている気分になる。

音楽認識アプリでも捉えられないそのノイズまみれの名曲が気になって、言葉が通じないながらも運転手に「今ラジオから流れている曲を知っているか?」と身振り手振りを交えて尋ねる。大体はタクシーの運転手も知らない楽曲であることが多いので、とりあえず手持ちのレコーダーに録音しておき、後から街のレコード屋に行って尋ねることが多いのだが、実際にタクシー車内で耳にした楽曲のタイトルが判明してCDやレコードなどの実物を手にできる確率はかなり低い。しかし、かなり低いからこそ、よりそのラジオで流れていた楽曲の刹那性に愛しさを感じる。

もしかしたら、一種の吊り橋効果のようなものもあるのかもしれない。初めて降り立った異国の地で「遠回りされてぼったくられるかもしれない」という不安を抱いた私と、そんな外国人を乗せたタクシー運転手とのなんとなく気まずい間を取り持ってくれている存在がラジオだから、日本で聴いたらなんとも思わないような楽曲ですら今までに出会ったことのないような名曲に感じてしまうのかもしれない。

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ハオハオハオさんが愛用しているのは、中国語の賛美歌や聖書の朗読が流れる「バイブルマシーン」。ラジオ機能を備えており、チューニングすれば日本のラジオも聴けるようになっている。

夜遅いフライトで台湾の桃園空港に到着し、市街地へ向かうために乗り込んだタクシーでの出来事をたまに思い出す。カーステレオのラジオからテレサ・テンの曲が流れてきてハッとした。台湾出身の歌手として日本でも爆発的な人気を博した彼女の楽曲を、台湾に着いて早々に耳にするとは思いもせず、「今回の旅も最高なものになるだろうなあ」と内心テンションが上がってしまったことは言うまでもない。その時は運転手もテレサ・テン好きで、他にも彼のお薦めの歌手等を教えてもらったりして車内で非常に盛り上がり、幸先の良い旅のスタートを切ることができた。

視覚情報は一切無しの状態で、その場に居合わせたからこそ出会う音楽やパーソナリティのトークテーマに想像力を掻き立てられる瞬間は、ラジオでしか得られないかけがえのないものに感じる。もしかしたら私は、その偶然性になんとなく神の采配のようなものを感じてしまっているのかもしれない。

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光と音のハオハオハオ/世界中の光るものや音の出るものを販売するWEBショップ「光と音の専門店ハオハオハオ」を運営。中国の念仏や仏教ソングが流れる電子念仏機(通称ブッダマシーン)を収集し続けており、好きが高じて日本発のオリジナル電子念仏機「天界」を2021年2月にリリース。


llustration:stomachache Edit:ツドイ
(こちらはTBSラジオ「オトビヨリ」にて2021年7月2日に公開した記事です)