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プロデューサーは“空調設備”のようなもの?『たまむすび』『OVER THE SUN』人気番組を支える裏方の仕事/中野堅介【#ネクストクラフトパーソンズ】

「これからのTBSラジオ」を担うスタッフの実像に迫るインタビュー企画「#ネクストクラフトパーソンズ」。

今回登場するのは、『赤江珠緒たまむすび』やPodcast番組『OVER THE SUN』を担当する、TBSラジオ入社7年目の中野堅介さん。中野さんはプロデューサーとして、編成・営業部門のスタッフや出演者事務所との交渉、番組の予算管理などをおこなっています。

プロデューサーのなかには、自ら企画を打ち出し周りをグイグイ引っ張っていく方もいますが、中野さんは「自分は裏方タイプ」と控えめ。そんな中野さんが“裏方”として大事にしている思いや、入社してから何より嬉しかったという『爆笑問題カーボーイ』にまつわるエピソードについてうかがいました!

「中野くんなら。」覚悟をくれた赤江さんの言葉

現在の僕の仕事の中心は、毎日の番組をモニターすることはもちろん、TBSラジオの編成・営業セクション、出演者の事務所といった関係各所との打ち合わせ・交渉。あと、番組をより多くの方に聞いていただくための情報発信、番組の公式SNSアカウントの運用を担当しています。

1日の1コマを例に挙げると、まず営業セクションのスタッフから、「今こういう企業からこんな相談を受けているんだけど、たまむすびで何かできないかな?」といった話を持ちかけられます。そしたらまずは、営業・番組のスタッフと頭を捻りながら、「たまむすび」的な企画の落とし込み方を考えて、関連する出演者の方々の所属事務所に具体的な条件等を提示。ご検討いただきます。その間、絶えず営業セクションのスタッフと事務所ご担当者の双方とやり取りしながら、実現に向けて進めていく…。これが、番組にスポンサーが決まるまでのおおまかな流れです。

リスナーの皆さんは言わずもがな、あらゆる面で番組を支えてくださる方があっての「たまむすび」ですから、こういった関係各所との交渉やお金の確保は、プロデューサーにとって大事な仕事の1つです。

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今年の2月、前任のプロデューサーの人事異動を機に、それまでディレクターをしていた「たまむすび」のプロデューサーに就きました。「その後任に中野を」という話を聞いたときは、「まだ28歳の若輩者。僕でいいのかな」と不安だったのが正直なところ。スタッフのなかでも下から数えた方が早いくらいの年次でしたし、年齢的な未熟さを言い訳にして、どこか保険をかけようとしていたんだと思います。そんななか、前任のプロデューサーがメインパーソナリティの赤江珠緒さんに人事異動の報告をして、後任のプロデューサーの相談をした際、「中野くんならいいんじゃない?」と、赤江さんが言ってくださったらしくて。それを聞いて、「赤江さんがそう言ってくれるなら、やるっきゃない」と気持ちが固まりましたし、本当に光栄に思いました。金曜日の外山惠理アナウンサーも明るい笑顔で「よろしくね!」と言ってくれて。とても嬉しかったです。

また、ディレクターを務めていた『ジェーン・スー 生活は踊る』の金曜日が終了することになり、その後継として、2020年10月からPodcast番組『OVER THE SUN』がはじまりました。出演者はジェーン・スーさんと堀井美香アナウンサーのスーミカコンビ。スタッフもそのままで、ということになり、こちらは番組の開始からディレクター業務も担当しています。この番組は基本的に台本なしで、スーさんと堀井さんが1時間近く自由におしゃべりすることもあるし、リスナーの皆さんからのメールをひたすら紹介することもあります。

昨年、ニッポン放送が主催する『JAPAN PODCAST AWARDS2020』で、ベストパーソナリティー賞とリスナーズ・チョイスと2つの賞を受賞しました。互助会メンバー(=リスナー)の皆さんの力が集結した結果です。名前も知らない人同士だけど互いに互いを称え合っているような。もちろん実際にそんな姿は見えないけれど、確かに感じられた光景です。スーさんも堀井さんも、1つ高いところにいるわけでは決してなくて、互助会の一員としてほかのメンバーと一緒に歓喜のダンスを踊っていたと思います(笑)。「OVER THE SUN」がここまで多くの人に聞いてもらえるようになったのは、このコロナ禍で人々がふつうのおしゃべりをすること・聞くことに飢えているのもあるでしょうし、なによりリスナーメールのおもしろさがあります。ほかの番組にはあまり届かないような内容が味わい深くて、互助会の皆さんには感謝感謝です。だから、「感謝」の湯呑みを作ろう、なんて最近はスーミカさんと話しています。

自分の役割は「空調設備」のようなもの

プロデューサーの仕事は、空調設備みたいなものかな、って思います。これまで培ってきた番組のイメージや温度感をふまえて番組をモニターしつつ、居心地の良さを維持すること。あるいはよりよい空間にしなければなりません。番組の中の人、でありながら、一歩引いてリスナー視点で物事を考えることは大切です。スーさんからは、「炭鉱のカナリア」と呼ばれています(笑)。

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「たまむすび」は「何も残らない番組」と言われることがあります。ずっとディレクターを担当していた水曜日の博多大吉さんもよく、自虐的に「何も残らない」なんて話をされますが、「何も残らない」と表現されるくらい気軽に聴けるのは、「たまむすび」の大きな魅力だと思います。

毎日、いろいろ大変じゃないですか。今はあらゆるところでコロナの話題ばかりだし、学校や職場にはきっと嫌な人もいるだろうし……。そんな日々でも、「たまむすび」で大人同士のたわいもない会話を聴いてニヤッとしていると、嫌なことも忘れられる。忘れられるというか、どーでもよくなっちゃう?

たとえるなら、都会の喧騒から離れて、おばあちゃんの庭の軒先で麦茶を飲んでいるようなイメージでしょうか。そんな風にほっとできる感じは、今の時代、実はすごく貴重なんじゃないかと思ったりもします。リスナーの皆さんにとって、「たまむすび」がそんな存在、居場所であることは守っていきたいですね

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もう1つ、裏方として大事にしているのが、ミスをしないこと。当たり前の話ですが、「たまむすび」はより気を引き締めなきゃな、と思います。というのも、火曜日の「たまむすび」に「おばあちゃんのやさしいつぶやき」があります。赤江さんを筆頭に、出演者のお茶目なミスややらかしを楽しく振り返る企画で、大変気あるコーナーです。一方で、たとえば赤江さんが読む台本の表記が間違っていれば、場合によっては、赤江さんのミスだと思われてしまう可能性もあります。でも赤江さんは決して、「台本が間違ってた」なんて放送で言いません。ゆえに、スタッフは間違えちゃいけないんです。ただ、かくいう僕が台本を書き間違えて迷惑をかけたことも…。あのときは本当にすみません(泣)。

高校生から憧れだった『爆笑問題カーボーイ』に近づけた日

TBSラジオに入社してから今日まで、何より嬉しかったのは、高校時代から憧れの『爆笑問題カーボーイ』を近くに感じられたことです。

というのも「カーボーイ」は、僕がラジオにのめり込むきっかけになった番組。僕は高校生の頃、自転車で片道30分かけて学校に通っていて、その間ずっと「カーボーイ」のPodcastを聴いていたんです。それでラジオを好きになり、TBSラジオを知りました。

就職活動でTBSラジオを受けた理由も、「カーボーイ」を放送しているラジオ局で働きたかったから(笑)。面接官にそんな思いをまっすぐに伝えたのがよかったのか、現在に至ります。

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去年の4月頃のこと。平日18時からの『アフター6ジャンクション』の前の10分枠が火曜と水曜日だけ空いたため、約3ヶ月に渡って、その番組枠をゼロから任せてもらえることになったんです。そこで企画した番組の1つが、『BGMの「おこだわり」、教えてくれよ!』。TBSラジオの番組で使われている楽曲は誰がどのように選んだのか、担当者に取材して紹介する、という内容でした。

ある日、同番組で「カーボーイ」のオープニング曲を取り上げたところ、爆笑問題の田中さんが偶然聴いてくださっていて。同じ日に放送だった「カーボーイ」で「こんな番組があってね……」と話題にしてくださったんです。

もともと爆笑問題のラジオに憧れて入ったTBSラジオで、僕が作った番組が流れて、しかもそれを爆笑問題が聴いてくれて、さらには「カーボーイ」で話題にまでしてもらえて。高校時代、学校の行き帰りで聴いた“憧れ”そのものだった「カーボーイ」に、ここまで近づけたんだと実感できた出来事でした。

“裏方の裏方”として「みんなが楽しく働ける居場所づくりを」。

プロデューサーにもいろいろなタイプがいますが、僕は強烈なリーダーシップを持っているわけでもなく、裏方に徹するタイプ。それは自分が勝手に思い描いていたプロデューサー像とは違う部分もあって、正直コンプレックスに感じたことも。いわゆるアツイ人間ではないので、そんな奴が制作現場にいていいんだろうか、と悩んだことさえあります。

ただ、プロデューサーにもいろんなタイプがあって、それぞれ何に美学を感じるかってあると思うんです。それでいうと僕は、裏方を支える裏方としての自分が好き。酔っている節があります。というか、そんな感じでしかやっていけない(笑)。「みんなが気持ちよく働けるよう、環境整備に徹したい」という思いは、就職活動時のエントリーシートにも書いていて、今になって振り返れば、そこは今日まで一貫してるんだなーと思います。赤江さんもきっと、僕のそういうところを見てくれたんじゃないですかね。わからないですけど(笑)。

「みんなが輝ける場所を作りたい……」なんて恥ずかしいフレーズ、うさん臭い求人広告みたいですけど(笑)、それは本当に思っていて。出演者やリスナー、それを支えるスタッフがちゃんとスポットライトを浴びて、やりがいを持って働ける楽しい現場を作ることが、僕ができるプロデューサーの仕事かなと。

こういうプロデューサーもいていいんじゃない?と思いますし、今の自分はそれができる環境にあるから幸せだし、今後も裏方の裏方としてTBSラジオを盛り上げていきたいです。

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中野堅介/2015年にTBSラジオに入社。編成局編成部で編成トラフィックの仕事を経て、2017年に制作部へ。現在は、『赤江珠緒たまむすび/金曜たまむすび 』や『OVER THE SUN』のプロデューサーとして活躍。

Photo:飯本貴子 Writing:市川茜 Edit:ツドイ
(こちらはTBSラジオ「オトビヨリ」にて2021年9月3日に公開した記事です)