悪戯好きな北欧ジャズの妖精、Lars Jansson Trio
北欧ジャズって何が違うの?
最近、聴いたことの無い方にそう聞かれた。
その時は、すぐには上手く伝えることが出来なかったが、
私の限られた耳からの印象では、
- 霧がかった薄暗い森の中に、木漏れ日が差してくるような、
- はたまた雨がザーザー振っているのに鮮やかな青色の胸元の鳥が羽ばたいていくような、
- 優しいメロディが少し怪しさ醸し出すコードの上で踊って行くような、
そんな感覚がある。
その描写がやっぱり似合う。そう思う、北欧ジャズを代表するLars Janssonさんの生演奏で初体験することとなった。
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偉大なるピアニストの中には、悪戯好きな森の妖精が宿っているようだった。
そのお茶目さは音源だけでは全て感じることが出来ず、フルに体感できる生演奏だからこその醍醐味だ。
その悪戯好きの妖精は、優しいタッチで鍵盤の上を踊り、木々から落ちた葉っぱが宙を舞わせるように走り抜けていった。
しかし、その足元はドラム奏者を思わせる、正確でパンチの効いたリズムを常に刻んでいた。
足でリズムを取るピアニストは今までも見てきたが、両足で踏む強弱のついた裏と表拍のビート、軽快な三拍子など、全てを自在に足で刻みながら演奏しているピアニストは初めて見たかもしれない。
Larsさんはドラムも演奏されるのだろうか。 このトリオのドラム奏者であるPaul Svanbergさんへの親としての愛情も豊かに感じると共に、Larsさん自身がまるでピアノと同時にドラムも演奏しているようだった。
そして、勿論ステージ上で私たちに向けて演奏しているのだが、同時に観客としても楽しんでいる、そんな印象が残るLarsさんだった。
そんなLarsさん、Paulさん親子に挟まれて演奏するThomas Fonnesbaekさん。
数多くのドラムレス編成で演奏しているとあって、強力なグルーヴ感とリズム感が感じられた。LarsさんとThomasさんがグルーヴを創り出すので、ドラムが自由に移動できる。少しプッシュ感のあるThomasさんのビートと、少しレイドバックなPaulさんの狭間に3人のグルーヴの芯がある。そのグルーヴの芯は、一曲進むごとに更に締まって行く、そんな印象の演奏だった。
1ステージまるごと座ったまま演奏しているウッドベース演奏は、初めてみたかもしれない。人は椅子に座ると、立っている時よりも仕草やエネルギーが落ち着くことが多いだろう。しかし、トーマスさんのエネルギーは、座ることで落ち着くどころか倍増していた。
通常だったらトランペットやバイオリン等のフロント楽器が演奏しそうなトリルやアップテンポなメロディーラインを、美しいアルコと激しい指使いを行き来しながらそつなくこなしていた。あまりに普通に演奏しているので凄さを見落としそうになるが、冷静に考えるとその凄さを改めて感じる、素晴らしい演奏だ。
5年ぶりに来日公演を果たしたLars Janssonトリオ。
導かれるようにして来日最終日に聴くこととなったが、度々北欧ジャズを勧められてきた身としては、これからどんなご縁が続くのか、楽しみだ。