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形と音(2)巨匠たちの考えた音
「形と音(1)」では、空間の形が音に大きく影響し、時に音響障害を生じることをお伝えしました。
しかし、音が形に影響されるということは、逆に、形をデザインして反射音をコントロールできるということに他なりません。巨匠建築家たちは、反射音の届き方を想像して設計をしていたようです。この記事ではその例を紹介します。
ヴィープリ(ヴィボルグ)の図書館/Alvar Aalto,1935
ロシアのフィンランドとの国境付近にある図書館。設計はアルヴァ・アアルトです。館内のセミナー室の天井は、アアルトらしい有機的な曲線でデザインされています。
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この天井の形は、意匠的なデザインだけではなく、音響的に緻密に検討されて設計されたものなのです。天井からの反射音が聴衆席にうまく届くようスケッチされたものが残されています。
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このような反射音の線図は、現在であればコンピュータシミュレーションを用いて簡単に描くことができますが、当時は手描きで作図しています。手描きだと、このように複雑な曲面形状でどんなふうに音が反射するか、実感しやすいですね。
ロンシャンの礼拝堂/Le Corbusier,1955
言わずと知れた名作。光の美しさが注目されることが多いですが、屋外祭壇まわりの形状は、前面広場への音の反射を考えて設計されたようです。
前述の事例と違って、反射音のスタディをした記録は見つけられていないのですが、コルビュジェの残した文章などから、そのように推察されます。
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当時、前面広場には大勢の人が集まって司祭の話を聞くことがあったようです。緩い曲面壁と緩く反りあがった深い庇は、集まった人々に司祭の声を余すことなく、つまり、できるだけ横に逃がさず正面に、より遠くにも届ける形になっているように見えます。
巨匠建築家たちは、光や風や音や、空間に漂ういろいろな環境要素や訪れる人の感じ方について思いを巡らせながら設計をしていたのでしょう。出来上がった空間でどんな音がするのか、響きがするのか。そうしたことを当たり前のように想像して形に落とし込んでいったのだと思います。
今、建築設計に関わる私たちはどうでしょうか?
※引用文献:『Alvar Aalto 1898-1976』SEZON MUSEUM OF ART