「吸音」が必要な場所とその効果って?
私たちの身の回りは、室内外問わずたくさんの「音」であふれています。街を行きかう車や電車の音、人々の声、商店街のBGM、アナウンス等さまざまです。私たちの過ごす空間が快適であるためには、場の喧騒感が低いことはもちろんのこと、必要な音声情報をストレスなく受け取ることができ、落ち着いて心地良く過ごせることが求められ、そのためには室内の「吸音」が不可欠です。
この記事では、吸音が必要な場所と、空間や人々へもたらす具体的な効果、実空間での事例を紹介していきます。
身近な暮らしで見られる、吸音が必要な場所
私たちが生活する街には、音声コミュニケーションが必要な空間が多く存在します。学校、保育園、オフィスなどでは、円滑なコミュニケーションを可能にする音響的配慮が不可欠ですし、駅やショッピングセンターなどでは、ある程度のにぎわいを許容したとしても過度な喧騒は抑えるべきであり、案内放送等の音声情報の聞き取りやすさの確保が必要不可欠です。また、美術館など、会話を主目的にしない空間でも静かに落ち着いて過ごせることが重要です。
音が聞き取りやすく静かで落ち着いた空間を作り、円滑な音声コミュニケーションを助けるのに必要なのが空間の「吸音」です。「吸音」が必要な場所は、人々が過ごすあらゆる場所にあると言えます。
空間や人々へもたらす具体的な効果
室内における「吸音」には、大きく分けて2つの効果があります。
①聞き取りやすさの向上
トンネルや銭湯などで声を発すると響きが残り、話の内容がはっきり聞こえないことがありますが、身近な「吸音」の足りない空間においても同様のことが起こります。駅や空港内の放送や、特に災害時の避難誘導放送が聞き取りにくいと困りますよね。室内に吸音を施すことで響きが短くなり、響きに邪魔されず音声が聞こえやすくなります。
② 喧騒感の低減
大勢が集まる駅構内や飲食店などで、騒がしくて不快に感じたり、会話がしにくかったりという経験は誰もがお持ちかと思います。特に公共空間は、耐久性や掃除のしやすさ等の理由から硬くて吸音しにくい仕上げ(コンクリート、ガラス、ボード等)が用いられることが多いため、音が減衰しにくく、喧騒感の高い空間になりがちです。吸音仕上げを用いることで、喧騒感を減らすことが出来ます。
実空間での事例
具体的な空間で、これらの効果を見てみましょう。
駅構内
駅構内や空港といった交通施設では、普段の案内はもとより、遅延や運転見合わせなどのトラブル時に情報が正確に伝わることが大切です。図-(a)に示すように吸音が少なく響く空間の場合、アナウンスが流れても響きやその他の音と混ざって音声が明瞭でなくなり、正確に聞き取れません。しかし、天井などに吸音を施すことによって、音声の明瞭性が高まり、正確な情報を聞き取りやすくなります。なお、吸音仕上げに加えてスピーカの適切な配置を考えることも大切です。
学校
昨今の学校では、先生の話を聞くだけでなく、グループ学習で複数人の子供たちが同時に話し合う等の多様な学習形態がとられます。室内に吸音が少ない場合、先生やクラスメイトの声が不明瞭になったり、ちょっとした音も低減されず教室全体が騒がしくなり、相手の声がそれらに埋もれて聞こえにくくなってしまいます。しかし、天井や後壁などに吸音を施すことで、相手の声が聞き取り易くなります。その結果、飽きて雑談を始めてしまう児童が減り、授業への集中を助けることが期待されます。
オフィスや会議室
会議室では、お互いの発言を聞き円滑な話し合いを行うことが求められます。吸音が少ない会議室では、発言者の声が聞き取りにくいことがありますが、天井や壁などに吸音を施すことで、発言も聞き取りやすく、落ち着いて話し合いを行うことが出来るようになります。昨今増加したWEB会議ではスピーカやマイクを通しての会話となり、対面の会議より響きの影響が大きく、疲れやすいと言われています。
美術館や博物館
美術館等では、静かに作品を鑑賞することが求められることがあります。吸音が少ない場合ちょっとした会話や他の人の足音などによる喧騒感、さらには何か物を落とした時に「カーーン」と大きな音が響き渡り、集中が途切れてしまうこともあります。しかし、天井や床に吸音を施すことによって、不要な音が小さくなり、落ち着いて作品鑑賞することが出来るようになります。また、最近では音を使用した展示が行われることもあります。展示室の環境を整えるためにも吸音について考えることは大切です。
まとめ
ここまで、吸音が必要な場所と、空間や人々へもたらす具体的な効果について説明しました。空間に吸音を施すことで、不要な響きが減り、音声の明瞭性が向上し、内容が聞き取りやすくなります。と同時に、喧騒感の緩和や落ち着き感の向上につながります。
しかし、吸音不足の空間がとても多いのが実情です。快適な音環境の空間が増えるよう、本noteでは吸音に関する有用な情報を提供していきます。
参考文献:
『ディテール207, 特集「吸音」から考える音環境のディテール』
2016 年冬季号.彰国社,