若手演出家と創る『ノコサレタ熱』座談会①『地方での演劇活動〜何のために演劇するんだろう?〜』
本企画は、地域で活動する若手からベテランの演劇人、ダンサー、そして東京をはじめ各地からの参加者が岡山に集まり、4チームに分かれ『ノコサレタ熱』(作:河合穂高)を題材に創作、2024年9月8日に上之町會館で作品を一般公開します。
桐子カヲル(コキカル)をナビゲーターに迎え、これからの創作環境、地方での活動、演出のあり方を考える座談会などにも取り組み、それぞれが「自分にとっての演劇とは何か?」を探ってゆきます。
今回は7/31に今回の企画参加者内で実施された地方での演劇活動に関する座談会の模様を宣伝広報担当の橋本の視点からお送りします。
①何の為に演劇をするのか
コロナ渦以降、「何の為に演劇をやるのか」ということを考える場面は増えた様に感じます。これはオンラインミーティング用のツールなどが発展し、空間と時間の共有するという演劇の最大の特徴が社会から重要視されなくなった結果、その中でも演劇を続ける意味を社会に発信する必要があるからではないかと考えられます。
アフターコロナとなった今、これからどう演劇を続けていけばいいのでしょうか。
まず初めに、演劇を続ける原動力として「演劇が好きだから、楽しいから」というものはあると思います。この意見は今回の座談会参加者でも共通の認識でした。私自身、大学生だったコロナ前は楽しいから演劇を続けたいといった認識でした。しかし、楽しいからだけでは続けられない現実があるのもまた事実です。公演予算の調達や演劇に対する周囲からの理解、仕事との両立等々、課題は演劇の内外に多く存在します。特にコロナ渦以降、こういった現実の課題は社会から更に強く突きつけられる様になった印象があります。そういった課題に対し、敢えてその課題を乗り越えてまで「どうして演劇をするのか」を考える必要があると感じました。
今回の参加者の中でもこの点に関しては様々な意見がありました。
その中で感じたキーワードは、
1.時間と空間を共有する演劇の特性を活かす
2.発信ツールとしての演劇を受け取る側に還元できる作品作り
の2点です。
1点目は、SNS等様々な発信ツールが存在する中で演劇でしかできないことを突き詰めると、発信者と受信者が同じ時間と空間を共有できるという特性を活かすのが重要だと感じます。例えば、過去に私が出演した作品に、暗転を一切挟まずに役者と観客が90分間、全く同じ時間と空間共有する作品がありました。この作品の魅力の一つに、時間と空間を共有することで舞台上で起こっている事象を観客が覗き見ている様な感覚になる、というものがありました。この臨場感は演劇ならではのものではないでしょうか。私が観客として観たお芝居の中でも目の前で見るからこその感動や共感、或いは目を背けたくなるような事象を見せつけられるといった、その時その場に居るからこその臨場感を活かした作品は総じて印象に残っています。特にコロナ以降、表現者と観客が同じ時間と空間を共有する希少性が増している為、この部分は演劇特有の武器として、表現媒体の中でアイデンティティを保てるのではないでしょうか。
2点目は、より多くの人に演劇に興味を持ってもらう為には必要ではないかと感じます。今回の座談会で出た話の中で例を挙げますと、まず新規客層を獲得しようと考えた場合、演劇を見慣れて居ない方が初めてお芝居を観た際、日常生活では味わえない様な体験を演劇を通して味わうことで、その人の感性を揺さぶり、心に残る様な作品を観ることができれば演劇をまた観に来たいという方向性に繋がると思います。また企画をする際、今まで演劇とかかわったことがない人を巻きこむ場合もあります。今回の座談会で出た事例としては、普段は演劇に使用しない様なコミュニティハウスで演劇を企画した際のお話がありました。その際、コミュニティをお借りする以上は施設の利用者にも何か還元出来ることがないかと模索したそうです。この様な経験談を通して、演劇を製作していく中で、演劇に馴染みのない方も含めて、演劇に関わって良かったと思える経験を通して、演劇のを作る魅力に触れていただくことが大切ではないかと考えました。総じて、作品を通して観客や参加者或いは協力者など、どんな形であれ演劇に関わり続けることに魅力を感じる芝居作りができると良いなと思いました。
②地方で演劇を続けていく意味
現在、日本における演劇の中心は東京等の大都市圏なのは疑いようのない事実だと思います。そんな中で敢えて地方で演劇をする意味を考えていきたいと思います。
私は関西で6年間演劇に携わった後、現在岡山で演劇を続けているます。その中で特に設備と人員という点では厳しいものを感じます。劇場の数や設備、同条件で確保可能なスタッフの数や質にはどうしても差がある様に感じます。それでも私は、関西時代よりも今岡山で演劇をする意味を強く感じています。その主な要因はその土地でしかできない表現があると感じているかだと思います。上記のような制限があるからこそその制限を乗り越えるために新たな表現が生まれる可能性があるのではないかと考えています。
また、個人的な話にはなるのですが、私自身は職業柄全国転勤を伴う職業に就いており、辞令一つで全国の様々に地域に引っ越す可能性があります。それは一つの土地で演劇ができないデメリットはありますが、裏を返せば様々な土地で演劇ができるチャンスがあるということだと捉えています。そのチャンスを生かして、様々な地方の演劇をコラボレーションする手助けを出来る様な存在になりたいなと考えています。
③どういう作品が作りたいのか
企画や芝居を作る中で、どういうものを作るかというのはその人の置かれた環境等の内部的な要因とどういう企画を作っていくのかという外部的要因の両方から影響を受ける要素です。
今回の座談会でも以前は群集劇を作りたいというところから様々な作品をインプットしていく中で少数の人間の作品に魅力を感じるようになったといった話もありました。
また、作品をどういった人たちに届けるのかという点も作品選びや演出に変化があるのでないかといった話もあり、こういったところにも演劇を受け取る側を意識して作るのも大事だと思います。
また、座談会の中で出た話題として、どういう作品を作りたいかというところを考える上で、演劇に限らず様々なものをインプットするのは必要だと感じました。その中でアウトプットに落とし込めるものを取捨選択していくことで描きたいものをより具体的にできる様になればいいのだと感じました。

若手演出家と創る『ノコサレタ熱』
9月8日の11時と15時に上之町會舘にて上演いたします。
是非お越しください。
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