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29歳で脳梗塞になった話 ┈┈ 第1回

7月16日(日)

 梅雨の最中にも関わらず、35℃を超える猛烈な暑さと日差しの照りつける、茹だるような1日だった。

 月末の吹奏楽コンクールに向けた練習のため、自宅から40分ほどの場所にある公民館へと車を走らせる。途中の月極駐車場で楽団の楽器が積まれた団車に乗り換え、2トンの箱車を練習会場へ向け運転していくのだが、このとき私は既に自身の体調に何か悪い予兆を感じていたのかもしれない。普段は団車置き場に置いていく自家用車を、同じ楽団に所属する妻に公民館までもってきてもらうことにした。

 13時過ぎに公民館へ着くと、先着していた団員たちとトラックの荷台に積まれた楽器を降ろしていく。楽器はティンパニや木琴などの大型楽器から、譜面台、ハーモニーディレクターなどの小物まで様々だ。炎天下に晒されていた箱車の荷台は既にサウナと化していた。天井に卵を落とせば目玉焼きができただろう。体調不良や仕事の都合で打楽器パートが少なかったこの日は、私がこのサウナから楽器を降ろす係の中心を担っていた。

 15分ほど経っただろうか、作業がひと段落する頃には滝のような汗が額から流れ落ちていた。力仕事を終えた重たい体で練習会場に向かい、今度は冷房の効いたホール内で楽器の組み立てなどを行う。一通りのセッティングを終えたところで、ふと体が怠くなっていることに気が付いた。熱中症になるといけないと思い、急いで自動販売機で冷たいスポーツドリンクを購入する。ペットボトル1本では到底カラカラの体を潤すことはできない。追加で2本3本と体に水分を補給した。しかし、どうも体の怠さは回復しない。それどころか、視界の左端あたりがギラギラと見え始め、頭痛もしてくる。これは既に熱中症の症状が出ているかもしれないと思い、合奏も半ば、ホール外のベンチで横になり体を休めることにした。もちろん冷たいペットボトルで患部を冷やすことも忘れずに。

 17時頃、夕食休憩の折に心配した団員が声を掛けに来てくれた。お礼を言うためにベンチから起き上がり相手の顔を見るが、何かおかしい。何故か相手の右目がなくなって見える。目が肌と同化して見えるという言い方が正しいだろうか。とにかく視界の一部が欠けて見えるのだ。これはいよいよ症状が悪化したかもしれないと思った私は、練習を早退し自家用車で早々に帰宅することにした。

 妻に運転を任せ、私は患部という患部を冷やすことに全力を尽くした。しかし、症状はよくなるどころか吐き気までしてくる。なんとか胃の中のものを体内に留めたまま帰宅するも満身創痍。私はすぐにベットへ横になり、体中を保冷剤で冷やしながら眠りに就くことにした。

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