29歳で脳梗塞になった話 ┈┈ 第7回
7月20日(木)
点滴は静脈に繋がっている。投与量は100mlや250mlなど薬によって様々で、終わる時間も液の滴下速度によって違いがある。滴下後は管内の流れをよくする薬剤を投入し、管をまとめて網で腕にとめ置く。ふと管の繋がっている腕に目を向けると、点滴の終わった静脈から血液が逆流していることがある。看護用語で「逆血」と呼ばれるこの現象、いつ見ても大変心臓に悪い。故に最近は点滴が終わるタイミングを見計らって、如何に素早くナースコールをかけられるかに神経を尖らせているのであった。
朝食後、これまで胸に繋がれていた心電図の管が外された。トイレやリハビリに行く度に外したり付けたりを繰り返していた煩わしさがなくなり、気持ちが随分と楽になった。それからもう一つ朗報として、SCUから一般病室へ移動することが決まった。恐らく急患の都合で押し出し式に部屋を出ることになったのだと思うが、それでも静かな病室へ移れるのは大変喜ばしいことだ。引越し先の部屋番号は、奇しくも最近越したばかりの自宅マンションと同じ号数であった。
一般病室は4人相部屋。窓際と廊下側に2つずつベットが置かれ、1人分の区画はそれぞれカーテンで仕切られている。私の引越し先は廊下側となった。トイレと洗面台は共用で、テレビ付きの棚、テーブル、ゴミ箱などは専用である。部屋は満床のようで、時折寝たきりのご老人の呻き声にも似た叫びを聞く。SCUを出たからとて、必ずしも静かになるとは限らないようだ。
午後のリハビリは理学療法士サポートのもと、別棟のリハビリ室にて行われた。リハビリ室はテレビや漫画で見るようなイメージそのままで、広い室内には多くのトレーニングマシンなどが備え付けられている。
まずはバランスボールに両足を乗せながら、床に落ちないギリギリのところまで足を左右に振る動作。次にバランスボールを両足に挟み、療法士が手を挙げたところまで腹筋を使って足でボールを持ち上げる動作。こんな筋トレまがいなことをして大丈夫なのだろうかと半信半疑になりながらも、なんとかやり切る。最後にビニールボールを使ったキャッチボール。顔は相手を見たまま動かさず、目の動きだけで左右に投げられたボールをキャッチする。こちらも卒なく完了。運動不足の私にとっては有難いプログラムであった。
夕食時、看護師同士の世間話に耳を傾けると、どうやら明日隣のベットの患者が退院となるらしい。私はまだまだ入院生活の折り返し地点にも立っていない。来る退院日に思いを馳せつつ、今日も患者のいびきやら呻き声やらナースコールやらを傍耳に眠りについた。