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29歳で脳梗塞になった話 ┈┈ 第2回

7月17日(月)─ 1

 目が覚めると時計の針は昼の12時近くを回っていた。昨日から続く頭痛はよくなるどころか、寧ろ酷くなっているようにも感じる。

 ずっと寝っぱなしだと余計に疲れるだろうと思い、重たい体を引きずるようにベッドから這い出て水分を補給する。昨夜から何も食べていないにも関わらず食欲は湧いてこない。洗面所で顔を見ると、やはり鏡の中の自分は右目がなかった。左右の目でそれぞれ視界を確かめるが、どうやら両目とも中心からやや左、時計で言う55分方向の一部(10円玉サイズくらい)が欠落してしまっているようだ。妻が心配そうに世話を焼いてくれるが、それを気遣う余裕も残ってはいなかった。

 状況が好転しないことを不安に思った私は、医者にかかることにした。今日は国民の祝日で診療している病院は限られている。県の救急センターに問い合わせ、土日祝日に診療している病院を紹介してもらうが、どこも予約でいっぱいらしく、たらい回しの状態が続いた。そんな中、ある病院から気がかりな言葉を聞く。

「脳外科にかかった方がよいかもしれない。」

 熱中症と視野狭窄の症状を伝えたところ、どうも後者に懸念を抱く先生がいらっしゃったようだ。熱中症の診療は内科。まさか脳外科という単語が出てくるとは思いもしなかった。

 引き続き病院を探していると、ついに一件診療を受け付けてくれるところが見つかった。すぐに支度をして妻の運転で現地へ向かう。到着すると早速診察が始まった。

 診断結果は「熱中症」。食欲はないかもしれないが、しっかり口から栄養を取るようにとのことだった。しかし、やはり視野狭窄の症状が気になる私は先生にそのことを伝えると、暫くしてMRI検査をしてくれることになった。

 MRIとは強い磁石と電磁波を利用して、人体の断面を画像表示することのできる検査である。テレビなどで見たことはあったが、実際に体験するのは初めてだ。横になって頭から機械に入る。検査中、頭の周りでは常に轟音が鳴り響いていた。こんなにうるさい検査だったとは知らなんだ。

参考画像(写真ACより)

 検査が終わり待合室に戻ると、暫くして看護師がこちらに駆け寄ってきた。

「あちらのベッドで横になっていてください。」

 ……嫌な予感が脳裏をよぎる。別に結果が何ともなければ待合室の椅子で大人しく座っていれば問題ないはずだ。私は言われるがまま診察室奥のベッドへ横になった。

「てるさん、来ていただいてよかったです。結論からお話しします。“脳梗塞”です。」

 先生から診断結果が下された。聞いたことのある単語。確か結構重い病気だった気がする。熱中症ではないきっと何か深刻な病魔に侵されているという現実を前に、私はただポカンとするばかりだった。

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