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29歳で脳梗塞になった話 ┈┈ 第14回
7月27日(木)
入院していると救急車の音をよく聞く。考えてみれば当然で、急患の搬送先はこの病院なのだ。遠くから迫るサイレンの音が駅前の交差点を曲がり、やがて当院へ吸い込まれるように消えていく。昼夜を問わず絶えることのない音風景である。
今日は朝から血小板凝集能検査、高気圧酸素治療、ホルター心電図検査用の機械取り付けが行われた。ホルター心電図検査は、携帯用の小型心電計を用いて24時間継続的に心電図を記録する検査である。この心電図の解析を通して、日常生活における拍動に異常(不整脈や狭心症)がないかを調べる。上半身に数本の管と小型心電計がまとめてテープで取り付けられた。誤って管を外してしまうと検査は最初からやり直しになるという。心なしか動きがロボットのようになる。
さて、最近は言語聴覚士による頭を使ったリハビリ課題が行われている。例えば、女性が晴れた日に公園を散歩している絵がある。一見何気ない絵に見えるが、よく見ると女性にだけ影が描かれていない。これは、あるものが欠けた1枚絵を観察し、欠けているものを言い当てるという課題である。従って、この場合は「女性に影がない」が答えとなる。
もう一つ例を挙げよう。横長の長方形が「田」の字型に4つあり、それぞれ四角の中には赤丸が描かれている。左上の四角には左上、右上には右上、左下には左下……そして、右下の四角には唯一何も描かれていない。これは、空白の四角に該当する模様を周りの図形から推理するという課題である。この場合、右下に赤丸の描かれた選択肢が正解となる。いずれの課題も15~20問ほどあり、解き進むにつれて難易度は上がる。
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解答結果はいずれも平均点をクリアしていた。折角なので全問の正答を知りたかったが、再度この問題を解くことになった際、有利になるといけないからという理由で教えてもらえなかった。もうこの問題を解くような状況下に二度と陥りたくはないのだが……。
ところで、理学療法士直伝のストレッチ法を試すも、依然として肩周りがバキバキの私は、看護師から湿布とバスタオルを貰うことにした。ひょっとすると枕の高さが肩こりの原因かもしれないと思い、バスタオルを使って高低を調整することにしたのである。悲しいかな自分が何と闘っているのか分からなくなってくる。この湿布代は治療費に含まれるのかなどと余計なことを考えながら、枕代わりのバスタオルに頭を委ね、湿布を纏い、小型心電計たちを胸に眠りに就いた。