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29歳で脳梗塞になった話 ┈┈ 第4回

7月18日(火)─ 1

 入院初夜の眠りは浅かった。夢現だが数時間に一度は目が覚めていたことを覚えている。起きると見慣れない病室の天井が目に入った。昨夕から自分が脳梗塞で入院していたことを思い出す。

 SCUはナースステーション直結の病室である。それを囲うようにぐるりと廊下が一周し、さらにその外側に一般の病室や面会室などが並ぶ。病棟の起床時間は朝6時。時間になると否応なしに病室の蛍光灯が灯される。一夜中続けられた点滴のおかげか、一昨日より感じていた重い頭痛は殆どなくなっていた。

 起床後は採尿と採血、検温、それから幾度となく血圧測定が行われた。恐らくこの日は29年の人生の中で、最も血圧を測定した日に認定できると思う。いずれも数値に問題ないことが分かると、早速この日から言語聴覚士によるリハビリが始まった。まずは飲み物を飲み込む際の喉の動きに問題がないかの確認。これをクリアできないと食事の提供ができないのだそうだ。コップに注がれた常温水をスプーンで3杯すくって飲み、続いてコップから直に少量を飲む。一連の動きに問題ないことが確認されると、この日の昼食から常食(とろみがついていない一般の病院食)が提供されることになった。考えてみれば一昨日の昼食からろくに食事を摂っていない。胃袋の収縮によってぐ~っと腹が鳴る。少なからぬ体調と食欲の回復に気持ちが楽になった。

 この他、相手の掌を手足で押し返す動作、両腕を真上にピンと伸ばす動作、寝転がりながら両手と両足を真上にぶらぶらとさせる動作、ベットから立ち上がって直立する動作、そのまま目を瞑る動作、直立したまま後ろを振り返る動作など、様々な確認を行った。いずれも問題はなさそうだ。

 リハビリは20分、40分、60分のプログラムがあり、その中で理学療法、作業療法、言語療法のいずれかが行われる。今回実施したのは基本動作能力(座る、立つ、歩く)の回復や維持、障害の悪化を予防するために行われる理学療法の一つだったようだ。

 リハビリが終わると昼食が持ってこられた。メニューは、ごはん200g、サバの味噌煮、カリフラワーとにんじんの漬物、チリコンカーン、牛乳。懐かしき小学校の給食を彷彿とさせるラインナップだ。病院食は不味いという話を聞いたことがあったが、口にしたものはいずれも美味だった。普段食べているものに比べて薄味だったが、それも特段気にならない。

 午後は夕方の治療まで自由時間。というより、基本的に入院中はリハビリと治療の時間以外は全て自由時間である。しかし、狭い病室に大して娯楽はない。テレビを観るか、スマートフォンをいじるか、本を読むかの3択くらいだろうか。そのテレビも一部のベッドを除いて、1,000分視聴可能な1枚1,000円のテレビカードを買うほか視聴する方法はないのである。

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