坂崎プリ男の明日のために-その1-
-夏の30日目-
我が友、ダイスケ'トム'ロペスの言葉を信じるならば、僕が目覚めたのは確かに『その日』であった。
『こちらの世界』においては四季はおよそ120日で一巡するらしい。
だから、僕が目覚めたのはまさしく夏の終わりだった。
-10時30分-
学校の教室ほどの広さの部屋、
それが僕が目覚めた「ウェストン市避難センター」であった。
その固い木製のベンチの上で僕は眠っていたようだ。
男「やぁ、気分はどうだい」
そう言って一人の男が飲料水の入ったペットボトルを差し出してきた。
僕は見慣れぬ部屋で目覚め、見慣れぬ男に話しかけられて、激しく混乱した。
しかし、同時に喉が激しく乾いていた。
着ていた部屋着は、汗でずぶ濡れになっていた。
気づくと僕は無警戒にもその水を必死で喉に送っていた。
喉を潤すと僕はまた無警戒にもその男に正直に打ち明けた。
僕「悪いが、記憶がないんだ。
僕が誰でここが何処か、そして君が誰なのか、なにもかも全く思い出せない」
男は驚く様子もなく静かに微笑んでこう返した。
男「俺の名前は『ダイスケ'トム'ロペス』。
そしてここはウェストン市に近い雑木林にある避難シェルターだ。つまり俺たちは避難している。」
ダイスケ「君のことはよくわからないが、君の名前はおそらく坂崎プリ男というはずだ。
そして...おそらく君は元々は『こちらの世界』の人間ではない。」
---僕の名前は坂崎プリ男。
---そしてこちらの世界の人間ではない...?
僕は男(ダイスケと言ったか?)の言っていることをまるで飲み込めなかった。
ただただ夢見心地で彼が続ける言葉を聞いていた。
ダイスケ「申し訳ないが君の持っていた電子デバイスを見せてもらった。スマートフォンって言うんだろ?
...奇妙なことだがこちらの世界にも全く同じものがある、スマートフォン。」
ダイスケ「そう、君のスマートフォンを見せてもらった。主にメールやメッセージアプリの履歴をね。それでわかったことは君の名前が『坂崎プリ男』であること。
そして『君が元いた世界』と『こちらの世界』はさほど変わらないということだ」
ダイスケ「しかし二つだけ大きな違いがある。1つは一年の長さだ。君の世界では一年はおよそ350日とか360日とか、そのぐらいなんだろう。
こちらの一年は120日だ。春も夏も秋も冬も30日で移り変わるんだ。今は夏の30日目でちょうど夏の終わりだ。」
ダイスケ「そしてもうひとつの大きな違いは、
・・・この世界には我々人類よりも繁栄した、『人類の脅威となる種族』がいるということだ。」
ダイスケ「それこそが俺たちがここにいる理由だ。避難シェルター。
俺たちは人類を脅かす『地底の民』から逃れるためにこの避難シェルターを作ったのだ。
そして5日前に俺が住んでいたウェスタン市は襲撃を受けた。だから避難シェルターに逃げてきたってわけだ。」
地底の民
---そのような脅威から逃げ延びて生きているのがこの世界の人類。
ダイスケの口からは反芻しようとしても反芻しきれない言葉ばかりが飛び出してくる。
彼は僕をからかっているのだろうか。
しかし今日が夏の終わりであることだけはどうやら事実であるらしい。
うだるような暑さのなかで、どことなく生ぬるい、背筋をなめるような風が吹いていた。
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