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Igari Igari Igari

8/31(土)、台風さんさんが関西に上陸するという日に、
私の好きなバンドのtacicaは公演を決行した。

前日に発表があった際、ファンは阿鼻叫喚だった。
「名古屋から大阪っていけるのか」
「東京からだと確実にむりだから、上越新幹線…いや空路か?」
「九州だから無理だーーーーー!」
とTwitterのタイムラインは大荒れだった。

みんな決行するかどうかの発表を待っていたが、
内心「延期の発表を心待ちにしていた」のだ。

私もそうだ。
今は大阪に住んでいるが、地元名古屋に帰る口実として、
tacicaのライブはいつも名古屋は外さない。
大阪公演には行かず、名古屋公演ばかり行っている。
だから新幹線が止まる、高速道路が規制されるなどという事態は、
私にとってもかなり困るのだ。

しかし天気の状況をどれだけ追っても、
どうしようもなく公共交通機関が止まりそうなので、
渋々大阪公演のチケットを手に入れ、名古屋公演は諦めた。

「なんで決行するんだ。
キャンセル料がそんなに痛いのか。」と
何度も胸の内でtacicaをなじった。
そんなことで決行するようなバンドじゃないのに。
それでも他に理由が思いつかなくて、なじった。

そんな最悪な心境でも行くことを選んだのには理由がある。
今回はアルバム再現ライブで、HOMELAND 11 bluesという
10年前に発売されたアルバムを曲順通りに再現するライブだった。
私はtacicaのアルバムの中でこのアルバムが1番好きだった。
特にFrom the Gekkoという曲が大好きだった。
この曲が聴けることが決まっているライブを
見に行かないなんて選択を私はできなかった。

梅田シャングリラで自分の番号が呼ばれ入場した。
しかし、私よりも背丈が20~50cmくらい大きな人達が
前方3列を埋めていたから、初めて段差のある中ほどを選んだ。

LINEで名古屋公演に参加する友人に
整理番号が良くないこと、それに伴って見る位置も悪いことの
愚痴を盛大にこぼした。
友人は「うんうん」と聞いてくれた。

入場から30分後、定刻通りにライブが始まった。
やはり憧れの人たちが目の前にいる光景は毎月見ようが嬉しい。

1音目が鳴った瞬間に、ライブを延期せずに決行した理由が分かった。
これは確かに延期ができない…。

ボーカルの猪狩翔一のコンディションが抜群すぎる。
殺気すら感じるほどに、猪狩が「ノッている」。
猪狩の発した声が耳から入り、脳を掴んで離さない。
普段、猪狩以外のメンバーも視界に入れる余裕が
十分にあるのに、今日は猪狩から目が離せない。

大好きな曲たちが、
生き急ぐように力強く掻き鳴らされる。

猪狩にとってもこのアルバムは思い入れの強い作品だ。
その思いを叫ぶかのように会場に猪狩の声が、音が響き渡る。
ベースやドラムも鳴っている。
小西さんも中畑さんも調子は悪くないはずなのに、
調子が良すぎる猪狩を前に2人の音も存在も入ってこない。

普段ライブ中に自分の人生を振り返る余裕すらあるのに、
今日この調子を上げすぎた猪狩の前では
猪狩の一挙手一投足を見逃さないよう見張り続けることで精一杯だ。

「頼む、頼むから休憩をくれ。
MCを入れてくれ。」
と胸の内で祈った思いはついぞ叶わず、
11曲を休憩なしで演奏しきった。

1曲1曲への感想など持てなかった。
そんな余裕はなかった。
11曲すべてでHOMELAND 11 bluesだった。
「素晴らしい」の一言に尽きる。

MCを挟んで、もう1枚のアルバムjibunの再現ライブが始まった。
ライブに集中できなかった。

さきほどのHOMELAND 11 bluesと比較して、
猪狩にも大分余裕ができて、楽しんでいるように見えた。
でもそんな中私の頭の中は「今日このまま名古屋へ出よう」という
思いでいっぱいだった。






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