緑のAF1
会ったことがある人は見覚えがあるかもしれないが、僕は黒のニューバランスか、緑のAF1を履いている。最近はもっぱらAF1だ
ソールとロゴ、靴紐が鮮やかな緑色のAF1は、21歳の誕生日に地元の親友が贈ってくれたものだ
21歳を迎えた2023年は僕の人生にとって大きな節目だった
この年に僕の本格的なゲイライフが始まった
SNSや二丁目といったゲイコミュニティに参入した僕は様々な文化に触れ、その新鮮さに目を見張っていた
特に興味を持ったのはファッションについてだ。どうやらゲイにはゲイらしい容姿服装の共通認識があるらしい
白Tに短パンとか、短髪のフェードカットにして上髪をフッと立ち上げる髪型とか
ノースフェイスのヒューズボックスがホモランドセル、略してホモランと呼ばれていることは流石に笑った
NIKEのAF1もその1つだ、ゲイシーンで見かけるゲイたちはよくAF1を履いている
AF1、いいなぁ
分厚いソール、重量感のあるシルエット、革張りの無骨さがありながらNIKEのスポーティーさも持ち合わせている。靴紐にはAF1の刻印がされたメタルのチャーム
純粋にAF1に惹かれた
そんな矢先、地元の親友からメッセージが届いた
「誕プレ送ったから受け取れよ」
遠く地元に残してきた親友は9月が誕生日で、僕の誕生日は11月。去年は誕生日の送り合いをしたけど、今年はやってない。それなのに律儀な奴だな。なんて思っていた
翌朝届いたのは一抱えはある大きさの段ボール。開けると中には件のAF1が入っていた。ソールとロゴ、靴紐が鮮やかな緑色。そういえばこいつ、お前はなんか緑色のイメージ、なんて言ってたっけな
靴を下すのは朝がいい。朝方が一番自分本来の足型に近いからだ
ボックスからAF1を取り出して、中に入っている型紙を取り出す。玄関で靴箱を解いて履いてみる。ジャストフィットだ。キュッと靴紐を結ぶ
家の近くに遊水路があるので散歩した。綺麗な秋晴れだ
履いたことがある人は分かるだろうが、AF1は割と重い。それまで軽い靴しか履いたことが無かったのでその重さに驚いた
歩くとコトコトと足音が聞こえる。足音も、その重さから伝わってくる地面を踏みしめる感覚も、心地が良い
その日からAF1は僕の相棒になった。特にゲイシーンに繰り出す時に
ちょっと流行に乗れた感がした
さながら新しい制服に袖を通した新入生だ
AF1とたくさんの場所に行った。クラブにも行ったし、バーにも行ったし、緊張する初リアルの時も欠かさず履いた
出勤するときも、決まってAF1だ
ゲイコミュニティや、そこに蔓延るルッキズムに直面して食らっちゃった時
足元の緑を見ると、少し落ち着く
この靴に随分と助けられた
昨日山手線でふと足元を見ると、相棒に随分と汚れが目立つようになっていた
そろそろ洗ってあげなきゃな
悪い男にたぶらかされてげんなりしたり、良い感じの男からなかなか返信が返ってこなくてやきもきしたり、ゲイコミュニティにもまれて自分が誰だかよくわかんなくなった時
AF1から聞こえる足音と、足元から伝わる地面を踏みしめる感覚が、今自分がきちんと前に進んでいることを教えてくれる