メンタルが弱いのでナイフで刺してしまうときもあるのだ
僕はメンタルがとても弱い。すれ違った人と一瞬ぶつかりそうになるだけで、ああ、僕は世界にとって邪魔な存在なのだなと落ち込んでしまう。冗談じゃなく。なので仕事で咎められようものならその落胆ぶりったるやない。その日一日は死んだ目で過ごし「恐いからチンピラみたいな表情で職場にいないでくれ」と同僚から激励の言葉をもらう。生きているのが恥ずかしくなって仕事も人生も何もかもやめたくなる。そんな日がここ何日も続いていてつらかった。
雇われ根性からの反発で芽生えた意識高い系をとうの昔に消費して、達観して臨んでいたはずの人生第3期。僕は10代の頃に出会った滝本竜彦ばりのこじらせ人生に突入していた。
精神薬と酒をごたまぜにしてそれをステータスと感じつつもSNSでは知識人の振りをするか誰も幸せにならない悪態をつく始末。破滅願望をひけらかしながら誰かがそれを容認して助けてくれると内心期待する弱さ情けなさ。そして直面する、本当に僕のことを心配してくれる友人なんていない事実に。それすら自意識過剰なのかもしれない。しかしどうしてくれよう、もう僕も引き返せない所まで来てしまった。いっそ知能指数が低ければよかったものを、僕が客観的に脳の回転が早いなんて、無駄な自信を与えてくれたなと悪態づいて3年経つ。規定ではまた知能指数の再測定ができる時期になってきたが、そんなことをしてもなんの意味もないだなんて3年も要らずにわかってた。
自慢でも嫌味でもない。僕はアンバランスに生まれアンバランスに育ち、拍手喝采オールスタンディングオベーション、少しずつだけど確実に、まあまた見事にレールを外れ歪んだ性癖と価値観を習得してしまった。何者にもなれず、オンリーワンの価値も解らず、中途半端な存在として日本に放り出されてしまった迷える羊の末尾を担うことになったのだった。
僕はメンタルが弱い。影響されやすいし突然爆発する。今日も僕の気まぐれなナイフに踊らされた同僚が日本刀でバッサバッサと僕の精神を懇切丁寧に切り刻む。刃渡り15cmのサバイバルナイフを血まみれの手で握りしめた僕は、震えながら涙目で言うのだ。
「ごめんなさい」
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