自主自立(主体的)な学習環境(流山スタディツアーpart.⑤)
今回は、台湾国立中山大学の学生と、流山市立おおぐろの森中学校に伺ったときの内容になります。だいぶ長文となりましたが、削るなんてとんでもない(笑)と思いまして、ぜひゆっくり読んでいただければと思います。
〇流山市立 おおぐろの森中学校とは?
まず最初に、おおぐろの森中学校について少し触れてみたいと思います。2022年に竣工した新しい学校で、施設面が充実していることはもちろんですが、取り組みがとても素晴らしいので、視察が多い学校としても有名です。
おおぐろの森中学校はすでにこちらに記事がアップされていますね。さすがです!学校のPVも生徒たちが作っているとのこと。挑戦できる環境が整っていると感じます。
・おおぐろの森中学校の特徴
校長先生が特に強調してお話しされたおおぐろの森中学校の特徴は、
①校則がない
②宿題がない
③チョークをほとんど使わない授業
となっています。③のチョークを使わない授業については次の項目の校内ツアーで写真を見ていただければと思いますが、①と②の特徴、すごくないですか?
あって当たり前と思っていたものがない。生徒たちは自分たちの学校生活、学習環境をより良いものにするべくアイデアを出し合い、調査をして学校全体に向けて目標を提示しています。そして各委員会や個人が、自分たちができることをしっかり取り組んでいます。これ以上に自立した学習環境はないのではないでしょうか?
開校当初は校則がないことに保護者が心配をして問い合わせがあったそうです。そこを校長先生は、「ぜひ学校を見に来てください!」と迎え入れ、「どうですか?荒れているように見えますか?」と現場を見せることでどんどんそのような声は少なくなっていったそうです。
直接やり取りをして、面と向かって自分たちの取り組みをみてもらうという姿勢は、生徒はしっかり見ていると思います。
校長先生の情熱もそうですが、同じ目標を理解して共有している先生たち、実行している生徒たちもすばらしいですね!
・発信が素晴らしい
WEBページを御覧いただき、校長室のタブを見ると他の学校では見慣れないものがありますね。
・マネジメントポリシー(経営方針)
・グランドデザイン
・一日一言
・お知らせ
とかく更新頻度が低いのが公の組織のWEBページですが、一言でも更新のあるページはいいですね。そして、学校のWEBページとしては見かけることのない、「マネジメントポリシー」と「グランドデザイン」です。
自分たちがどういうビジョンを持っているか、それをどうやって実現していくかという思いが伝わってきますね。
学校という組織、とくに公立の学校は文科省や教育委員会が上(?)に乗っかり、独自色を発揮することへのハードルがとても高いところです。
そのような中、このようにビジョンとミッション、バリューを明確にした上で学校経営に取り組んでおり、その成果が生徒の姿勢・行動にでているのだろうと感じました。
・プロフェッショナルに学ぶ
おおぐろの森中学校では、これまで企業、著名人、民間人、行政連携としてプロフェッショナルを招いています。多くの学校では年間数回あればいいくらいだと思いますが、こちらは月数回。全ての内容を全校生徒に、というわけではありませんが、いかに社会との繋がりを作っていくか、プロに学ぶ場を作っていくかの本気度が伝わってきます。
キャリア教育としても非常に意味のあることですし、さまざまな視点をやしなうことのできる羨ましい環境だな、と感じました。
〇生徒が素晴らしい
今回、生徒からは生徒会活動についてのプレゼンテーションがありました。
資料も日本語と英語のものがあり、また、発表も日本語と英語を使い緊張することなくプレゼンする姿はとても頼もしいものでした。
生徒会が月間の目標を設定するときも、学校の教育目標である「自律」に照らし合わせて、整合性が取れているかを検討するそうです。
アイデア出し、調査、実行、結果アンケートの全てを生徒が主体的に考えて行っています。
不肖私の中学時代はこんなに自分で考え、自分で行動し、効果測定までやったことはありませんでした。
今の若い人たちの多くは色々な情報に触れて賢いなと思う反面、おとなしいなとも思うことがありますが、おおぐろの森中学校の生徒が自分たちで考え、それをしっかり伝えていく姿が特に素晴らしいと感じました。
〇校内ツアー
次に校内ツアーを写真付きで載せていきたいと思います。
校舎は木造3階建てで多様な木材が使用されています。
◯生徒発表
おおぐろの森中学校の取り組みを生徒会がプレゼンテーションをしてくれました。すべては書ききれないので一部になることをご容赦ください。
【あいさつ運動】
目標と実施内容
号令時の声の大きさが課題となっていたこと。
新入生が入学したばかりだったことからこの目標とした。
挨拶で積極的にコミュニケーションをとってほしい。
廊下ですれ違ったとき、号令、給食前などであいさつで意識してほしい
【オオタメモ】
大人からの押し付け目標ではなく、生徒たちがどのような思いで目標を設定しているかは、発表からよく伝わりました。
目標に対する生徒会の活動内容
1週間、毎日20分間の挨拶運動
月の終わりにアンケートを実施
全校に向けて生徒会執行部が作成
アンケートは挨拶に対する意識、現状、達成度
学級委員が行った活動
号令かかりが号令をかけてから着席することを設定
挨拶に感謝や礼儀を込めたい
【オオタメモ】
その他にも自立委員、学習委員、給食委員がそれぞれの役割に応じた取り組みを行っていた。ただ、目標を実行するだけでなく、自分たちの役割に応じて目標との関係性を考えて取り組んでいる姿は本当に素晴らしいですね。
【信号、周りの人への配慮】
問題点の抽出とその思い
おおぐろの森中学校は自転車通学の生徒が多い。
地域の方々に迷惑をかける恐れがある。
生徒会は交通マナーに関する改善の余地があると感じました。
交通ルールを守り、信号をよく見て安全に登校してほしい。
「歩行者優先などで、周りに配慮してほしい」という思いを込めた。
調査活動、実行、効果測定
朝の登校の時間に1週間の間、20分、3地点で調査した。
月の終わりにアンケートの予定している。
1週間に一度、班ごとに話し合う場を設けた。
課題や良かった点を振り返ってもらう活動を行った。
生徒会執行部はアンケート集計のために、teamsでエクセルフォーマットを提供した。
学級委員が話し合いででた内容を記入してもらった。
そのデータにより、生徒会執行部で現状を把握することができた。
自立委員が、交通マナーに関する動画を作成してもらった。
放送委員は、交通マナーについてのクイズをだした。
【オオタメモ】
自分たちの日常生活の中で問題点を把握し、課題を設定して実行する。常に「考える」という癖がついているということと思います。
【学習計画、宿題がないことについて】
【学習計画表の作成】
生徒一人ひとりがテストの2週間前から計画表を作成する。
計画目標には「目標点数」がある。
目標達成のために自ら課題を設定できる。
自分たちで作った目標、計画表なので、課題に対してどう立ち向かうかも意識できる。
予定・学習時間の可視化
部活や塾とのバランスを自分たちで考えることができる
その日その日の小さな目標を設定できる。
学習計画表以外にも、
ex)授業で学んだことを日頃から考え定着させている。
前回のテストを振り返り、4週前から、計画を立てている生徒もいる
【宿題がないことについてどう思っている?】
【メリット】
自分のペースで勉強できる(放課後に自分たちがやりたいことに時間をつかえ有意義に生活ができる)
探究心が向上する
教員の負担が軽減できる(宿題を作る作業、確認作業がなくなることで、クラスの団結力があがる)
習い事に集中できる
【デメリット】
個人差がある(個人の時間の使い方で学習レベルに差が出てしまうこともあるが、それも自分たちの個性と思っている)
怠けてしまう
自主学習時間に差が出る
【理解度について】
理解度は生徒によってさまざま
学習委員がプリント配布
学習が強制されていないためモチベーションがあがりやすい
目標がわかりやすいため、より効率的に学習できている
計画表は先を見通す力を養うため
向上しようとする意識は、自立につながる
【オオタメモ】
現時点で個人でできること、仲間とできることを理解し、できることをしっかり積み上げていっているなと感じました。この子達が大人になったときどんな感じになっているのか非常に楽しみになりますね!
〇Q&A
次に、台湾国立中山大学の学生と、おおぐろの森中学校の生徒たちとの質疑についてです。やり取りは、学生と生徒が主で、通訳も学生側、英語でのやり取りもあり、先生に質問があるときや、補足が必要なところだけ先生が答えるところがありました。
Q1(学生)
生徒会などの活動は、自主的なのか、先生たちのサポートがあるのか?
A1(生徒)
活動などの意見は生徒たちが考えている。外に出すときに、言葉遣いなどの確認を先生たちにお願いしている。
生徒会執行部の中でもいろいろな意見がでる。意思が強い人たちが多いのでぶつかることもある。学校教育目標との整合性を考えている。
Q2 (学生)
生徒会から出した案を生徒たちから反対されることはあるのか?
A2(生徒)
毎月決めている生徒会目標は反対されたことはない。全校生徒での意見交換会があり、その場で改善点を話し合う。
Q3(学生)
生徒が自由にしすぎて負担を感じることはあるか?
A3 (先生)
学校教育目標 生徒たちも中学生なので、善悪の判断、周りへの配慮など自分たちで考えることができる。生徒に責任もってもらうことで自立を促す。
「決まりがないと動けない人間を育成したくない」(前川校長談)
決まりを守らせることにエネルギーを使うことがもったいない。
子どもたちの人格を尊重して、考えさせる。考える力をつけて、世に送り出すことが教職員の使命と考えている。
Q4(生徒)
台湾の学校ではどうですか?校則はありますか?
A4(学生)
・髪型に関する校則は厳しい。爪の長さとかも。
・各家庭の事情によるものをまとめるのにルールが必要と考えられている。
・校則により自分の考えを阻害することへの反発から逆にルールを守らないこともあるのではないか。
Q5(学生)
この学校で一番好きなところはどこ?
A5(生徒)
宿題がないところ:塾に通っている生徒も多く、課題をこなすことで時間がなくなる。
校則がないところが面白そう:ものの考え方とか価値観を知ることができる。人とかかわることが面白い。
Q6(学生)
委員会や部活などのタイムマネジメントはどうしている?
A6(生徒)
生徒会などは昼の15分に行う。部活は朝練がなく、放課後なので被ることはない。また15分で決まらないことはあまりない。
teamsなどのツールを使って時短を図っている。
Q7 (学生)
新しいツールについての長所と短所は? 学ぶ機会はあるのか?
A7(生徒、先生)
デジタル機器を使う長所はオンラインを活用したものであれば家でも学べる、短所は授業中関係のないことをして集中できていないこともある。
社会の授業ではデバイスを使うか紙を使うかを選ぶことができる。
先生の、ICT機器へのアクセスは研修を重ねている。(ほかの学校では数回だが、ここではもっと回数を受けている)。
台湾でも高齢の教師はデバイスの利用を嫌がる人もいる。
Q8(学生)
台湾ではやはり学力、成績重視で、スポーツ偏重のときは学業に振るが、生徒、先生はどう考えているか
A8(先生)
生徒自身の考え方を尊重している。先生と生徒という関係性ではなく、人間と人間として相対している。
teacher ではなく coacher(学びのサポーター)
やらさせるものは身につかない、自らやったものは身につく。
◯まとめ
いかがでしたでしょうか?
このnoteを書きながらも胸に来るものがありますね。
素直にとてもいい学校だと感じました。また、おそらくですが、ただ視察に訪れた以上に感じるものがあったと確信していいます。
もちろん「新しい学校なのでスタートが切りやすかった」と言う人もいると思いますが、世の中に新学校はいくらでもあると思います。
しかし、学校経営をどうしていくか考え、それを伝え、実行していくかは「人」によります。
逆を言えば、ツールの導入は時間はかかるが「人」のマインドセットをアップデートすることはすぐに取り組むことはできます。
これから、おおぐろの森中学校での取り組みを市内全域に広げていくために研修を行っていくそうです。
生徒たちは自分たちのこと、自分たちの周りのこと、将来のことをしっかり自分ごととして考えて活動しています。大人もその姿勢に習って、どんな小さなことでも自分たちのできることを積み上げていきたいですね。