【ハースストーン昔話】エレメンタルシャーマンというデッキのこと(ウンゴロ期)
はじめに
「エレメンタルシャーマン」というデッキをご存じでしょうか。
私はこのデッキが大好きで、2017年4月の実装当初からずっと愛用し続け、スタン落ちして使えなくなるその時までの2年間、ずっと愛し続けた自分にとってとても思い入れのあるデッキです。
それだけでなく、このデッキは自分にいろんなことを教えてくれました。
自分自身で試行錯誤してデッキの完成度を上げていく経験。その過程で意外なカードが採用/不採用となること。そうして積み上げられた理論から、一般の認識は案外間違っていることもあると分かったこと……。
当時からエレメンタルシャーマン(以下エレシャー)についての情報を発信したいという気持ちはあり、主にデッキ紹介で記事を全部で4つ書いた記憶があります(それなりの文量で)。さらにその中の一つは、公式がやっていたコンテストで賞を取ったこともあります。まあ、今見たら大元のサイトがサ終してたんですが……。
何が言いたいかというと、筆者は当時の「エレメンタルシャーマン」を極めた、と言ってもいいんじゃないか、ということです。正直言って、私は誰よりもこのデッキに詳しいし、このデッキを好きな自信があります。
少なくとも当時と同じ形のデッキは既に使えなくなって久しいですが、だからこそ、私が大好きだったこのデッキのことを知れる記事があってもいいと思いました。上記の通り、過去にDEKKIに書いた記事も読めなくなってしまっているわけですしね。
そのため、この記事ではそんなエレシャーの昔話をしていこうと思います。きっと自分にしかできない話が、たくさんある。そう思ったので筆を執りました。
ただ、恐らく全て書くと長くなりすぎると思うので、ひとまずこの記事では実装直後の「ウンゴロ環境」での話に絞っていこうと思います。
1.エレメンタルシャーマンとの出会い
エレメンタルシャーマンとは文字通り「エレメンタル」という種族を使ったシャーマンクラスのデッキです。
このデッキが生まれたのは2017年の4月、「大魔境ウンゴロ」という拡張版でエレメンタルという種族が登場、同時にその種族をサポートするシナジー効果も登場したことで生まれました。もう7年も前のことなのか……。
この「ウンゴロ」パックの中にあった「原始の王カリモス」というカードに、私は心を奪われてしまいました。
とにかく私はこのカードが大好きで、エレシャーをずっと使い続けた理由の半分以上はこのカードにあります。そのためまずは、このカードについての説明をしなければなりません。
お察しの通り、このカードはエレメンタルデッキにおけるエース級のカードで、最高レアリティと高コストに恥じぬユニークな効果を持っていました。
効果は雄叫び(場に出たときに発動)で、前のターンに種族がエレメンタルのカードを使っていた場合「エレメンタルの加護」を使用する、というものです。
「前のターンに~」という条件の方には後で色んな話がありますがそれは一旦置いておくとして、この「エレメンタルの加護」ってのは何だよ、と思うでしょう。
こちらをご覧ください。条件を満たした状態でこのカードを召喚するとこうなります。
この通り、それぞれ異なる効果を持つ「地の加護」「火の加護」「水の加護」「風の加護」の中から一つを選んで使うことができるのです。
これはカリモスが「様々な属性を持つエレメンタル達を束ねる存在」であることを表現していると思われ、カードのイラストからもそのような存在であることがわかります。召喚時のボイスである「よろずのエレメンタルの内なる力にて!」というのも設定に合っています。
因みに「カリモスの下僕」というカードも存在し、こちらを見てもカリモスがそのような「色んな属性を司る」ことを得意としているのがわかります。対して、それ以外のエレメンタルには「火」「水」「風」など、単一の属性のみを持つカードしか存在しませんでした(少なくとも当時の時点で)。
どうやら私は、この「様々な属性を同時に操る」というのがとてつもなく好きなようで、カリモスというカードはそのビジュアルから効果に至るまで、自分の好みど真ん中だったわけです。
この好みに関してはちょっと説明が難しいので詳しくは言いませんが、他コンテンツで言うと東方の火水木金土符「賢者の石」とか、遊戯王の四征竜とか、まあそんな感じのです。
ただ、この好みを満たしてくれる存在は意外と稀で、エレシャーというデッキ、ひいてはカリモスというカード以上に自分の好みドンピシャなものは今まで出会えていないかもしれません。
前述の通り、カリモスはエレメンタルデッキにおけるエースとして活躍するのは勿論、エレメンタルという種族でデッキを組むと必然的に「様々な属性を持つエレメンタルをたくさんデッキに入れる」ことになり、自然とデッキ自体がカリモスと同じ「様々な属性を司る」ものになります。
そして当然、そのデッキをまとめ上げるのは「カリモス」自身なわけですから、こんなの自分にとっては涎が出るくらい最高のデッキだったわけです。
「個性的なエレメンタル達を率いるカリモス」という構図は、単なるフレーバー要素で終わることなく、実際にエレシャーというデッキで実現できるデザインになっていたわけですね。素晴らしい……。
(因みにここで言っている「属性」というのは、単にビジュアルや効果で主観的に分類したものであって、ゲーム的にそういう括りが存在するわけではないです)
2.エレシャーというデッキ
さて、「カリモス」単体での話はここまでにして、エレメンタルシャーマンというデッキ全体の話に移りましょう。
手始めに、こちらが実装一か月後の2017年5月にレジェンド(最高ランク)に到達したときのリストです。
これが「ウンゴロ」環境における「エレメンタルシャーマン」というデッキの完成形だと、私は考えています。もちろん後々に1、2枚入れ替わったりもしましたが、逆に言えばそれくらいしか変わる余地がなく、30枚全ての採用理由をしっかり言えるくらいにはデッキリストを詰められたと自負しています。
見てわかる人もいるでしょうが、この「エレメンタルシャーマン」というデッキは比較的遅めのミッドレンジデッキです。カリモスを筆頭に6~8コストに強力なカードが多く、序盤を優秀な挑発(ブロッカー効果)持ちでしのいでから中~終盤にかけて高コストのエレメンタルを連打し、攻め立てることで勝ちを狙うデッキとなります。
……が、正直言ってこの時代のエレシャーは強くないです。というか弱いです。環境入りしていないのは当然として、使っていてもパワー不足を感じることが多かったです。
理由としては「強い2コストのエレメンタルがいない」「決定力がない」「そもそも高コストエレメンタルがパワー不足」など……。このリストの4コスト以上のカードは、現在では1枚を除いて全て上方修正されていると言えば、いかに当時のカードパワーが控えめだったか分かるでしょう。調べてみてびっくりした……。
そんな、お世辞にも強いとは言えない初期のエレシャーで、私は最高ランクであるレジェンド帯にまで到達しました。上記のリストはより構築が固まった5月のものでしたが、実装直後の4月にもレジェンド到達は達成しています。
その過程で、「エレメンタルシャーマン」というデッキについての理論が自分の中で確立されていきました。
しかしその内容は、当時他の人が認識していることや出回っているデッキリストとは少なからず異なるものだったのです。有り体に言えば、周りを見て「エレシャーって、そうじゃないんだけどなぁ」と感じることがとても多かったです。
逆に当時のエレシャーを齧ったことのある人は、上のリストを見て「こんなだったっけ?」と思ったかもしれません。ですが、これが私のたどり着いた完成形です。そう言えるだけの理論も実践も、あの時積み上げました。
それを話していこうと思います。事実上、ここからがこの記事の本題と言ってもいいかもしれません。
3.エレメンタルシナジーの落とし穴
ここまでで、知らない人も既に気づいたかもしれません。知っている人はおなじみですね。
「エレメンタル」種族のシナジーカードには、ある共通のテキストが存在します。
そう、「前のターンに手札からエレメンタルを使用していた場合」という共通の条件が課せられているのです。
さて、ここで一つ、あなたに質問したいと思います。
この条件、一体どれくらい厳しいものだと思いますか?
この効果を安定して発動させるのは、どれくらい難しいと思いますか?
………………
はい、どうでしょうか。
初見の人の大体は「簡単」~「そこまで難しくない」と判断したのではないでしょうか。少なくとも、当時の巷での認識はそんな雰囲気だったと記憶しています。
ですが、これが落とし穴でした。
この条件……長いので「エレシナジー」と呼びますが、これを安定して満たすのはとても難しく、具体的にはデッキの約3分の2(30枚中20枚)をエレメンタルにしないと安定して効果を使うことができないと、経験上分かっています。
この難しさを分かりやすく表現しましょう。
ハースストーンには他に「ドラゴン」という種族も存在します。説明不要ですね。
このドラゴンにも同じような種族シナジーの効果が存在するのですが、その条件がこちらです。
「自分の手札にドラゴンがいる場合」です。これ、エレメンタルと比べてめちゃくちゃ簡単なのがわかりますか?
手札にドラゴンが1枚でもいればいいのです。当然ドラゴンですから、8コスト以上の重たくて強いカードも存在していましたし、序盤に引いて本来腐ってしまうだけのそれを、お守り的に抱えておくだけでその試合中はずっと条件を満たし続けるということも可能でした。
逆に、中盤以降に引いた低コストのドラゴンは、わざわざ場に出してもあまり強くないのでシナジー用にとっておく、というプレイングも可能です。
当時ドラゴンデッキも触ったことがありますが、そちらではドラゴンの枚数は8~10枚くらいで安定したと記憶しています。
対してエレメンタルはどうでしょうか。
「前のターンに手札からエレメンタルを使用していた場合」です。まず当然、手札に持っているだけではダメで、コストを支払ってカードをプレイする必要があります。その性質上、あるエレシナジーカードを最速で(効果を起動させて)使うにはそれよりコストの低いエレメンタルを引き当てたうえで前のターンに使わなければなりません。
そこまでして、シナジーが起動するのは1ターンの間だけです。次のターンもシナジーカードを使いたいなら、そのターンのうちにまたエレメンタルを使わなければなりません。当然、使ったカードは手札からなくなるものですから、いつでも安定してエレメンタルシナジーを使いたいなら、毎ターンのようにエレメンタルを「手札に引き込み」「手札からコストを払って使う」しかありません。
ドラゴンの場合は理論上1枚だけでもずっとシナジーの起動が可能なのに対して、エレメンタル1枚で起動できるシナジーはわずか1ターン分(基本的には1枚)のみです。
……もうお分かりですね? この条件を常に満たすには必然的に「デッキからドローするカード」も「手札からプレイするカード」も、ほとんどがエレメンタルになります。30枚中20枚をエレメンタルにしないといけないと言った意味も分かってもらえると思います。
手札に引かなくてはいけないだけでなく、引いていても使うコストが足りなければ意味ないので、エレメンタルでないカードはデッキに入れづらい上に引いても使いづらいことになります。そちらにマナを使った上で、さらにエレメンタルを出すマナも確保しなければならないからです。そのため「エレメンタルではない高コストのカード」をデッキに入れるのは、エレシャーにとってかなり絶望的です。
デッキのほとんどが関連カードで埋め尽くされるというのは存外に重い枷です。特に遊戯王をやっている人なんかは「汎用的な強カードを積むスペースがない」ことの辛さがよくわかるかと思います。
さらに当然「エレメンタル」というのはミニオン(モンスター)カードが持つ種族のことですから、呪文カードや武器カードといった、他の種類となるカードは無条件で「エレメンタル以外のカード」に分類されることになります。
つまり、それら全てを含めて10枚程度しかデッキに入れられないのです。それ以外は全てエレメンタルの中からカードを選ぶしかありません。
それでエレメンタルが強いカードばかりならまだよかったのですが、少なくとも初期の段階ではパワー不足と言わざるを得ず、特に序盤の命とも言える2コストのカードに強いエレメンタルがおらず、安定性が落ちるのを承知で汎用カードに頼るしかなかったのはかなりの痛手と言えます。
ここまで読んだ人の中には「別に毎ターン条件を満たす必要はないじゃん。必要な時にだけ条件を満たしに行く方針にして、シナジーカードも特にパワーの高いもののみに絞れば採用枚数も減らせるのでは?」と考えた人もいるかと思います。
実際この考え方はごもっともで、開発によればエレメンタルシナジーは「次のターンの状況を予測して、エレメンタルを使うか使わないか決める」というプレイをして欲しくてこのような効果にしたと語っていました。深く考えずとも毎ターン自然と条件を満たす構築にするのではなく、ちゃんと考えながらプレイしてほしいということですね。
しかし残念ながらそのデザインは失敗していると言わざるを得ません。そもそもが毎ターン限られたマナや手札の中から選択するのに、その上で「エレメンタルを使うか使わないか」まで選択肢が潤沢に用意されている状況は稀です。
それに、例えば3ターン目に3コストのエレメンタルとエレメンタルでないカードが両方手札にある状況の場合「エレメンタルを使うかどうか」の選択肢が用意されていると言えますが、それってそもそも良い手札とは言えないですよね。使わなかった方の3コストのカードは4ターン目以降に使うしかないですが、それなら4コスト以上のカードを引いていた方が嬉しいはずです。良いとは言えない手札であることを前提とした上記の考え方は、根本的になにか間違っている気がしてなりません。
……或いは、両方エレメンタルなら迷う余地もありませんね。どちらを使っても4ターン目のエレシナジーを起動させることができます。
また、エレシナジーのカードはほとんどが盤面を強く取りに行くことができるデザインになっており、つまり特別な事情がなければ最速で出すのが一番強いです。ならエレメンタルの枚数を増やして確実に発動できるようにした方が良いのは当然でしょう。
また、シナジーカードの採用枚数を絞る(所謂「出張採用」のような形)構築ですが、これも難しいです。
一応、カリモスやもう一種類くらいのシナジーカードの採用にとどめて、あとは「ファイアフライ」などの起動役に適したエレメンタルを少数採用するのみにすれば、構築自体は可能です。
しかし、ここで問題になるのがそれぞれのカードパワーで、何度か言ってますがエレシナジーのカードって別にそんなに強くないんですよ。わざわざ別のデッキにお邪魔して、不完全なまま戦おうとしても力不足で邪魔なだけです。
「ブレイズコーラー」「ストーン・センチネル」といった主力カードも、(シナジーが必ず発動するという前提でも)はっきり言って「普通よりちょっと強い」程度のカードでしかなく、厳しすぎる条件と釣り合っていません。
切り札の「原始の王カリモス」も、これ1枚で勝てるようなパワーはなく、4つから選べる加護のどれもが絶妙に何か足りません。6点バーンや3点AoEはそれだけだと敵を倒しきれないことが多く、12点回復は「盤面取られてるのに回復だけしても……」となります。1/1のトークン召喚にいたっては正直弱すぎて使わないです(せめて2/2、欲を言えば3/3くらいあれば……)。
そんな調子なので、カリモスがエレシャーのエースであることは間違いないんですが、この時代での実情は決して強カードとは言えないものでした。もっと効果量が増えるか、もう一つ効果を選べたらなあ……と思わせる性能でしたね(何が言いたいか、分かる人には分かりますね?)。
平たく言えば「そこまでするほど強くない」んです、エレメンタルは。必死に頑張って条件を満たしても、その労力に見合うだけの強さがない。
それなら、少数採用するよりもとにかくエレメンタルの数を増やして「実質無条件で発動可能」にした方が良い。そうすればデッキのエレシナジーカード全てが「純粋にちょっと強いカード」になり、個々のカードが持っているパワーを最大限発揮することが可能です。
幸い、エレシナジーのカードはほとんどが自身もエレメンタルであり、そうでないのはデッキに入っている中だと「トルヴィアのストーンシェイパー」くらいのものです。特に6ターン目「ファイア・エレメンタル」→7ターン目「ブレイズコーラー」or「ストーン・センチネル」→8ターン目「原始の王カリモス」の流れはエレシャーの代名詞とも言える動きですね。実装前はこの動きが最強だのぶっ壊れだの言われてました。まあ実際はそこまで強くないんですが……。
ともあれ、そのようにエレシナジーのカードが自身もエレメンタルであることが多いため、上記の流れのようにシナジーが連鎖することが起こります。
ならデッキの大部分をエレメンタルにして、常にエレメンタルを出し続けられるようにするのが良いんじゃないかと気づいたわけです。
実際、この考え方が正解なのは後年のエレメンタルカードを見ると明らかで、現在では「エレメンタルを手札から使用した連続ターン数」によって強化されるカードが存在しています。
これはつまり、前述の「次のターンの状況を予測して、エレメンタルを使うか使わないか決める」という考え方によるデザインが失敗だったと開発側が認めたも同然です。
その上で「エレシナジーの難しさをしっかり理解した新規カードを出してくれた」のはうれしい限りですが、このカードの存在が「エレシナジーというものが当初のデザイン通りには機能していなかった」ことの証明になってしまっているのはなんだか悲しかったです。
当時のエレシナジーのカードがパワー不足なのも、開発側がエレシナジー条件の難しさを認識できていなかったからなのではないかと思います。デッキの3分の2をエレメンタルで埋めなければならないほどに厳しい条件だと気づいていれば、もう少し強い効果を与えられていたはずです。
話を戻しますが、そんなわけで初めの方に載せたデッキが完成しました。
あのリストにはエレメンタルが19枚入っています。正直もう1枚くらい増やしたいですが、この時代のカードプールではこれが限界でした。
元々のカードパワーが控えめなのでデッキとしてはあまり強くないですが、カリモスをはじめとした「エレシナジーのカードをうまく使う」デッキ、つまりは「エレメンタルシャーマン」としての正解はこれなんじゃないか、と当時の私は思い至ったわけです。
これが、ウンゴロ環境で2ヶ月連続レジェンド到達を達成し、その過程でたどり着いた、エレメンタルシャーマンというデッキに対する回答であり、ある種の結論でした。
何食わぬ顔でしれっと書いてある「前のターンに手札からエレメンタルを使用していた場合」という条件は、実はデッキ構築を大きく制限するとても気難しいテキストだったのです。
4.「そうじゃないのに」と思い続けた日々
ここまで読んでくださった方には、エレシャー・エレシナジーというものがどういうものか、どう使うのが理にかなっているのか理解してもらえていると思います。
それでなくとも、上記のような後年のエレメンタルカードを知っている人は「エレメンタルだらけにするのなんて当然では?」と思ったかもしれません。
現在のスタンダードでもどうやらエレシャーは存在するようで、そちらは見たところほとんどエレメンタルカードで埋まっています。強いエレメンタルの枚数自体も増え、前述の「手札から使用した連続ターン数に応じて強化」というカード群の存在もあり、ここまでで話したことは、現在の感覚からすると「何を当たり前のことを」と思われることなのかもしれません。
ですが、当時は違ったんです。
「開発側も当時はエレシナジーの難しさを認識していなかった」と言ったように、少なくともウンゴロ環境において、この難しさや厳しさを認識している人間が自分以外にどれほどいたのか疑問です。
それを象徴するようなカード群として、ウンゴロより一つ前のパック「仁義なきガジェッツァン」で実装された「翡翠」系のカードがあります。
この「翡翠のゴーレムを召喚する」という効果は複数のカードが持っており、最初召喚する翡翠のゴーレムは1/1ですが、同じ効果を使うたびに召喚するゴーレムが2/2、3/3……とどんどん強化されていく、というものです。
なぜいきなりエレメンタルと関係ないカードの話をしたかというと、ウンゴロ環境ではこの「翡翠」カードを採用したエレシャーが少なからず見られたからです。
確かにこの時の「翡翠」カードたちは単体のスペックが高く優秀でした。
シンプルに盤面を取る能力が高く、翡翠のゴーレムというトークンを召喚する能力も持っているために頭数を並べて攻撃するアグロ寄りなデッキでよく採用されていました。
特に、ウンゴロ環境ではそれらを採用した「進化シャーマン」という完成度の高く強いデッキが存在しましたし、それより前の環境でも海賊を絡めたアグロ・ミッドレンジのシャーマンで頻繁に「翡翠」カードが使われていました。
そのため、当時のシャーマンデッキには「翡翠の爪」「翡翠の稲妻」「アヤ・ブラックポー」の3種セットをとりあえず入れる風潮がありました。
ですがこの記事を読んでいるあなたにはお分かりですね?
エレシャーにそんな不純物を入れている余裕はないんです。
仮によく使われる翡翠3種セットの合計5枚(アヤはレジェンドカードなのでデッキに1枚)を入れると、残り5枚程度しかエレメンタルでないカードを入れられるスペースがありません。さもなくば前述の通り、肝心のエレメンタルが大幅に弱体化し本末転倒の結果となることは避けられないからです。
当時は今と違ってエレメンタルの絶対数も少なく、採用レベルのものとなるとさらに少ない時代でしたから(何度も言っているように2マナ帯に強いのがいない)、「翡翠関係なく採用せざるを得ない非エレメンタルのカード」がそれなりにありました。それらに加えて計5枚の翡翠カードをデッキに入れる、というのは現実的ではありません。
また、単なる枚数の問題だけではありません。
例えば6コストの非エレメンタルである「アヤ・ブラックポー」は、7コストの強力なエレシナジーカードである「ブレイズコーラー」「ストーン・センチネル」と致命的に相性が悪いです。そして、7ターン目にそれらのカードを使えないと、8ターン目の「原始の王カリモス」の起動も不可能になってしまいます。
それだけでなく「翡翠の爪」も、エレシャーに足りない2コストの強いカードに見えてその実相性は悪いです。
このカード、「オーバーロード」という、次のターンのマナを前借りする効果が付いているのです。このカードはオーバーロード(1)なので、これを2ターン目に使った場合、3ターン目に使えるマナは3-1=2となります。
つまり実質2ターン目を繰り返しているわけです。散々2マナが弱いって言ってるのに、何が悲しくて2ターン目を繰り返さなきゃならないんですか??
さらにエレシャーには優秀な3コストエレメンタルである「タール・クリーパー」がいます。「温泉の守護者」も、次いで優秀な3コストエレメンタルでした。
何が悲しくて2ターン目を繰り返さなきゃならないんですか????
さらにさらに、3ターン目にそれらのエレメンタルを使えないと、4コストの強力なエレシナジーカードである「トルヴィアのストーンシェイパー」も使えません。何が悲しくて(ry
唯一、「翡翠の稲妻」だけはそこまで相性が悪いわけではなかったですが、当然相性が良いわけでもなく、翡翠のゴーレムの性質上1種類だけ採用しても強くないので「翡翠カードはエレシャーには不要」というのが私の出した、当時からずっと変わらない結論です。
ですがそのような認識は、当時全然広まっていなかったと記憶しています。
中には「翡翠入れない方が良いかもね」くらいに思っていた人もいるでしょうが、前述したような致命的なまでの相性の悪さ、そして不純物を許さないエレメンタルシナジーの厳しさにまで目が行っていた人はどれくらいいたでしょうか?
今となってはわからないことですが、ほとんど存在しなかったのではないかと思っています。巷に流れているデッキリストで自分のものと似たような形のものは皆無に近かったですし、翡翠カードや他にもエレメンタルと相性の悪いカードが入っているものばかりでした。
ただ、考えてみれば当然でもあります。だってエレシャーは別に強いデッキでも何でもないのです。真面目に研究するのは物好きだけで、競技プレイヤーには見向きもされない立ち位置でした。そんなデッキの最適解が勝手に発掘されて広まるわけがないです。「勝つ」という一点に絞れば、エレシャーというデッキを使うこと自体が既に最適解ではありませんから。その現象自体は理解しているつもりです。
それに自分だって、エレシナジー条件がここまで難しいものであるとは最初思いませんでした。自分ほどの熱意を持っているわけでもない他の人が気づかないのは、当然と言えば当然です。
「翡翠」についても、当時シンプルに強かったカードを採用するのは自然な流れで、むしろ翡翠系カードと悉く相性が悪く、また少しの不純物で回らなくなってしまうエレメンタル側が特殊な例だっただけでしょう。
……でも、でもです。
この通り、私はこのエレメンタルシャーマンというデッキが、本当に本当に大好きなんです。そんな大好きなデッキが勘違いされ続けていることに憤りを覚えるのは、おかしなことでしょうか?
当時の自分はとにかくこのことが悲しくて、何とかしたくて、非力ながら記事を書いたこともありました。
翡翠カードの入ったエレシャーのリストを見るたびにため息が出ましたし、たまにTier表の下の方に「エレメンタルシャーマン」の文字を見つけても「でもこれは自分の思うようなエレシャーじゃないんだろうな……」と悲しくなりました。
また、当初は種族を持たなかった「翡翠の精霊」に、なぜかアップデートでエレメンタル種族が付与されたことがあり、その時にわかに「エレシャーいけるんじゃね?」という声が散見されたのも辛かったです。いけるくないです。
そもそもこの翡翠の精霊は元々進化シャーマンなどの他のデッキにも入っていなかったような弱めのカードですし、当然こいつがエレメンタルになったところで他の翡翠カードとの相性が悪いという事実は変わりません。
一番知ってほしかったのは「エレシャーは本当はもっとやれる」ということです。
散々弱いとは言いましたが、この頃のエレシャーも決して戦えないほどの弱さではないです。実際レジェンドに到達した実績もありますし、その時の勝率は60~65%くらいはありました。一部の環境デッキには必敗レベルでしたが、逆に有利を取れる環境デッキも存在しました。
翡翠や、他の相性悪いカードを入れてパワーの落ちたエレシャーを私は見たくなかったし、それがエレシャーというデッキだと思ってほしくなかったのです。最強デッキだなどと言うつもりは一切ありませんが、それでもみんなが思ってるよりかは強いデッキのはずなのです。
ちらっと言いましたが、事前評価ではカリモス、もといエレシャーは「最強」とか言われてました。カリモスの派手さもあり、実装前のエレメンタルシャーマンというデッキはかなりの注目を集めていたのを覚えています。
これは当時(つまりウンゴロよりも前)のシャーマンが環境トップを取っており、その流れでいかにも強そうなエレメンタル群が実装されると分かったものだから「おいおいまたシャーマン最強じゃねーか」みたいな雰囲気になってしまったのだと思っています。
ですが実際のエレシャーは決して環境レベルのデッキではなく、注目されていたのは実装前と実装後数日間くらいで、強いデッキではないことがわかると当初の注目が嘘のようにみんな離れていったのがわかりました。
まあ対人ゲームというのはそういうもので、強いデッキはそれだけで人が集まり、その逆も然りというのは勿論理解しています。
ですが最初に「カリモス」を見た時から「強くても弱くても絶対に使う!」と決心していた自分にとって、その流れはどうしても薄情に思えてなりませんでした。何より事前評価通り強かったのなら、もっと研究が進んでこの記事に書いたような正しい認識が広まっていたのかなと思うと、悔しくてたまりません。
好きなデッキが環境入りするかどうかは自分にとってはあまり重要ではないですが、環境レベルでなかったことによって研究が進まず、またしっかり研究しないと分からないような難しさや厄介さをエレシャーが持っていたのが問題でした。
カリモスを始めとした大好きなエレメンタル達が、その本来の力や輝き方を認識されずにいることは、自分にとってとても悲しく、悔しいものでした。
自分にとってのウンゴロ環境、そしてその時期におけるエレシャーの思い出とは、そんな苦しい日々と切っても切れない関係にあったのです。
5.エレシャーが与えてくれたもの
ただ勿論、悪い思い出ばかりではありません。
そもそも、ここまで好きになれるデッキに出会えること自体が幸運ですし、研究が進んでいないということは、自分で全部研究できたということです。
どのカードゲームも環境が固まるのがあまりにも早い昨今、強い環境デッキは一部の上位プレイヤーが数日~一週間で結論を出してしまいます。「一つのデッキを自分の力で極める」なんて経験、環境外のデッキでしかできません。エレシャーはそんな、貴重な経験を自分にくれました。
また、自分で考えたことを記事にしたのもエレシャーが初めてでした。当時は「どうして分かってもらえないんだ」というネガティブな気持ちを抑えきれず始めたものでしたが、きっかけはどうあれその経験は今につながっています。あの時記事を書かなかったら、きっと今こうやって再びエレシャーの話をすることもなかったでしょう。
その時の記事も、それなりですが反響はありました。正直言って当時は余裕がなくてあまり手ごたえを感じていませんでしたが、今振り返ると自分のやってきたことも少しは意味があったのかなと思えます。
大きなものではないとはいえ、公式のデッキコンテストで賞を取ったのも、自分の中の小さな成功体験になりました。
そんな風に、自分にとって多くのものをもたらしてくれたのがエレシャーというデッキです。そこには単なる「昔好きだったデッキ」では到底収まらない思い出や確立した理論、伝わらなかった感情の数々が詰まっているのです。
今後どんなに好きなデッキができたり、またカードゲーム以外で好きなものができたとしても、自分の中でエレシャーというものの特別さが薄れることはありません。
もはや自分の人生の一部として、楽しい思い出も苦しい思い出も全てひっくるめて、大切なのです。
おわりに&その後のエレシャー
だからこそ、そんなエレシャーというデッキのことを、知ってほしいと思いました。
それは自分が確立した理論もそうですが、純粋に「あの時エレシャーというデッキがあったこと」自体を、です。
エレシャーは特別強いデッキではありません。ド派手なワンターン(ワンショット)キルのようなコンボがあるわけでもありません。既に使えなくなって久しいそんなデッキのことを語り継いでくれる人なんて、きっといません。
この記事を書いたのは、そういう理由からです。
大したことじゃなくていい。これを読んだあなたが「こんなデッキがあったんだな」「初期のエレシャーってこうだったんだ」って思ってくれたら、それだけでうれしいです。
自分の大好きなデッキが、誰かの心に残る。それは幸せなことです。
幸いにも、あの時自分が最も伝えたかった「エレシャーはエレメンタルだらけにしないと回らない」ということは、現在では十分認識されているように思います。
何より、後年のカードの性能からわかるように「開発側もそれを理解してくれた」のが大きいです。もはや自分が必死になって訴える必要はないんですね、嬉しい限りです。
ようやく時代が追い付いたってことなのかもしれない……。
さて、今回の記事はこの辺りで終わろうと思いますが、この話にはまだ続きがあります。
ここで語ったのはウンゴロ環境の話だけですし、そのウンゴロ環境でのデッキに関してもまだまだ話せる話があります。マッチアップとか色んな採用・不採用カードの話とか。
「始祖ドレイク」対策に「フローズン・クラッシャー」を入れてた話とか結構好きなんですが……まあ詳しく話すのは一旦やめておきましょう。要望があれば考えなくもないですが……。
ただ、これより後(1年後)の環境でのエレシャーの話はしようかと思っています。次の記事がそれになるかはわかりませんが、そう遠くないうちに書くつもりです。
デッキの完成度やパワーを加味すると、実は自分がより好きなのはそっちのエレシャーです。そんな「もう一つの大好きなエレシャー」の話を、いつかまたしようと思います。
それでは、今回はこの辺りで。
長い記事でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございました!
私の愛したエレシャーというデッキを知ってくれる人が、少しでも増えれば幸いです。