病気と付き合う生活スタイル
訪問看護を卒業したAさんは、80代の女性です。
生まれも育ちも、結婚してから、子育てを終えてからも都会で過ごして、ご主人が亡くなり一人暮らしをしていたそうです。
息子さん家族が、一人でいることを心配して、息子さんの家で生活することになりました。
大動脈瘤解離という病気で治療を終えて、在宅療養を始めることになりました。
Aさんのお話ですと、台所に倒れているところを、帰宅した大学生のお孫さんが見つけて、救急車を呼んだそうです。
Aさんは倒れた前後の記憶はありません。
一人でいたら、どうなっていたかわかりません。
息子さんたちが考えた同居のタイミングが、Aさんの命を救いました。
救急搬送された総合病院から、より専門的な治療が可能な大学病院へすぐ運ばれたそうです。
その際に、救急車に同乗した総合病院の医師が、大学病院の治療後に担当医となったそうで
「いい先生よ。救急車の時のことは覚えてないけどね。たくさんの人に救われたのよ」とAさんは言います。
その話し方や身振り手振りが、私の勝手なイメージですが、都会的な印象です。きれいな色の服を着ていて、はきはき物を言う素敵な女性です。
訪問看護を依頼したのはケアマネさんで「説明ができる専門職の訪問を希望している方です」と私たちに紹介されました。
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看護師は体調管理のために、血圧や脈拍、動脈血酸素飽和度など数値でわかる異常の判断や、生活の注意点を伝えました。
Aさんは塩分や水分に注意した食事を摂っています。入院治療中に体重は減っていて、食事の量が増えないので、高カロリー飲料を勧めて補食するようにしました。
Aさんは、何となく力が出ないことと、体の痛みがあって横になっている時間が多いことを気にしていました。
そこは療法士が現在の運動能力を判断して、目標を決めて関わりました。
背骨が曲がっていて、姿勢が崩れて、体に負担がかかっていたことがわかり、どんな運動を、どのくらいするかがわかりました。
Aさん、ケアマネ、私たち看護師も、餅は餅屋だと納得しました。
入院中は、病気別に生活の指導がされますが、家に帰った時に、教えられた通りに食事や運動をしたくても、関わる人は医療の専門職から家族になり、いる場所が環境が整った病院から家になると、なかなか指導通りにはいかないのは仕方ないのではないでしょうか。
だんだん基本からかけ離れてくると、再発という結果がすぐにやってきてしまいます。
残念なことにならないために、その方の好む生活スタイルに合わせた細かい変更は、やはり専門家の知恵を使って欲しいのです。
それを可能にするのは訪問看護の利用だと思います。
Aさんも頭では、どのような生活をすればいいのか十分わかっていましたが、体が言うことを聞かない状態だったのだと思います。
約半年の訪問看護を利用して、入院中に知ったことを、どうアレンジしたらいいのか看護師や療法士と一緒に考えて、彼女が思う生活ができる自身がついたようです。
介護保険の更新を機に「そろそろ、卒業するわ。私ばっかり介護保険を使ったら悪いから」と訪問看護を卒業しました。
表も裏もなく話す正直な彼女らしい言い方です。
ゴールは、完治ではありません。
病気を受け入れて、付き合い方を見つけてくださいました。
卒業してくれる方との出逢いもありがたいく思います。