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ノケモノの地下城 32【長編小説】

河部組ビルの三階会議室。モニターを通して、篠崎家の五人の老人と河部敏枝《かわべとしえ》は対面していた。
「困るわねぇ。こんな揉め事起こしてもらっちゃあ」
開口一番、文句からだ。
「まあまあ」
「まあまあ、じゃないよ。水とあの地図はセットじゃなきゃ使えないんだろうよ。どうなってんだい」
「河部の婆様、心配は無用です」
「何が心配無用だい。お前たちはいつだって悩みの種だ。手は打ってんのかい」
テーブルをバシンと叩く音が、モニターを通して篠崎側に響いた。
「もちろんです。そのための門番と娘です」
老人たちは揉み手をして婆の機嫌をとる。
河部組は、建設業と健康食品事業の二本柱で急成長を遂げた会社だった。健康食品事業は、建設業に興味がなかった敏枝が会社での居場所確保のために始めた事業だったが、これが当たった。特に、美容にもよいとの触れ込みで展開したウォーターサーバーが好調だった。事業を立ち上げた時は、水の綺麗な熊本で飲料関係が売れるものかと揶揄《やゆ》されたが、創業者の娘という立場を使って周りを黙らせ、強引に推し進めた。結果として、会社を支えるまでの規模になったのだから、敏枝の権力は絶大なものとなった。今では、河部組の会長だ。
その婆が言う。
「もっと金が要るわねえ」
「お任せください」
老人たちは揉み手をし続けた。

出田秀は泣きじゃくりながら走っていた。手には何枚もの紙を掴んで。
何でこんなことに。お父さんは大丈夫かな。
父が洞へ出かけたその夜、秀のケータイが鳴った。
ーー秀、すまない。今から言う人の指示で動いてくれ。
ーー何? お父さんどうしたの?
ーー本当にすまない。篠崎努という人だ。篠崎家にばれないように。清藤、蔵谷にも。
ーー何で? お父さん今どこなの?
ーーすまない。今は話せない。
そういって通話は切れた。そして翌朝、篠崎努を名乗る男の人が出田古書店に現れ、一枚の写真を渡してきた。
ーーこれを清藤の弟に見せろ。そして、清藤、蔵谷が龍の地図の洞にくるよう仕向けるんだ。仕向けたあとは、これを回収して俺に連絡を。
ーーお父さんはどこ?
ーー洞のことが全て終わったら会わせる。それまで俺の言うことを聞いてくれ。
そっと頭を撫でられた。
ーーこんな子どもだったか……。巻き込んですまない。
秀は走りながら、篠崎努へ電話した。

(続く)


この作品は小説投稿サイトエブリスタに載せていたものです。

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