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ノケモノの地下城 12【長編小説】

耕造は頭を降って、悪夢のような記憶を振り払うと、言葉を絞り出した。
「芝居もいいかげんにしろ」
老人たちは素知らぬ顔をしている。
「なんだ急に」
「どうせ努を焚き付けたのはあんたたちだろう。自由がどうとか言ってるが、本心は違う。河部と取引を始めたときから感じていた。あんたたちは金のことしか考えていない」
「何を根拠にそんなことを。だいたい、なぜわしらが努を焚き付けると」
「努が進めていた水脈解放計画、あれは金にならない。あんたたちの計画の邪魔になると思ったんだろう」
「耕造、さっきからお前、金、金と。なぜわしらが金だけで動いていると? お前だって金が必要だと思ったから河部との取引に賛成したんじゃないのか」
老人たちが頷く。
「違う。俺が河部の、水のことを許したのは……」
あの娘がいたからだ。
少女が振り返る。喜んで水を受け取る姿。私に微笑みかける足の不自由な娘は、あれは……。
「とにかく、努を探し出す。耕造、お前は少し頭を冷やせ」
「そうだ。お前は少し休んでいろ」
老人たちは口々に耕造をこの話から遠ざけようとした。
「また、牢に入りたくないだろう」
その一言が余計だった。
「黙れっ」
耕造は立ち上がり掴みかかったが、すぐに周囲の老人に取り押さえられた。老人とはいえ、篠崎の者はみな人間離れした体躯をもつ。
「まったく、お前もあの水脈と同じで不安定な生き物だ」
取り押さえられた耕造は、こめかみに青筋をたてて叫ぶ。
「あんたたちじゃ、洞も水脈も守れない。あの娘も努も、あんたたちに……」
取り押さえていた老人の一人が、喚《わめ》く耕造の頭に壺を振り下ろした。ゴツン、と鈍い音がして静かになった。
「お前はすぐ血がのぼる」
「私たちもな、洞のことを思っている」
「さて、蔵谷の息子に報せを。河部の婆さまには開始の合図を」
老人たちが笑った。
洞の天を見上げて、笑った。

(続く)


この作品は小説投稿サイトエブリスタに載せていたものです。


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