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ノケモノの地下城 25【長編小説】
衣川洋子は、清藤亜紀に手を引かれ、段々畑のあぜ道を走っていた。迷路のような洞を出た先は、日が落ちてうす暗くなった山中だった。月明かりが照らす道を、亜紀は一切の迷いなく走り抜ける。
亜紀の一つに結ばれた髪は赤く、左右に揺れるさまはキツネの尻尾のようだった。
「洋子さん、大丈夫?」
亜紀に優しい声でたずねられる。はい、と洋子はなんとか声を絞り出した。
本当は苦しかった。息も上がって、何より足が痛い。ただでさえこの足はまともに動いてくれないのに、ガタガタの曲がりくねった道を走るなんて。
そう思っていたら、急に体がふわりと浮いた。抱きかかえられ、崖から飛び出す。悲鳴をあげる間もなく、地面に降りた。
「洋子さんごめんなさい、ちょっと近道」
亜紀はそのまま洋子を抱えて走った。体の小さな洋子は、背が高く体格のよい亜紀の腕の中にすっぽり収まっていた。
向かう先に、二つの明かりが見える。車が停まっていた。後部座席に押し込まれ、亜紀がドアを閉めると同時に車は発進した。
運転していた蔵谷博人は、バックミラーで洋子を一瞥するとため息をついた。
「あなたが、龍の衣だったのか」
龍の衣。洋子はズキズキと痛む足をさすった。
(続く)
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