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ノケモノの地下城 24【長編小説】
朋広は姉のとなりにいる人物を見て驚いた。
「あ、博人さん。さっき幸人くんが倒れちゃったんで、家に連絡したんですよ」
博人は気難しい顔をして黙っている。空気重いなあ。弟が倒れたって言ってんのに、この人なんで無言なんだよ。少し腹が立った。
幸人くんを病院に担ぎ込んだ直後に姉から電話が鳴った。ナイスタイミングと思い、電話に出ると待ち合わせの場所だけ伝えられ、すぐに切れた。どうしようもないので、その場所に向かうと、一台の車があり、その横に姉と博人さんが立っていた。あたりはもう暗かった。
「姉ちゃんも今までどこ行ってたんだよ。色々聞きたいことがあったんだよ。それから、これはもう聞いてると思うけど、龍の地図が盗まれたってキツネの使いが……」
「朋広、茶臼山《ちゃうすやま》をお願いね」
姉は一歩近づき手を掴むと、そこに事務所の金庫の鍵を握らせた。何のことだか意味が分からなかった。
「いきなり何……」
茶臼山をお願いって。もともと茶臼山は俺がみてる山だ。まだ見習いだが。その地下の洞ももちろん。
「姉ちゃん?」
姉は黙っていた。博人につつかれ、車に乗り込んだ。
「姉ちゃん待って、博人さんもっ」
博人を見るが目を合わせてくれない。エンジンがかかる。
「ねえっ。どうなってんの? 秀の店に来たあのキツネの使いも……」
車のライトが遠ざかってゆく。
置いていかれた。朋広は、鍵を握りしめて、ただ、立ち尽くした。
私が秀ちゃんと事務所に戻ると、暗がりの中でともがソファに座っていた。
「おい、大丈夫か?」
電気をつける。
「幸人くん、そっちこそ」
お調子者の口数の少なさが異様に見えた。テーブルの上には資料が散乱している。
「姉ちゃん、博人さんとどっか行った。電話もつながらない」
私は秀ちゃんと顔を見合わせる。
いったい、何が起こっているんだ。兄貴は亜紀姉ちゃんと行動していたのか?蔵谷、清藤、出田の三家の家長が同時に連絡が取れなくなるなんて。
「そのテーブルの資料は?」
「姉ちゃんが、金庫の鍵渡してきた。何かと思って開けたら、俺も知らない洞の抜け穴の地図がたんまり出てきた」
「そうか。センサーフィッシュのこととか、龍の地図のこと聞けたか?」
ともは、うつむいて首を横にふった。
「どうしよう、幸人くん」
私は、昨日までの威勢はどうしたんだと聞きたくなった。
「とにかく、異常事態だ。地下の状況を調べないと。とも、篠崎の洞まで案内できるか?」
ともは、うつむいたままだったが、なんとか首を縦にふってくれた。
(続く)
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